黒い雷光
かつて、シルグムント共和国には各国を守護するため15の騎士団が存在した。
中でも第9騎士団は、黒備えと数々の勲功から「漆黒の騎士団」と称され、隊長
のガームベル・イブリスは光速剣の使い手で「黒い雷光」との異名を得ていた。
しかしシルグムント戦役時、漆黒の騎士団は数万にも及ぶ妖魔軍に対し1,000の
騎馬隊でエンドアの国境を守るも最後は退路を断たれ戦場の露と消え去った。
-----------------------------------------------------------------------------
夫婦らしき男女と少女が闇の中を進んでゆく。
「頑張るんだ、もうすぐ国境を越えられる」
そこにナイトスコープを付けたウーヌスの兵士達が立ちふさがった。
「ストーップ!ゲームオーバーだってばよぉー」
「げへへ・・・イカ腹娘・・・(じゅるり)」
血走った兵士たちの後で、蛇のような目をした青白い男が不気味に微笑みながら尋ねた。
「伯爵。こんな夜更けにどちらにお出かけですかな?」
「き・・貴様・・・何故ここに?!」
「ふふふ・・・亡命とは尋常ではありませんなぁ」
男が指を鳴らすと、兵士たちは乱暴に伯爵を拘束した。
「あなたっ!」
「お父様ぁー!!」
「うるせぇってばよ~ぅ」
「ぐへへ・・・隊長。この女、オデがもらっていいっすかぁ~?」
「お前ほんとロリコンだな。まぁ、俺は嫁のほうもらうから好きにしたらいいってばよー」
「あざーーーーっす!」
そのとき黒いローブ姿の男がふわりと兵士の間に舞い降りた。
「あぁ~ん?あんだ、てめぇ?」
金髪にレイバンのサングラス。頬に無数の傷をもった男はそれに答えず
ゆっくりと伯爵の元へ歩みだした。
「て、てぇんめぇ~!ぶっ殺してやるってばよぉーっ!」
兵士たちは男を飛び掛ったが、その場にもんどりうった。
「あ・・あぁ!?・・足が・・足がな・・無ぁぁ~なぁ~い~ってばよぉ~!」
蛇の目の男が立ちはだかる。
「クククッ、まだ生きていたとはなぁ。シルグムントの亡霊は消えるべきですなああああああぁぁぁぁっ!!」
男の目が琥珀色に輝くと、巨大な大蛇の姿に変身した。
黒いローブの男は、サングラスを投げ捨て漆黒の魔剣を構えた。
サングラスの下からは。碧く透き通った少年のような清らかな瞳が現れた。
――― キィィーーーーンッッ!
漆黒の魔剣が唸り声をあげ、刀身に掘り込まれた白十字がまばやく光を放つ!
「黒い雷光おぉっ!!マナの力を得た私に勝てると思うなッ!!」
大蛇の首が7つに別れ、黒い雷光の喉笛に襲い掛かかる!
――が、次の瞬間7つの大蛇の首が宙を舞った。
「女神ウルディアの加護りあれ」
男は漆黒の魔剣を鞘に収ると目を開いた。
「お怪我はありませんか、伯爵」
「貴公は、漆黒の騎士団の・・・」
「ガームベル=イブリスと申します」
「黒十字の剣!お父様、黒い雷光ですわっ!」
少女はガームベル・イブリスに抱きついた。
「もはや過去の話・・・しかし、無事で何よりでした」
「イブリス、大切な話がある。姫君が・・・まだ生きている」
「ソフィア様が!?」
「ウーヌスも情報を・・・嗅ぎつけたようだ」
伯爵は息を切らせながら続けた。
「先の戦役は・・・共和国内に潜んでいた帝国の残党と一部の妖魔の陰謀だ。妖魔国を統治するベルフ
ェゴールも戦争の道具にされたに過ぎん」
「・・・やはりそうでしたか」
「次は妖魔国にも戦乱が起こるやも知れぬ」
「このままでは・・・・」
「うむ、何としてもソフィア様を見つけ、妖魔と人間の和平同盟を再建せねばならぬ。私はクラウンフィールド皇国へ協力を仰ぎにゆく」
伯爵は立ち上がり言った。
「同盟国の使役がシルグムントに向かっている。スズミヤ卿と合流し、姫君を探し出してくれ」
「スズミヤ卿が」
「頼んだぞ、イブリス。民の運命は我らの手に・・・ウルディアの護りあれ」
消え入りそうなほど細くなった月光の下、ガームベルは伯爵と別れた。
(マナの力・・・)
ガームベルは蛇の眼の男の言葉を思い出していた。
(全ての災いは邪悪な意思に操られていたのだとしたら・・・)
ガームベルは母国復興の希望と共に得も知れぬ不安が首をもたげるのを感じた。




