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5話

 「良い? 大丈夫だと思うけど、今度知らない魔物を見つけたらすぐに逃げて」

 

 「わかってます、僕ももう怖い思いはしたくないので」

 

 翌日、師匠に何度も注意を繰り返されながら、昨日グレンさんたちとした約束を果たすため、ギルドのある町へと向かった。

 結局、昨日の一件のせいでギルドからの依頼はまだ未達成のため、二度手間になってしまうがこればかりはしかたない。

 自分たちの住む近くであんな得体の知れない物がいる以上、それをどうにかするのが一番優先だろう。

 

 「今日はもうあんなのと出くわしませんように……」

 

 昨日の恐怖を思い出し、ぶるりと背中を震わせる。

 一晩明けて思い返すと、なんて無謀なことをしていたのかと自分の無鉄砲さに呆れ返るばかりだ。

 

 昨晩、このあたり一帯は師匠が偵察してくれたので、一応危ない魔物はもういないはずだった。

 とはいえ念のため、細心の注意を払って村へと向かう。

 

 「この辺りをこんなに怯えながら行くのは初めてだな……」

 

 いつも見慣れた風景のはずなのに、どこか知らない場所に思えてくるほどだ。

 得体の知れない恐怖というものの恐ろしさは、思った以上らしい。

 

 少し歩いてようやく町が見えてきて、ほっと一息つく。

 いつもは騒がしいと感じる人々の喧騒が今は頼もしい。

 

 見知った商店の人たちに挨拶しながら市場を通り抜け、ギルドへと急ぐ。

 ちなみに商店の人たちに顔を覚えられているのは、もちろん買い物なんてろくにできない師匠の代わりに買い出しは全て僕が行っているからだ。

 

 ギルドに着くと、いつもよりも中が騒がしい。

 険しい顔をした人が何人も、ギルドの受け付けで顔を寄せ合って相談事をしていた。

 

 「あの、ちょっと通してもらっても良いですか」

 

 その中に昨日一緒に戦ったグレンさん達をみつけ、人の壁をかき分けて近づいていく。

 

 「こんにちはグレンさん。約束通り来ました」

 

 「あぁハルか、来てくれて助かる。実は昨日ギルドに報告しに来たら、俺たち以外にもエビルアイに遭遇し奴らが何人かいてな。いまちょっと騒ぎになってるんだ」

 

 困ったもんだとしかめっ面で言うグレンさんの言葉に、僕もおもわず唾をごくりと飲み込む。

 

 「そちらが昨日エビルアイに遭遇した最後の一人ですね」

 

 僕がグレンさんと話していると、メガネをかけた一人の女性が近寄ってきた。

 僕もよくお世話になっているギルドの受け付けをしているリエナさんという人で、たしか冒険者の安全管理も担当していたはずだ。

 

 「あら、アイラさんのところの子ですか。たしかハルさんでしたね。大体の話はグレンさんから聞きましたが、確認のためあなたからも話を聞かせていただいてもいいですか?」

 

 「わかりました、えぇと……」

 

 昨日あったことをかいつまんで話し、遭遇した時にはすでに戦闘が始まっていたこと、割って入りグレンさん達と強力してエビルアイを倒したことなどを話す。

 

 「なるほど。大体聞いた話と同じようですね。他に何か気がついたことはありますか?」

  

 「いえ特には。……あの、僕ら町外れにすんでるんですけど、他にもエビルアイが出たっていうことはあの辺も危ないんでしょうか」

 

 家には一人師匠を残している。

 師匠のことだから万が一魔族に襲われたとしても返り討ちにしそうだが、やはり心配だ。

 それに僕もあの辺りに住むものとして、こんな話を聞かされてしまっては安心して外出もできない。

 

 「昨日までなら、避難をおすすめしました。……ですが、いまは少し話が違います」

  

 そう言ってリエナさんは、ここ周辺の地図を取り出した。

 

 「エビルアイの目撃情報はこの辺り一帯でいくつか上がっています。そしてギルドは急遽、目撃情報が集中した中心部に偵察を放ちました」

 

 地図には大きな赤い丸と、バツ印が書き込まれている。

 おそらくは丸の内側が目撃情報があった範囲、バツ印の場所が偵察を行ったところなのだろう。

 

 「結果、エビルアイを発見することはできませんでしたが、膨大な魔力の残滓を検出しました。まちがいなく、この地点に巣を作っていたようです」

 

 「でも、そこには何もいなかったんですよね?」

 

 僕の言葉にえぇとリエナさんは頷いた。

 

 「加えて今日になってからは一体も目撃情報が上がっていません。考えられるのは二つ、目的を果たして撤収したか、ごく短時間に誰かの手によって殲滅されたかです」

 

 「殲滅って、そんなことが……」

 

 昨日実際に戦ったからわかるが、あれは一体でもかなりの強さだ。

 そんな魔物が救っている巣を誰にも気づかれず短時間で制圧するなんて、信じ難い話だった。

 

 「無論ギルドもその可能性は低いとみて、前者のラインが濃厚とみています。彼らが何を偵察していたのかはわかりませんが、警戒状況を強めて様子を見るしかないというのが現状です。なんにせよ、いますぐに何かしらの危険があるというわけではありません」

 

 少し後味が悪いけれど、とりあえずもうこの辺りにあの魔物はいないとわかった。

 完全に気を抜けはしないけれど、ちょっとは安心しても良さそうだ。

 

 「あ、そうそう。ちょうどいいので一つ言伝を頼んでいいですか?」

 

 「言伝ですか?」

 

 「はい、アイラさんにちょっとギルドまで顔を出して欲しいと伝えて欲しいのです」

 

 師匠に? と首をかしげる。

 師匠の強さはこのギルドでもかなりのものなので、非常時ということで協力を仰ぐのだろうか。

 

 「わかりました、伝えておきます」

 

 リエナさんに了承を伝えると、彼女はありがとうございますと頭を下げ、また別の冒険者の元へと事情を聴きに向かった。

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