悲しき戦い 後編
いままでありがとう――
「!?」
どこからか声が聞こえた途端、体が軽くなるのをアルルは感じた。
「エ・・・?」
誓いの魔力が解けた?
ということは・・・
「・・・嘘ダロ・・・嘘ダ・・・ウ、嘘ダァーーーッ!!」
突き上げてくる絶望感にアルルは慟哭した。
同時に激しい憎悪の炎が燃え上がる。
「クッ!ヨクモ・・・ヨクモーッ!!」
女神の誓いによって抑えられていた邪悪な力が蘇ってくるのを感じた。
「クソー、ブッ殺シテヤルッ!!」
憎悪に捉われた蒼竜は、エンドアの街へ向かって飛び立った。
「――魔界ノ盟約ニ従イ、古ノ契約ヲ履行セヨ!」
アルルは邪悪な太古の魔法を唱えた――
「ゲヘヘ~、何が竜騎士だァ。ちょろいもんだぜ」
「最後にどんな奴がでてくるかと思ったら、金髪のお嬢ちゃんときたもんだァ」
オーク達は下品な声で笑い合った。
メリュジェーヌは、そんな彼らの声を不快に感じていた。
(竜騎士のほうが貴方達よりよっぽど崇高ですわ)
キシャーン!!
突然、すさまじい音と共に暗黒の炎が凍りついていった。
「な、なん・・・!」
声を出す間もなく凍りついてゆくオーク達。
そこには、蒼龍アルルと召喚された氷の魔神シヴァの姿があった。
「ヒ、ヒィィィーー!」
オーク達は散り散りに逃げ出した。
「な、なんですの!?」
馬鹿な、エンドアにまだこんな魔力を持った者が居る?
「貴様カ?パドメヲ殺シタノハ!」
メリュジェーヌの前に、アルルが立ちはだかる。
「ブ、ブルードラゴン?」
目の前に立ちはだかる巨大な蒼龍にメリュジェーヌは目を疑った。
「な、なぜ貴方が人間に組するんですの?」
「人間ニ組シタワケジャナイ。愛スル者ヲ守ッテイタダケダ。ソレヲオ前達ガ・・・」
「言っている意味が分かりませんわ!」
「人殺シニ分カッテモラオウナド思ワン!」
アルルは魔撃放った。
「くっ!」
メリュジェーヌは、それをかわしながら叫んだ。
「私だって・・・私だって殺したい訳じゃないんですのよ!」
メリュジェーヌは魔竜に姿を変えると、アルルへ雷撃を放つ。
2匹の竜はお互いに魔力をぶつけ合い続けた。
その時メリュジェーヌの背後で人影が動いた・・・
「!?」
只ならぬ邪悪な殺気にアルルは気付く。
「危ナイ!」
「な、何ですの!?」
アルルがメリュジェーヌの前に飛び出すや、呪怨の矢がアルルの胸を貫いた。
「グッ!!」
そのまま、峡谷へ落ちていくアルル。
(・・・チッ、しくじった)
(・・・公爵様へ報告せねば)
(・・・クソッ、あの蒼竜さえいなければ)
「はぁ・・・はぁ・・・」
喘ぎながらメリュジェーヌは、自分が狙われたことに衝撃を受けていた。
(あのブルードラゴンは・・・私を助けた・・・?何故・・・?)
川に流されながら、アルルは矢の呪いが自分の魔力を喰い尽していくのを感じた。
(・・・もう・・・疲れたよ・・・)
呪いは自分の記憶をも喰い尽していく・・・。
アルルは空を見上げながら涙をこぼした。
(パドメ・・・ごめん・・・ごめ・・・)
やがて、アルルの意識は真っ白な闇の中へ落ちていった。
----------------------------------------------------------------------------
1人の武者が妖魔に囲まれていた。
「貴様らに討たれる位なら潔く・・・」
傷ついた武者は刀を首筋に当てた・・・そのとき、疾風が駆け抜けた。
「間に合った」
「わ、我が君!」
スズミヤ卿は、傷ついた武者を抱え上げながら疾風の如く走り去る。
「申し訳ありませぬ。エンドアは...もはや」
「何も言うな。良く生きていてくれた」
「・・・・」
その言葉に、武者は涙を流した。
「我が君、全軍撤退準備が整いました」
「うむ、港へ向かうぞ!」
「御意!」
騎馬武者達は踵を返し港へ向かう。
「うん?」
川辺に何か光るものが見えた。
「これは・・・」
そこには、傷ついた小さな蒼竜が横たわっていた。
「まだ生きているようですが」
「こやつを連れて帰る」
「え?この竜をですか?」
「・・・見よ」
スズミヤ卿は傷ついた蒼竜を指差した。
「竜騎士の鞍だ」
「なんと・・・」
「盟友を見殺しにはできん」
「御意!」
この戦で――
馬蹄の音を聞きながら、スズミヤ卿は考えていた。
この戦で利を得る者とは、いったい・・・?――
騎馬武者達は徐々に海の匂いが近づいてくるのを感じ始めていた。




