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3話


 ギィン!という鉄と鉄がぶつかりあうような音があたりに鳴り響く。

 五感強化を使わなくても音が聞こえるほどの距離までたどりついた。

 

 「なんだ、あれ……」


 木々を抜け、開けた視界の先に見えたのは、四人の討伐者らしき人影と、不気味な触手の生えた丸い目玉。

 このあたりの魔物は全部把握しているつもりだったけれど、あんな異形はみたことがない。

 

 『知らない敵ほど怖いものはないよ。敵の強さがわからない時はすぐ逃げなさい』

 

 師匠の教えが脳裏をよぎる。

 まだ討伐者たちにも、魔物にも気づかれてはいないようだ。

 逃げ出すなら今しかない。

 

 「ぐぅっ!」

 

 そんなことを考えているうちに、くぐもった男の叫び声が討伐者たちの方から聞こえる。

 どうやら目玉の攻撃を捌ききれず、触手に肩を貫かれたようだった。

 

 「グレン!」

 

 仲間の討伐者から、悲鳴にも似た声が上がる。 

 目玉がトドメを刺そうと別の触手で男の頭を貫こうと振りかぶった。

 

 「投!擲!」

 

 考えるより早く身体が動いていた。

 強化した腕で、持っていた剣を目玉に向けて全力で投げつける。

 一直線に飛ぶ剣は、槍のように猛然と男を狙う目玉へと向かっていった。

 馬鹿でかい目玉だけあって視界が広いのか、すぐに自分に向かってきている剣の存在に気付き、構えていた触手でとっさに弾き飛ばされる。

 その隙に距離を詰めた僕は、弾きとばされた剣を片手でキャッチし、空いたもう片方の手で肩を貫かれた男を目玉の攻撃範囲の外へと放り投げた。

 

 討伐者たちと目玉の間に立ちはだかるような形になり、邪魔をされたとばかりに心なしか目玉が睨んでいる気がする。

 まぁ目玉しかないから表情なんてわからないんだけど。


 「えっと……じゃあ僕はこれで」

 

 逃げるつもりだったのにどうしてこんなことになってしまったのかと後悔しつつ、何も見なかったことにしてその場を立ち去ろうとする。

 しかしもちろん逃がしてくれるはずもなく、攻撃対象を僕に変更した目玉が触手を槍のように突き出してくる。

 いっぽ下がって触手の攻撃を避けると、目玉が警戒するようにこちらを見つめてきた。

 

 「すまん少年! 回復する少しの間だけ持ちこたえてくれ! リズ! レイス! その少年を援護してやってくれ!」

 

 僕に放り投げられたおじさんが、肩の怪我を仲間の一人に治療してもらいつつそう叫ぶ。

 残りの二人も僕の援護をしようと杖と弓を構えた。 

 

 「さすがにこれは逃げられないよなぁ……」

 

 早速師匠の言いつけをやぶることになってしまったが、こうなったら仕方ない。

 戦う覚悟を決めて剣を構える。

 

 『知らない敵とどうしても戦わなきゃいけない時は、とにかく観察をすること』

 

 師匠の言葉通り、攻めは捨てて守りに徹し目玉の出方を伺う。

 こちらから攻撃してこないと悟ったのか、目玉は八本の触手を使って串刺しにしようと襲い掛かってきた。

 

 「動きは単調、攻撃も単純。手数は多いけどこれなら……」

 

 見た目に反して硬い触手を剣で弾きつつ、攻勢に転じようかと機会を伺う。


 「気をつけろ! そいつの攻撃はそれだけじゃない!」

 

 と、おじさんが叫ぶと同時に、目玉の前に魔法陣が浮かび上がった。

 嫌な予感に従うままに、目玉の直線上からとっさに身を投げ出す。

 その直後、さっきまで立っていた場所めがけて紅い稲妻がほとばしった。

 転がったことで隙ができた僕めがけて、触手が襲いかかる。

 

 「私たちを忘れてない!」

 

 しかしその攻撃が届く前に、リズと呼ばれていた討伐者が放った魔法が触手を焼いた。

 さすがにダメージがあったのか、目玉の動きが少し鈍る。

 その隙をついて、もう一人の討伐者、レイスが放った矢が眼球に突き刺さった。

 

 「ありがとう! 助かったよ!」

 

 痛みにもだえるように、目玉があたりの地面を触手で叩きつける。

 その間に体制を整えて、再び剣を構えなおした。

 

 「おじさん! 他に特殊な攻撃はあった!?」

 

 僕の問いかけに首を振って答えるのを確認した後、気を引き締めて今度こそ攻撃に転じる。

 連発はできないのか、再び触手での攻撃に切り替えた目玉の連撃をさばきつつ、じりじりと距離を詰めていく。


 「師匠の拳の半分以下の速度の攻撃じゃ、僕にはあたらないよ!」

 

 頭で思うより早く、日々の修行で身についた動きを体がなぞり、徐々に目玉の攻撃をおさえ込み始める。

 このままではジリ貧だと思ったのか、目玉は触手を地面に突き刺し、その反動で大きく後方へと距離をとった。

 再び向かい合った目玉の表面には、さきほど見た魔法陣が浮かび上がっている。

 

 「でもそれは予測済み!」

 

 さっきの一撃で攻撃の軌道は確認しているので、横に体をそらし剣で体を庇いながら目玉へ向かって駆け抜けた。

 師匠が僕のために作ってくれた対魔の力を持つ剣と、目玉が放つ紅い稲妻が擦れあってギャリギャリという耳障りな音を立てる。

 けれど僕の体までその攻撃が通ることはなく、ついに魔法を放ち終えた目玉はその反動で大きな隙ができた。

 

 「これでもくらえっ」

 

 魔力を込めた一撃を、無防備な目玉へと叩き込む。

 静かに振動する僕の剣は、目玉を粘土のように切り裂いていった。

 胴体の半分を切り裂かられた目玉は、傷口から黒い煙のようなものを吹き出して空気の抜けた風船のようにしぼんでいく。

 そして最後には、跡形も残らず黒い靄として空気の中に溶け込んで胃しまった。


 

 *************************************



 「ミツケタ、ミツケタ」

 

 辺りにはゲタゲタと下品な笑いが鳴り響く。

 音の発生源は確認するまでもない、眼下でうごめく巨大な口だ。

 その口を守るかのように、無数の巨大な目玉がさまよっている。

 

 「いつみても悪趣味」

 

 魔族軍偵察兵、エビルアイ。

 そしてその統率者であるエビルマウス。

 戦争時代幾度もみたその姿をしっかりと認識する。

 エビルアイの数はざっと二十体、エビルマウスは一体。

 普通の討伐者なら討伐隊を組むレベルなんだろうけど、私の相手にはならない。

 

 「随分と嬉しそうだけど、誰を見つけたって?」

 

 敵の勢力を把握した私は、剣をしまったまま、エビルマウスの前へと踊り出す。

 ハルの存在を気取られた以上、生かして返すわけにはいかない。


 「オマエハ」

 

 一閃。

 エビルマウスが何かを口にする前に、鞘から抜きはなった薄青の刀身がその禍々しい口形の魔物を真っ二つに切り裂いた。

 統率者を失ったエビルアイは、目の前にいる私を標的とみなしたようで一斉に魔法を放つ。

 辺り一面が幾筋もの紅い稲妻によって塗りつぶされた。 

 

 「邪魔」

  

 その稲妻を振り払うように私は手にした剣を大きく振り払う。

 同時に展開された魔法陣が、私に向かって殺到する魔法を結晶化させ、まるで水晶でかたどられたイバラのようにエビルアイに向かって伸びていく。

 自分が放った魔法をつたいくる水晶のイバラに抵抗する暇もなく、全てのエビルアイは自らの魔力を結晶化させられ、体の内側から串刺しにされていった。

 

 たった数秒で生命の息吹が完全に潰えた魔物の巣窟を、あくびをかみ殺しながら後にする。

 

 「……部屋の片付けしてる時間ないかも。ハルに怒られちゃう」

 



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