あの光
「パパ、ママはどこにいるの?」
「ママは遠くに行ってしまったんだよ。マーくん」
「遠くって?」
「ママは、ママはね……」
父親は言葉を詰まらせた。まだ幼い我が子にどう告げればいいのか分からなかった。
「ママは死んでしまったの?」
男の子はポツリとつぶやいた。
この子なりに考え、結論をだしていたのだ。
「…………」
父親はしばらく男の子を黙ったまま見つめ、かすかに微笑んだ。それから何かを探すように空のかなたに目をやり、一つの光に気付くとその光を指さしてささやくように言った。
「ホラ、あそこに今灯ったあの光、あの光がママだ」
「あの、一番明るくてユラユラしているあの光?」
「そうだよ。ママはあそこでおまえをいつも見守ってくれているんだ」
「ママに会いたいよう。ボク、ママともう一度お話したいよ」
「パパもそうだよ。でもマーくんが泣けばママはもっと悲しむんだ。だからパパと一緒に泣かないで頑張ろう」
「うん。ボクたちが頑張ればママも喜んでくれるんだね」
「マーくん、あなた。二人とも、どうして私一人を残して死んでしまったの」
母親は流れ落ちる涙をぬぐおうともしなかった。
「あなた、マーくんはまだ小さくて、自分が死んだことを分からないかもしれないわ。あなた、この子が自分の死を穏やかな気持ちでうけいれられるよう、そばで守ってあげてね」
母はそう言いながら、ろうそくの揺らめく炎の向こうで微笑む、父子の写真に小さく手を合わせた。