2話 俺、生き残る為に1/5を当てに行きます。私、生き残る為に敵対種族に協力します。
俺に抱えられたままのアストリアだが、不思議と暴れる様子はなさそうだ。
抱えた際に大剣を落としてしまったらしいが、特に動じた様子もない。
鎌と魔法以外にも何かしらの対抗手段があると見て良いかもしれない。
(さて……)
まず状況を把握しよう。
神殿の中に駆け込んで分かったことだが、見かけ以上に神殿の中が広かった。
通路は幅は狭いが一直線で、奥までの距離は目測で400m程。
外見でのパッと見よりどう考えても長い。
外見の大きさを錯覚させているのか?
何の為に……?
……まあ、そこは今考えなくても良いか。
神殿内に地面を駆ける音が響く。
鍛えているとはいえ、人一人抱えての全力疾走はなかなかに厳しい。
状況がある程度整理できた所で、俺は腕の中の少女に提案する。
「アストリア、俺と協力してくれ」
こちらをキッと睨むアストリア。
その瞳の中の黒は、酷く濁っているように見えた。
「あなたに何が出来るの?」
「こうやって無様に逃げるくらいしか出来ない。今はな」
「今って、その今が力が必要な時でしょう?」
「お前がここを襲撃した理由はなんだ?」
「人間は霊装が最大の武器。霊装使いを生み出す前に芽を摘…………まさか!」
「そういう事だ」
アストリア達魔族が霊装神殿を襲撃した理由は、霊装の使い手を殺し、早くに芽を摘む為に違いない。
魔法の使えない人間が、他種族を相手にした時の主な対抗手段が霊装。
これがなければまともに抵抗する事は疎か、一方的に蹂躙されるのは目に見えている。
人間と他種族との間には絶対的な壁が存在する。
空気中には【魔素】と呼ばれる謎の物質が含まれている。
その魔素を【魔臓】と呼ばれる臓器を介し、体内の血液を合成して魔力を作る。
魔臓に貯めれる魔力には限界があり、合成にある程度の時間は必要だが、魔法の使用を可能にすると思えば僅かな時間など安いものだ。
魔族は魔臓に加え、魔力溜まりと呼ばれる機関──尻尾と角が存在し、そこに魔力を溜めておくことで魔素を魔力に変換する過程を省略し、いつでも魔法を使える状態をキープ出来る。
要は貯めていられる魔力量が他種族と比べて多い訳だ。
だからこそ、魔力溜まりと魔臓は密接な関係にある。
だがそれに加え魔力溜まりを壊されると、溜まっていた魔力を使用する事は勿論、魔素を魔力に変換させることも出来なくなってしまう。
アストリアが尻尾と角を切り落とされた際に魔法が使えなくなったのはそれが理由だ。
一方人間には魔臓そのものが無く、魔法を使う事は疎か、魔素の変換すら出来ない。
ただ人間は繁殖力が高いために絶対数が多く、科学力の発展が非常に早い。
おかげで何とか他種族にも対抗できているが、それでも霊装の使い手がいなくなれば人間の敗北はほぼ確定と見ていい。
だからこそ絶対数の多い人間が全員霊装を持ってしまえば、他種族にとってそれは大きな脅威になる。
「霊装創造の成功率は二割よ! それに成功したとしても私が貴方のことを殺す。霊装を持ってない10歳の人間が、ここまでの身体能力を持っている。仮に強力な霊装が生み出せてここを突破出来たとしても、その後の魔界にとって厄介な存在になるでしょう?」
「仮に霊装創造が成功したら、ひとまずアストリアの元取り巻き達を倒す所まで協力して欲しい。どちらにせよ、このままなら俺もお前も死ぬんだ。だったら……一縷の可能性に賭ける」
「…………はぁ」
俺の腕をすり抜けて、地面にスッと着地するアストリア。
そして──
「来なさい【真紅の大剣】」
空間に穴を開け、そこから例の大剣を取り出す。
なるほど……こうやっていつでも取り出せたから、武器を置いてきても焦っていなかったのか。
でも魔力溜まりが壊されているから、魔法は使えないはず。
という事は、これは大剣本体の能力なのかもしれない。
そして、その大剣を──
「ふっ!」
目の前で振り上げた。
「っ!?」
──大剣が振り下ろされる
…………俺の真後ろに。
その振り下ろしと同時に、火が掻き消されたかのような音が鳴る。
「何をボサっとしているの! 私がいなかったら、貴方今頃火だるまよ!」
……どうやらアストリアの取り巻き達が、俺達に向かって魔法を放ったらしい。
寧ろ助けてもらったのか。
「ほらとっとと走る! 追い付かれるわよ!」
「お、おう!」
霊装神殿の奥へと走り出すアストリア。
今度は自分で走ってくれるようなので、俺も負担が少なくて済む。
……これは交渉成立で良いのか?
「人間と協力するなんて癪だけど、確かにそうも言ってられない状況ね。…………いいわ、貴方の賭けに乗ってあげる。でも窮地を脱したら貴方を殺す。さっきも言ったけど、貴方は間違いなく魔族の害になるから」
「解決したら全力で逃げるよ」
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うまく不意を突けた事と神殿内が狭かった事が幸いして、進軍に時間が掛かっていたアストリアの取り巻き──魔族達とはかなりの距離が空いていた。
──はずが、今はもう20mもない。
「まちやがれアストリアァァ!」
まだ距離があるようにも思えるが、魔法の基本的な射程は20m程。
つまり、この距離は魔族達の射程圏内。
逃げようにも、子供の脚力で鍛えた大人を振り切るのは厳しい。
「アストリアを殺すのです!【風の銃弾】」
「これでも喰らいやがれ!【氷の槍】!」
「せいっ! らぁぁっ!! ……はぁっ……はぁっ……!」
後ろから飛んでくる魔法を、大剣で弾きながら走り続けるアストリア。
……アストリアの呼吸に余裕が無くなってきている。
「大丈夫か!」
「全然、大丈夫よ!」
俺は魔法を弾く事はできない。
……心苦しいが、ここはアストリアに任せるしかない。
(どうにか出来ないか……)
考えていると──
「皆さん、力を合わせましょう。私に魔力を」
「あぁ!? 俺にやらせろよ!」
「それは出来ませんね。ガルナスさんには協調性がありませんから」
「お? やんのかごらぁ?」
突然、魔族達が仲間割れを始めた。
──チャンスだ。
「アストリア、今の内に距離を稼……っておいおいおいおい!?!?」
アストリアは大剣を構えていた。
その構えから導き出される次の行動。
それは──
「らぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
──大剣の投擲。
「な、【物理防御】!!!」
魔族達のリーダーはすぐさま大剣の存在に気付き、即座に防御魔法を展開する。
反応が早い、腐っても精鋭だ。
だが風切り音を立てながら回転しながら飛んでいく大剣は──
「くっ、まずいです!」
──防御魔法すらも切り裂く。
防御魔法を撃ち破った大剣はそのまま敵の大群に直撃。
狭い空間で放たれる大剣に避ける術は無い。
「「「「「ギャァァァァ!!!!」」」」」
悲鳴と共に、神殿の一部が崩れて道が狭まる。
これなら敵の進軍もかなり遅くなるだろう。
(ナイスだ、アストリア!)
だが──
「ハァ、ハァ…………魔法が使えれば、もっと簡単に、倒せるのに! ……ごめんなさい、すぐに立つわ……ゲホッ……」
「…………」
流石に限界だろう。
それに『魔法が使えれば』、ね……
「よっ、と」
「わ、ちょ、また」
アストリアの体力は厳しいかもしれないが、敵がいつ進軍を再開するかは分からない。
彼女には悪いが、再びお姫様抱っこで走る。
「あり……」
「ん!?」
「な、なんでもないわよ!」
何かを言っていたが、俺が変なタイミングで返答してしまったせいで良く聞き取れなかった。
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それから、何とか神殿の最奥に駆け込む事に成功した。
既に最奥にいる咲と合流する。
「おにいちゃん! ……その、かかえている人って、あの?」
「ハァ……ハァ…………あぁそうだ。でも今は協力関係にある。……っと、ともかく霊装を創らないと。咲、アス……この人の事見ていてくれ!」
「あ、おにいちゃん!」
神殿の最奥は、白を基調とした大きな空間だった。
その大きな空間の更に奥を見る。
するとそこは、小さな別の空間になっていた。
聞いた話だと、この小さい空間の奥に大きな水晶玉があるらしい。
その水晶に触れる事で魂が事象化し、それが実際の霊装になるとか……
失敗したら賭けは失敗。
俺も咲も、アストリアも死ぬ。
1/5──命を賭けるには随分と厳しい確率だが、可能性は0じゃない。
俺はその小さな空間に入り──
「あった!」
そこで水晶を発見。
意を決して水晶に触れる。
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「ここ、は?」
気が付くと、俺は宇宙のような空間にいた。
「不思議な空間だな……」
そんな不思議な空間に、一つの翼が浮かんでいた。
「これが霊装か……ん?」
もう一つ何かが浮かんでいた気もするが、まあ気のせいだろう。
今は見えなくなってしまったし、霊装は魂の事象化。
二つも存在するはずがない。
「さてと……」
純白で大きな翼。
翼に触れると、その翼の名前が頭に流れ込む。
名前だけじゃない。
能力の詳細も──
「これは凄いな……」
能力の詳細を確認した俺は苦笑を隠せない。
「さっき殺されそうになったって言うのにな……俺はいつからこんなお人好しになったんだ? なんにせよ、これなら状況を打破出来るかもしれない」
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【共鳴の翼】
[能力]
・飛行
・魔力溜まりを精製
・特定の魔族一人に装備可能、装備解除不可。背中に触れる事で、その魔族に装備される。自身は装備不可。
・体積の伸縮可能(0.001倍〜1.00倍)。大きくする程、他の能力に+補正。
・破壊不能
・???? ets……
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やがて翼が白く輝き、その輝きがこの不思議な空間を包み込んだ。
──1/5
俺はそれを勝ち取った。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
ブックマークの数やPV数の伸び、本当に励みになっているから、是非、これからもよろしくお願いします。
(夜)