甘ったれな休日
休みの日には基本的に引き篭もりになる。
元々引き篭もり体質で、学校にだって出来れば行きたくなくて、もっと言えば、出席日数が足りてるならサボってもいいだろ精神を持つ。
そんな訳で、今回の休みも部屋に引き篭ってテレビ画面と睨めっこをしていた。
「あ、ボク、あったかいミルクティー飲みたい」
「……お前なぁ」
立ち上がった幼馴染みの気配をいち早く察知して声を掛ければ、大分高い位置から溜息が落とされた。
テレビ画面から視線を上げれば、こちらを見下ろす幼馴染みがいて、緩く首を傾ける。
既に空っぽになったマグカップを押し付ければ、渋々といった様子で部屋を出ていく。
本来なら今日だって一人で映画鑑賞をする予定だったのだが、昨日のうちにレンタルショップへ行ったのがこの現状を作った原因だった。
学校から帰宅して、わざわざ私服に着替えてレンタルショップへ行ったところ、未だに制服姿の幼馴染みと会ったのだ。
普段なら会ったところでどうということもないのだが、その日借りようと、見たいと思っていた映画は、幼馴染みも同じだったようで、ならば一緒に見ればいいとなった訳なのだが。
まぁ、幼馴染みだからこそ、そう簡単に事が運ぶのだろう。
リモコンに手を伸ばし、流れていく映像を止める。
それから映像を少し巻き戻して、幼馴染みが立ち上がった辺りで止めておいた。
テーブルに広げたノートを捲りながら、先程までの大凡の内容をぼんやりと見つめる。
周りからは異質と取られることが多いが、映画などを見る時には大体ノートを広げて、粗筋などを書いていく。
分かり易い例だとミステリーだろうか。
ああいうものを見て、どの人物が何処でどのように動き、どんなことを口にしたのかなどをメモして、最終的に自分で推理を立てるのだ。
映画を深く見ているのかと問われれば疑問だが、ここはこうした方が自分好みだ、とか、自分がよりその作品を吸収しやすいようにしている。
ノートを見つめていると、器用にも片手にマグカップを二つ持った幼馴染みが戻って来た。
そのマグカップからは、二つ揃って白い湯気が立ち昇っている。
「わーい、有難う」なんて、抑揚のない声で言えば、マグカップを押し付けてくる幼馴染み。
両手でそれを受け取ってしまったので、リモコンが取れなかったが、定位置であるボクの隣に腰を下ろす幼馴染みが、マグカップを持つ手とは逆の手でリモコンを手にして、映像を再度回し始める。
物語は中盤を超え、起承転結で言えば転に差し掛かろうとしていた。
この監督の作品は過去のものも見ていて、気に入ったものもいくつかあるが、今回の最新作は原点回帰とも言えるものになっている。
初期のものが好きだったので、楽しめるが、最後が読めないので自然と前のめりになってしまう。
「ブツブツ煩い」
マグカップに口を付けた状態で幼馴染みが、厳しい声を出すので視線を向けてしまう。
すると、テレビ画面ではなく、ボクを見ていたらしく直ぐに目が合って瞬きを繰り返した。
そうしたら、マグカップをゴトリと出していたローテーブルに置いた幼馴染みが、何を思ったのか、そのまま手を伸ばしてボクの頬を掴む。
決して戯れるような、優しさのある掴み方ではなく、手の平で両頬をガッツリ、だ。
「お前、黙ってれば良いのにな」
「え、何が?顔?」
ぶにゅーっと頬を押し潰され、自然と唇が突き出すにも関わらずその言葉に疑問をぶつける。
返ってきたのは肯定なのは、言うまでもないだろう。
「オミくんの審美眼ヤバいね」
ウケる、とちっとも笑わずに言えば、テレビ画面の中では、主人公の親友が裏切り者だったと発覚していた。