5話 私、目覚めたら知らない天井でした。俺、人間の平和ボケに頭を痛めます。
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……………?
「ここは?」
どう考えても霊装神殿の最奥じゃない。
あの真っ白で高い天井とは違い、私の見上げている天井は木製のもの。
それに、なんだか身体も暖かい。
これは──
「確か……フトン?」
確か人間の使う寝具で、暖を取るのにも使えるだっけ?
魔族は魔法で暖を取るから、こういう寝具は使わないのよね。
でもフトン、良いわね。
優しく包み込まれてる感じがして、身体だけじゃなくて心も暖まる
そして、布団は人間の寝具。
って事は、もしかしてここ──
スーっと音がし、その音の方に視線を向ける。
そこには、あの人間の少年がいた。
「おはようアストリア」
「お、おはよう。……ねぇその扉、横にスーってなったけど……そんなので大丈夫なの?」
こんな無防備な扉見たこと無い。
魔界では他者がいつ蹴破って入ってくるか分からないから、どんな扉も頑丈な作りになっている。
もしかしたら──人間界の家は他者からの襲撃が少ないのかもしれない。
だとしたら、風の流れ等の環境を重視して、無防備な扉を作っていると考えられる。
戦争中だっていうのに、平和なものね。
「ああ、これは障子って言って……いやそれよりも体調は大丈夫か? あの男、ガルナスだったか? 戦った後に倒れてたけど」
「問題無いわ。それにしても……ここ、何処なの!?」
「ああすまん、流れを追って説明するぞ。アストリアが倒れた後、戦いの衝撃のせいか神殿が崩れ始めたんだ。それに気付いた俺たちは、神殿奥に逃げ込んだ時と同じ様に、アストリアを抱えて神殿を脱出した」
「よく私を抱えたままあの長い距離を走ってこれたわね……」
運が良かった、と苦笑し、彼は話を続ける。
「神殿の外は魔族襲撃の報告を受けた兵士達が大量にいたんだ。アストリアの事は当然聞かれたけど、情報を吐かせるための捕虜だと言ったらすんなり通る事が出来た。因みにここは俺の家、安全だ」
との事。
一つ疑問を覚える。
「人間の兵士はどこまで無能なの? 敵対種族を連れて、現場の中から出てきた子供をろくに調べもせずに帰すなんて。魔界だったら有り得ないわ」
ここでいう魔界は各種族の生息圏内を表すもので、魔界は魔族の活動圏内、人間界は人間の活動圏内といった感じになる。
魔族の住まう魔界では正確な情報を瞬時に取得する為に、不審な点があればすぐに調べられる。
不穏因子を断って、現状を悪い方向に進ませない為には何でもやるのが魔界流ね。
今の人間界はおかしいんだよ、と前置きし続ける彼。
「良く言えば信頼されているから、悪く言えば平和ボケだ」
「へ、平和ボケ? ちょっと待って、今は戦争中よ? それなのに平和ボケってなんなのよ!」
「ま、まあ落ち着いてくれ。取り敢えず良い方の理由から話すから」
……戦争中の平和ボケに良いも悪いも無いと思うけど。
「信頼されているのは、俺が天霧家……って知らないか」
「天霧家!?」
天霧家といえば、力で劣る人間にも関わらず、剣技、槍術、武術と多岐にわたる技で、他種族の精鋭を倒してきた有名な一家だ。
魔界では【柔の天霧】という異名で恐れられている。
まさか彼が天霧家の直系だなんて……考えてみれば、長い距離を走り抜く凄まじい体力、行動に移すまでの取捨選択の早さ。
これ程と技能を並の訓練で見に付けられる筈無いわね。
「知ってるのか?」
「魔界では畏怖の対象になっているわ……ごめんなさい、色々と少し考えさせて」
一旦頭の中を整理する為に、少し時間を貰う。
『窮地を脱したら真っ先に貴方を殺す。貴方は将来的に間違いなく魔族の害になる』
私は彼にそう言った。
天霧家の直系ならば尚更、魔族の害になるから殺さなければならない。
生きてきて10年間、私は魔族にとって有益かそうでないかを判断基準として行動してきた。
でも逃走中に垣間見えたお人好しっぷりを考えると、魔族の害になる可能性は低い……と思う、思いたい。
私自身も彼を殺したくないと思ってしまっている。
さて、これ以上考える時間をとるのは後でいいわね。
この先は話を最後まで聞いてからにしましょう。
「それで悪い方は?」
話題を強引に切り替えて先を促す。
「その前に一ついいか? アストリアの下の名前を教えてくれ。アストリアでもいいが、今更他人行儀過ぎる気がしてな……」
「シャル・アストリア。シャルで良いわ。貴方は?」
「俺は天霧夜。夜って読んでくれ」
別に隠す事でもないしね、すんなり教える。
「了解。平和ボケの理由だが、まあ単純に実感が無いせいだと思う。人間界は周囲が海で囲まれていて攻められにくいし、他種族より科学が発展しているせいで金回りも良い。更には現地戦闘や人間界の警備は殆ど無人の機械だ。戦争中と言っても、人間界の中は戦争前とほとんど変わってない。勿論、一部の人間は直接戦地に行って戦っているけどな」
なるほど。
確かに、私が人間の部隊と相対した時は殆どが機械だった。
魔法の効かない装甲でできていて倒すのに苦労したわね……面倒くさくて大剣で強引にぶった斬ったわ。
「そして、人間は機械に絶対の信頼を置きすぎている。だからこそ、今日みたいな異例に弱い。そういえば、シャルは何処から人間界に入ってきたんだ? あの警備はなかなか抜けられるもんじゃ無いと思うけど……」
「いくら共闘したからといって、そこまで話すと思う?」
「ごもっとも」
私が率いていた部隊は空から人間界へ侵入した。
ちなみにこれは魔界の技術ではなく、人間の技術を魔族が真似たものだ。
何度も繰り返し研究し、何とか実用レベルになったけど、いざ実践で私達が使って、重大な欠点を発見した。
魔界はまたこれから研究のやり直しね。
『人間の技術を奪って解析しえしまえば、力で勝る魔族の勝利は確実』
魔界は総意でこう考え、【ヒコウキ】とかいう空を飛ぶ機械を奪う作戦が立てられた。
そして、その作戦は大失敗。
機体は完全に制圧したものの、魔族が操作室に入った途端、ヒコウキが大爆発。
技術を盗まれないように仕掛けた罠だったんでしょうね。
ざらに知識と霊装だけで他種族と対等に渡り合ってるだけある。この辺りの油断は全くなかった。
この作戦に多大な費用と優秀な技術者をかけていた魔界は大損害を被った。
その後は見かけから作り、人間にはない魔力を利用して、なんとか機体を空を飛ばす事に成功した。
そうして完成した機体に初めて乗り込んだのが私達の部隊だ。
私達へ与えられたミッションは、人間界に空から侵入して霊装神殿を襲撃する事。
戦地に赴く人間は全て霊装使い。
その霊装使いの芽を摘む為、このミッションは遂行された。
そしていざ襲撃しようと人間界に侵入した時、魔界のヒコウキの重大な欠点を発見。
燃料を想定以上に消費してしまい、帰還する分の燃料を残せなかったらしい。
それに気付いた私は、燃料を魔力でカバー出来るか試してみたけど、結果は無駄に終わった。
ちなみにこれに気づいたのは私だけで、神殿を襲撃する前から士気を下げる必要もないと判断して部下には言わなかった。
……もっとも、その部下達は始めから別の事を考えていたみたいだけど。
その後は霊装神殿を襲撃して今に至る。
「ん、どうしたシャル?」
「何でもないわ」
「そうか。……話は変わるが、確かめたい事がある。いいか?」
頷いて返す。
「【共鳴の翼】をシャルに装備した瞬間から、シャルの視点で物を見れるようになった。シャルはどうだ? 少し気になってな……」
「そうね、私も同じよ。尤も、私が気付いたのは戦闘中だったけどね。貴方の視点から戦闘を見てなければ負けていたかもしれない」
「【共鳴の翼】の影響はこれだけじゃないかもしれないし、少し試してみるか……このままじゃお互い不便だしな」
実験ね。
確かに出来れば出来るに越したことはないでしょうけど──
「する場所がないでしょう?」
「ありがたいことに、この家は人間界の名家天霧。家もそれなりにでかい。それに住んでるのは俺と咲だけだから、シャルが何か心配することもないぞ」
「…………」
いくつか引っかかる点があるけど、まあそれは後で聞けばいいわね。
「今からすぐにでも出来るけど……シャル、体調は大丈夫か?」
「魔力を使わないのであれば、今からでも問題無いわ」
「なら多分大丈夫だ。じゃあ行くか」
障子を開けて部屋を出ていく夜を追い、私も布団を剥いで、部屋を出た。
「それにしても……」
「ん?」
「いえ、なんでもないわ」
彼は少しちょっと無防備すぎる気がする。
……何か考えているのかもしれないし、スキは見せないようにしないと。
最後まで読んでくれてありがとね。
にしても、布団って良いわね。
魔界に帰る時が来たら持って帰りたいわ。
(シャル)