小太郎 秘密 基地
「小太郎!」
「ん?あぁ〜〜!あんちゃん!」
「やっぱり 小太郎か!」
「晶ちゃん この人 俺のあんちゃんだ!」
「こんにちわ」
「あぁ こんにちわ」
「太郎ちゃんの親戚の人?」
「違うよ!俺の師匠だ!」
「え〜〜ん!母ちゃ〜ん」
「どうした?坊主」
「え〜ん え〜ん…」
「泣くな!」
「…ヒクッ…ヒクッ」
「転んだんだな…なんだこんなの 唾つけとけば治るぞ!これで大丈夫だ!」
「お兄ちゃん…ヒック…ありがとう…」
「坊主 名前は?」
「…ヒック…小太郎…」
「小太郎か!俺の事は あんちゃん って呼べ!」
「あんちゃん?」
「そうだ!あんちゃんだ!にいちゃん じゃなく あんちゃんだ」
「あんちゃん…」
「そうだ!小太郎!あんちゃんだ!」
「あんちゃん!」
小太郎がまだ3歳になったばかりの頃
あんちゃんは年長さんだった
「小太郎!遊びに行くぞ!」
「あんちゃん来た!母ちゃん遊び行ってくるね」
小太郎は あれ以来 あんちゃんといつも一緒にいた
「あんちゃん 今日は何して遊ぶの?」
「今日は 釣りに行くぞ!」
「えっ?母ちゃんに川に行っちゃダメって言われてるよ…」
「俺が一緒だから大丈夫だ!」
「そうなの?」
「小太郎 これ持ってろよ」
「あんちゃん なんかビクビクなったよ」
「よし!あげろ!」
「おぉ!あんちゃん お魚釣れた!」
「やったな小太郎!」
「僕が釣ったんだよね!」
「そうだぞ!小太郎スゴイなぁ!」
「やった〜!」
「小太郎!今日は神社行くぞ!」
「あんちゃん 僕 あそこ暗くて怖いよ」
「小太郎は怖がりだなぁ!俺が一緒だから大丈夫だ!」
「小太郎!ほら来てみな!」
「おぉ!あんちゃん ここすごいな!」
「だろ!秘密基地だぞ!」
「へぇ〜〜!」
「俺と小太郎 2人の秘密基地だ!」
神社の境内からちょっと奥に入ったところに それ はあった
ゴン!
「ヒクッ…エ〜〜ン エ〜〜ン」
「馬鹿だなぁ小太郎は 頭を低くしないとぶつかるって さっき言ったろ!」
「エ〜〜ン エ〜〜ン」
「全く…小太郎は泣き虫なんだから 俺ん家近いから一緒に来い!」
「ばあちゃ〜ん!」
「なんだい?」
「こいつ 小太郎!頭ぶつけて泣いてんだよ」
「あらあら ちょっと待ってなね」
「ちょっとおいで」
あんちゃんのばあちゃんは 小太郎の頭に 砂糖をつけた
「こうすると 砂糖が熱を吸って 腫れがひけるからね」
「…ヒック…ヒクッ…ありがとう…」
「小太郎は泣き虫だなぁ」
「僕だって あんちゃんくらいになったら泣かないもん」
「言ったなぁ!」
「うん 泣かない」
「あんちゃんは ばあちゃん居ていいなぁ」
「小太郎は ばあちゃん居ないのか?」
「居ない…」
「でも 小太郎には母ちゃんが居るだろ!」
「うん 父ちゃんも」
「俺には 父ちゃんも母ちゃんも居ない」
「えっ なんで?」
「父ちゃんも母ちゃんも…にい…あんちゃんも死んだのさ」
「死んだ?」
「あぁ 事故で死んだ…だからばあちゃんと2人暮らしだ」
「母ちゃん達いつ帰ってくるの?」
「もう帰って来ないさ」
「あんちゃん 寂しい?」
「寂しくなんかないやい!」
あんちゃんの頬を涙が伝うのを小太郎は不思議な気持ちで見ていた
それからしばらくして
あんちゃんが来なくなった
「おかしいなぁ?あんちゃん なんで来ないんだ?」
もう今日で3日になる
「母ちゃん ちょっと行ってくる」
「小太郎1人でどこ行くの?」
もう小太郎の姿はなかった
「あそこに行けば あんちゃん居るはずだ」
「あんちゃ〜〜ん!」
秘密基地に来た小太郎
「あんちゃん 居ないのか?」
ゴンッ!
「…ヒック…泣く…もんか…」
「あん…ちゃん…どこ…行ったんだよ…」
「あんちゃん家に行ってみよう!」
あんちゃん家に着くと大勢の人が居た
その人混みの中を3歳の小太郎は掻き分けて入って行く
「あっ!あんちゃん居た」
「あんちゃ〜…」
あんちゃんは大人達の先頭に座り
泣いていた…
小太郎は あの あんちゃんが泣いている それだけで声をかけられず あんちゃんを眺めていた
やがて 周りがざわつき 座っていた 大人達も立ち上がり始まる
あんちゃんは 庭で見つめる視線に気づく
「小太郎…」
「あんちゃん どうしたんだ?」
「小太郎 遊んでやれなくてごめんな」
「なんかあったのか?」
「ばあちゃんが…」
あんちゃんは また 頬を光らせた
小太郎は何も言わず あんちゃんの手を力いっぱい握り あんちゃんから目を晒していた
「小太郎 明日また来い!」
「うん」
「んじゃ 秘密基地でな!」
「わかった!」
次の日
「あんちゃ〜ん!来たぞ!」
「小太郎!入って来い!」
「おぅ!」
ゴンッ!
「くぅ〜!泣くもんか…」
「ふっ 小太郎偉いぞ!」
「こんなの痛くないやい!」
「小太郎 ここは俺と小太郎 2人の秘密基地だ!」
「そうだ!」
「今日から ここの防衛を小太郎に任す!」
「おぅ!あんちゃん 防衛ってなんだ?」
「そっか…う〜んと…小太郎がここを守れ!」
「おぅ!俺 がここを守る!」
「小太郎!ここは俺と俺のにい…あんちゃんの秘密基地だった!」
「そうだったのか?」
「そうだ!あんちゃんが居なくなってから俺が守って来た!だから 今度は小太郎が守れ!」
「あんちゃんは何するんだ?」
「俺は…」
「うん」
「俺は…明日から…ここには来れない!」
「えぇ〜!なんでだよ!」
「小太郎!俺は おじちゃんと一緒に暮らす事になった!」
「なんで?」
「この前 ばあちゃんも…」
「あんちゃん 遠くに行っちゃうの?」
「そうだ…」
「…」
「なんだ小太郎…泣いてんのか?」
「…泣いて…なんか…ないやい!…」
「そうだ…小太郎…男の子は…泣いちゃ……泣いちゃダメなんだ!」
「あんちゃんだって…」
2人はしばらく泣いた…
まだ 6歳と3歳…
どこかが痛くて泣いているのではない
怒られて泣くのではない
親友として 別れが哀しくて泣いた…
「小太郎!俺も小太郎くらいの時はよく泣いていたんだ」
「あんちゃんが?」
「うん その時必ず にいちゃん が 男の子なら泣くな!って」
「あんちゃん…あんちゃんはにいちゃんが好きだったんだな」
「にいちゃんは 俺の 師匠 だった」
「師匠?」
「俺は 小太郎と遊んだ事 全部にいちゃんに教えられた事だ」
「んじゃ あんちゃんは 俺の師匠だ!」
「そうか?俺は 小太郎の師匠か?」
「うん!師匠!」
「小太郎 元気でな!」
「あんちゃんもな!」
あんちゃんがおじちゃん家に行く日
「小太郎 泣くなよ」
「あんちゃんもな」
「俺は 泣かない!」
「俺も泣かない!」
2人は笑顔で 頬を濡らしていた
「あんちゃん!今日はどうしたんだ?」
「ちょっと ばあちゃんの御墓参りに来たんだ」
「そっか!」
昔は 小太郎も泣き虫だった…