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こんな日常、ありですか?番外編

どたばた日常!【花火編】

作者: おしゅれい

「花火大会のかあ……。確か康平先輩が花火の打ち上げやるとか言ってたな。ちょっと行ってみようかな?」


そう呟いて俺、平田瞬は玄関の扉を開けた。

三年生の、康平先輩が打ち上げるんだと聞いたことがある。

康平先輩とは学校でよく会う。とても明るくて面白い先輩だ。

昨日康平先輩が俺に、花火大会の打ち上げ俺がやるもんで是非見に来て欲しいと言ってきたのだ。


(花火の打ち上げやるって凄いな。)


玄関の先、真っ先に俺の視界に映ったものは浴衣を着た男女が手を繋いでいちゃいちゃしている姿。

俺は即座に扉を閉めた。


(くっそ……リア充死ね!!)


さっそく心が折れそうになった俺はぼっちで花火見に行くのもどうかと思い、友人の元へ電話をかける。


「もしもし?今暇?あ、そう。じゃあさ、一緒に花火大会行かない?ほら、康平先輩がやるっていう。お、サンキュ!じゃあ俺の家の前に来て!」


電話を切って一息吐く。うん。やっぱりあいつは俺の期待を裏切らない。

しばらく待っているとインターホンが鳴る。


(おっ。来たな!)


玄関の扉を開くとそこには大人しそうな見た目をした少年、琵琶と二ノ宮金次郎ことニノがいた。


「なんでお前いるんだよ。」


爽やかな笑顔を浮かべ、手を振るニノを見て言う。


「なんでって、ボクも花火見たいよー!!」


「いやほら、学校にいなくて良いの?」


「あぁ、それなら花子さんがお留守番してくれてるから大丈夫だよっ!問題ない。」


「あぁー。」


確かに花子さんは人見知りが激しくとてもインドア派な人だ。

花火大会なんてくるはずがないだろう。


「ふふっ。楽しみですね。」


「綺麗な花火見れるといいねー。」


そんな事を話しながら家を出る。

会場へと歩いている途中、見慣れた姿が目に映る。


「おっ。麗琶に零樺じゃん。」


クラスメイトの麗琶と零樺が俺らに気づき、手を振った。


「やっほー!あんたらも花火見に来たの?」


「おう。」


二人は綺麗な浴衣を着ていて、いつも学校で会うときとはかなり違った印象を受ける。


「…………。」


「ん?何よ?」


「いや、浴衣似合わねーなって思って。」


「なっ!失礼な!!乙女にそれは禁句なんだぞ!!」


ムッとしたように麗琶と零樺が口を尖らせ言った。


「そうだよー!凄い似合ってるじゃん!!」


ニノが不思議そうに俺を見る。


「いやさ、浴衣は凄く似合ってるし可愛いと思うよ?」


「でしょー?あたしらセンス良いからね!!」


「随分と直球に言うわね……。」


零樺は誇らしげに笑い、麗琶は少し照れた様子を見せる。

その様子を見て俺は苦笑いをした。


「ほら、ね。普段女子力皆無の人が浴衣着て、お洒落してると何か変だなーって思って……。」


「馬鹿野郎!!」


零樺に思い切り頭を殴られる。


「女子力無いとか言うなよ!あたしだって女子力ありますー!!」


いや殴る時点でアウトだと思うんだが……なんて言うのはとても怖くて口に出せなかった。

しかもこいつ、グーで殴ってきやがった……。

そんなこんなしている内に会場に辿り着く。


「うわー。やっぱり人多いなー。」


「当たり前でしょ。あ、あたしら友だちと待ち合わせしてるからじゃあね!」


そう言って去っていく二人。


「相変わらず嵐のような人たちだね。」


ニノがにこにこと笑いながら言う。


「ほんと……ってあれ?琵琶は?」


一緒に来ていたはずの琵琶が見当たらない。


「あれれ?いないねー?どこ行っちゃったんだろ。」


ニノも辺りをキョロキョロと見渡して言う。

すると会場の奥の方からかき氷を持って琵琶が戻ってきた。


「何だか盛り上がっている様でしたので先に行って皆分のかき氷買ってきました。メロン、イチゴ、ブルーハワイとありますがどれがいいですか?」


そう言って微笑む琵琶。そうだった。こいつ、けっこうコミュ障だから誰かと話してたりするとどっか行っちゃうんだった。


「おー、ありがとう!んじゃあブルーハワイで!」


「ボクはイチゴかなー。」


それぞれかき氷を受け取る。

ドンっと空には大きな花火が打ち上がった。


「おおー!綺麗だなー!!」


花火ってこんな間近で見るの、何年ぶりだろうか。

いつも面倒で花火大会とか来てなかったからなあ……。

ふと隣を見るとニノがキラキラした視線を空へと向けていた。


「正直ね、ボク、花火初めて見るの!!」


「そりゃそうだろうな。」


ニノは普段学校にいるからな……てかやっぱりここにニノが来ちゃって良いのか!?

周りの人たちは特に気にする様子を見せない。

なんか、こう、すっかり会話に馴染んじゃってるけどニノって一応二ノ宮金次郎の像だぞ!?


「僕も久し振りに見ます。」


琵琶が空を眺め、懐かしそうに言う。


「琵琶そもそも普段から出かけなそうだもんね。」


「そうなんですよ。」


―ドン


今度は二回、花火が打ち上げられる。


「たまには良いですね。こういうのも。」


琵琶がそっと微笑んで言った。

俺もしみじみと空を眺め、感傷に浸る。


「やっほぅ♪皆大好きサクラリさんだよ☆今ボクのこと呼んだよネ?」


雰囲気をぶち壊すような声でやって来たのは学校に住み着いているエルフ(問題児)のサクラリだ。


「呼んでねえよ!!」


「ヤだなぁ……つれないこというなよー。っていうかどうして皆ボクを誘ってくれないのさあ!!危うくこんな楽しいイベント逃しちゃうトコだったじゃあないか!」


「知るかっ!」


俺の反応を見て「イジワル……」と拗ねた表情を見せたサクラリにニノがパアッと顔を明るめて笑った。


「こんばんは!サクラリさん。久しぶりー!」


「久しぶりー☆」


サクラリもにこにこと笑顔を見せて挨拶をする。


「お久しぶりです。サクラリさん。」


「わぁー!久しぶりだねー♪琵琶。相変わらず可愛いなァ。ねぇなでなでさせて!ね?良いでしょ?」


「えっ?えっ?」


戸惑う琵琶。変態か……ってこいつが変態なのは前からか……。


「こらこら琵琶が戸惑ってるでしょうが。」


「だって琵琶が可愛いんだもン☆」


「止めなさい。」


琵琶に飛びつこうとする変態を無理やり剥がす。

サクラリはしばらく隙を伺っていたがしばらくして諦めたようだ。


「ささ、ココで会ったのも何かの縁。キミたちにちょっとした手品を見せて上げるよ♪」


そう言ってサクラリは被っていたシルクハットを手に持ち、持っているステッキをくるくると回した。

そして、持っていたステッキでシルクハットをコンコンと叩く。

するとヒュッと音を立ててシルクハットから真っ直ぐ空の方へと小さな花火が放たれる。


「す、凄ーい!!さすがサクラリさん!!」


「わああ……凄い……です。」


目をキラキラと輝かせるニノに感嘆する琵琶。

確かに今のは凄い!


「ふっふっふっ。皆の驚く顔を見るのは飽きないモンだね☆」


そう言ってサクラリは得意気に笑った。


「皆に驚きを!ってコトでボクはここらで後にするヨ☆じゃあねー♪」


くるりと一回転して消えるサクラリ。

去っていくときも凄い業を見せつけてくるんだから……。


「サクラリさんって謎が多いですよね。」


「わぁー!やっぱサクラリさん凄いや!!」


琵琶もニノも何だか楽しそうだ。

そんな二人の様子を見ていたら俺も楽しくなってきた。


「あ、かき氷のゴミ、捨ててきますね。」


そう言ってかき氷のから箱を捨てに行く琵琶。


(琵琶ってほんと、気が利くよなー。)


わざわざ捨てさせるのに申し訳なく思いながらもやっぱり琵琶の親切っぷりには甘えてしまう。


「あ!ガイコさんとモケイくんがいる!ちょっと挨拶してくるね!!」


ニノが指差した先には理科室とかによく置いてある骸骨、リカシツガイコと人体模型のジンタイモケイがいた。


「あらニノくんこんばんは。元気ぃ~?」


「ニノくんこんばんは!花火綺麗だね!!」


三人は楽しそうに喋りながらふらふらと適当に歩き出す。

あれ?ちょっと待って?俺まさか今、ぼっち?

うわぁ、酷いよ置いてくなよー。


(あ、でもガイコとモケイと一緒になるとろくなことないからそれよりはマシか。)


琵琶早く来ないかなぁ……。


「あ、瞬だ。こんばんは。」


「瞬くんこんばんは。」


そう言ってやって来たのはバスケ部の先輩、傘城先輩と氷之先輩だ。相変わらずこの二人は似ている。


「今日は暑いねえ。人混みだから余計に。良かったら氷をどうぞ。」


氷之先輩はにこやかに氷を渡してくれる。確かに凄く暑いから助かる。


「ありがとうございます!」


やっぱりこの二人は優しいな。


「そうそう瞬。なんだかこれから雨が降るかもって氷之が言ってるもんだから今傘を配ってたの。瞬にもあげるね。」


「えっ!?雨降るんですか!?そんなの聞いてないですよ!?」


「確かに天気予報は百パーセント晴れだったけど、氷之の勘は百発百中だからね。」


そう言って苦笑する傘城先輩。


「まあ降らないのが一番なんだけどね。念のためさ。」


「まだ行かなきゃいけないところがあるもんで、じゃあね。瞬くん。」


「ばいばい!花火綺麗に見えると良いね。お互いに楽しもうね!」


そう言って去っていく二人組。さすが女子に人気の先輩方。

なんかもう振るまいがかっこいいもんなー。

去っていく後ろ姿を眺めていると不意に背後から声が聞こえた。


「剣を構えて!」


「えっ?」


とっさに鞄に入っていた非常用剣を構える。


「あああああああああ!!!!!」


―ガキンっ!!!


放たれた咆哮と共に構えた剣に強い力がかかる。


(これは……魔法?)


魔法を使う魔物か?魔法に対する対処法も多少は授業で習った。

とっさに守ることはできたが当たっていたら怪我じゃすまなかっただろう。

そう思っている内にまた魔法が飛んでくる。


「っく……!!」


何とか弾き返すが正直キツい。というか……


(肝心な魔物はどこにいるんだよ!!)


「危ないっ!!!」


そんな声とともに目の前に小さな何かがやって来て、そいつが出した透明な盾が魔法を防ぐ。


「っと!ピンチの時やって来るのが正義のヒーロー隊だ!」


くるりと一回転してにっと笑ったのは学校で有名な『正義のヒーロー隊』と呼ばれる謎の三人組の先輩(ただのアホだと囁かれているが)の一人、しーちきん先輩。常にちびキャラのような姿だと噂では聞いていたがこうやって見ると本当に、絵に描いたようなちびキャラっぷりだなと思う。


「イタズラが過ぎるぞー。レナぁ。」


そう言って魔物の正体をつまみ出したのは正義のヒーロー隊の一人、とうがらし先輩。


(てか魔物のの正体レナかよ!!)


魔物の正体は自称悪霊のいたずらっ子の幽霊、レナだった。


「だって瞬ったら反応面白いんだもん!」


「弱いしね。」とつけ足すレナ。余計なお世話だ。

俺は純粋な人間だぞ。


「あれ?あれ?もしかしておれの出番無し?」


遅れてやって来た正義のヒーロー隊の残りの一人、とろろ先輩はおろおろと辺りを見渡した。


「げっ。とろろだ。」


レナはとろろを見てあからさまに嫌そうな顔をした。


「ん?レナじゃん。さてはお前また人間にちょっかい出してたな?」


「い、いや、別に……。」


「あ!もしかしてまた瞬にいたずらしてたのか!?お前瞬好きだなー。いくらからかいがいがあるからって大概にしろよ?」


「だ、だってぇ…………。」


しょぼくれるレナ。どうやらレナはとろろ先輩に顔が上がらないらしい。そんなレナに向かってとろろ先輩はビシッと指をさして言う。


「いいか!いくら瞬が弱いからっていじめちゃだめだぞ!!千百合呼ぶぞ!!」


とろろ先輩の言葉がさりげなく俺に刺さる。とろろ先輩、さりげなく酷い……。


「うわぁ、それだけは勘弁を!!!」


とろろ先輩の言葉を聞いてびくりと肩を震わせ、レナはペコペコと頭を下げた。


「千百合だけは止めて!!!消される!!!!」


千百合……確か二年生の先輩で、霊界の王だとか呼ばれている人だ。


「消されたくなければ帰れ!」


「は、はいい~。」


しょんぼりと消えていくレナ。

「怪我は無いか?」と三人が駆け寄って来る。


「あ、はい。何とか。」


「まあもうすっかり慣れてるみたいだったしね!」


にこにことしーちきんが笑う。

確かに学校生活送る上でいろんな危険があるからそれなりに自分の身は守れるようにはなってきている。


「いやでも助かりました。先輩方ありがとうございます。」


俺がお礼を言うと三人はにこっと明るい笑顔を見せた。


「いえいえ。」


「困っている人は助ける。」


「それが正義のヒーロー隊だからな!」


なんか、かっこよく見えなくもない。そんな事を思っていると不意にぽつりと顔に何かが当たる。


「?」


何だろうと空を見上げた瞬間ざああっとバケツをひっくり返したかのように雨が振りだす。


「うわっまじか!これじゃ花火見えないじゃん!先輩方何とかしてくださいよ!!困った時は助けてくれるんでしょ?」


「えっ!?いやいやさすがのオレでも天気変えるのは無理!!」


「うわーやべえなこの雨。ってかなんでお前傘持ってんだよ!!卑怯だぞ!!」


「この傘ならさっき傘城先輩と氷之先輩に会ってその時に貰いました。」


「まじか!と、とりあえず屋根下に避難だ!!」


そそくさと去っていく正義のヒーロー隊。

さっき一瞬でもかっこいいかもしれないと思ってしまった俺の頭はどうかしているのかもしれない。

雨の量が大変なことになっているため、傘があるとはいえどびしょ濡れになりそうだ。

俺も屋根下に避難するとしよう。


(そういえば琵琶が全然帰って来ないけど何かあったのかな?)


少し心配だがこの状況で捜すのは無理そうだ。


「あーあ。花火全然見えないし、これじゃあせっかくの花火大会も中止になっちゃうかなぁ。」


屋根下で雨宿りをしながら溜め息を吐く。

そんな俺の所に二人のカップルらしき人がやって来る。

しかもよく見たらそいつは最近学校に転入してきたシイとソリッドだった。


(こいつら付き合ってたの!?)


「わあー。雨降ってきちゃったねー。せっかくの花火大会なのにぃ。ねえソリッド、なんとかしてよー!」


「なんとかしたいのはやまやまなんだけど、こればっかりはどうしようもないな……。」


とても仲良さそうに話す二人。


(俺の目の前でのろけやがって!けっ。)


俺から放たれる黒いオーラを感じたのか、二人はようやく俺に気がついたようだ。


「あ!瞬くん―」


「待て。お前、それ以上近づいたら殺すぞ。」


シイの言葉を遮ってソリッドが袖に潜ませていたらしき小さいナイフを向けて睨んでくる。


(えっ!?なにこの人。怖っ!)


「分かんねえのか?シイに近寄るなつってんだよ!」


そう言って徐々に俺との距離を縮めてくるソリッド。

慌ててシイが阻止する。


「いやあのね。ボクはソリッドのこと大好きだし、もちろん他の人のとこなんていくはずがないよ?でもね、ボクも少しは他人と関わりたいなー、とか思うんだよねー。」


「シイは俺のもの……他の誰にも渡さない…………。」


「いや、止めてー!マジで止めてー!!」


俺の元へ猛ダッシュしてきたソリッドをシイが必死で止める。

う、うん。この人もいろいろ苦労してるんだな。

ごめんよ、リア充爆発しろとか思ってしまった俺が悪い。


「ちょ、迷惑かけてごめんね!瞬くん!」


そう言ってシイはソリッドを連れて大量に降る雨の中へと走り去って行った。


(いろいろ大丈夫なのかな……あの人。)


少し可哀想だと思ってしまう。

そして、再び空を見上げ、はあっと溜め息を吐く。


「雨は降るし、襲われるし、今日は良いことねーなぁ。」


そう呟いていると不意に隣からも重苦しい溜め息が聞こえる。

そっちの方を見るとびしょ濡れになった三年生の先輩、煉先輩が疲れた顔をして座っている。


(なんだろう……凄く親近感が湧く。)


「あ、あの。煉先輩、ですよね?」


「えっ。あ、うん。そうだよ。ええっと……君は確か一年生の……ごめん。名前が思い出せないや。」


「平田瞬です。煉先輩良かったらこれ使います?」


鞄の中に入れてあったタオルを煉先輩へと差し出す。


「えっ?あ、ありがと…う?」


煉先輩はなぜか戸惑った表情をした。


(あれ?俺変なことしたかな。)


そう思って手元を見ると手に持っていたのはタオルではなく氷之先輩から貰った氷だった。


「わわっ!間違えました!これじゃあ冷えちゃいますよね!!」


慌ててタオルを出す。


「いやっ、そんな、気を使わなくても…………ありがとう。」


煉先輩は少し躊躇った様子を見せたが、さすがに風邪をひいてしまうと思ったのかタオルを受け取る。

それにしてもさすが氷之先輩の氷。氷之先輩の氷は溶けないという噂があったが確かに全く溶けていない。この真夏日に凄いな。


「ごめんね。タオル今度洗って返すね。」


「いや、タオルなんて家にたくさんありますし、返すのだって面倒だろうし返さなくても良いですよ。」


「いや、さすがにそれは……申し訳なさすぎる。」


慌てた様子を見せた煉先輩はふと俺の方をじっと見て、ふわりと笑った。


「優しいんだね。君。」


「そんなことないですよ。」


俺なんかよりも煉先輩の方が断然優しそうに見える。


「ありがとね。本当に。」


優しい笑顔に見える薄幸そうな表情に煉先輩の苦労が滲み出ている。


(お疲れ様です。)


心の中でそっと呟く。


「雨降っちゃいましたね……花火大会、中止ですかね。」


「そうだね……。残念。」


煉先輩は心底残念そうな顔をした。


「……あっ。あの人……。」


不意に煉先輩の表情が明るくなる。


「ん?」


煉先輩が指差した方を見るとあからさまに他の人とは違う雰囲気を醸し出すイケメンという言葉では収まらないようなほどカッコいい人がふわふわと空中を浮遊していた。


「風だ!」


あまりのかっこよさに目を奪われていると、風と呼ばれた人は煉先輩に気づいた様子でにこっと笑顔を見せて地上に降りてきた。

風が地面に足をつけたとたん、会場を覆っていた雨雲が一気になくなり、雨が止むどころかむしろ花火を打ち上げることで出てくる煙すらもなくなってしまった。


(な、なんだこの人。凄すぎだろ……。)


「おはよう、煉。」


「今は夜だよ。」


「良いの。俺にとっては朝なんだから!」


にこりと笑う姿がとても輝いていて直視できない。この人は神か何かなのか?


「今日花火大会って聞いて、気が向いたから来てみたよ。」


そう言って風は空を仰ぎ、言葉を繋げる。


「普段はこんな人混み来ないんだけどね。なんとなく、ね。」


「よーう。風、助かったぜ!花火もそろそろ終盤だっつーのに雨降り始めてどうしようかと思ったよ。」


どこからともなく康平先輩がやって来る。


「いや、別にオレが雨止ませた訳じゃないし。たまたまだよ。」


「やっぱお前凄いな、その強運。羨ましいぜこのやろー。」


にこっと笑って康平先輩は風の髪をわしゃわしゃと撫でた。


「撫でんな撫でんな!」


風は嫌そうな顔をして康平先輩の手を払いのける。


「さあて、なんだかんだで花火も最後の一発。凄いの見せてやるからな!ちゃんと見てろよ?」


康平先輩は気合い十分といった感じで手慣れた手つきで花火の準備をする。


「もう最後の一発かあー。」


「あれっ?もう最後の一発なの?オレ今来たばっかなんだけど。ちょっと延長しません?」


「ダメですー。」


風のおねだりを軽くはねのけ、康平先輩は準備を続ける。

もう最後の一発なのか。確かにあっという間だったな。

風は「えぇー」と渋っている様子だったが、しばらくして諦めて康平先輩の準備している姿を黙って見つめていた。


「よっしゃ行くぞー!!」


康平先輩が勢いよく花火を発射する。


「あれ?なんか異物が入った気がするけど、ま、いっか。」


最後の一発。花火は綺麗に打ち上がる。

ドンっと大きく打ち上がった花火は若干とうがらし先輩の形を模しているように見えた。


「おおー!!!」


あちらこちらから拍手が聞こえる。


「康平先輩、花火凄く綺麗でしたよ!」


俺も少し興奮ぎみに康平先輩に感動を伝える。


「ふっふーん。凄いだろ?」


「よしっ!」と言って康平先輩は煉先輩の方をみてにっと笑う。


「煉片付け手伝え!!!」


「ええーなんで俺が……。」


風はそそくさと姿を消していた。俺も巻き添え食らう前に逃げることにしよう。

しばらく歩いていると琵琶の姿が見えた。


「おっ琵琶!どこ行ってたんだよ!心配したじゃん!!」


「あ、えっと……ちょっといろいろありまして……」


そう言って苦笑いをする琵琶。なんだか嫌な予感がするから余計な詮索は止めておこう。


「花火、綺麗だったな。」


「そうですね……ほんと……綺麗でした。」


「あーでもいろいろありすぎて疲れたなー。」


「ふふっ。明日はゆっくり休みましょう。」


「疲れた!今日は家帰ったら寝る!!」


軽く伸びをして俺は言った。


「あ、そういえば夏休み入ってから俺まだ一回も琵琶と遊んでない。今度遊ぼうぜ?」


「良いですよ?是非!」


「よっしゃ!じゃあ今度また連絡するよ!とりあえず今日はお疲れ様!じゃあな!!」


家に着き、琵琶に手を振る。琵琶も微笑み、手を振り返す。


「お疲れ様です。お休みなさい。」


相変わらずいろいろアクシデントとかたくさんあったけど、なんだかんだで楽しい!

それはやっぱりこの学校の人たちがいるからなんだろうな、などと俺は思った。

ここまで読んで下さった方に心から感謝致します。

今作はこんな日常、ありですか?の番外編となっております。

タイトルどおり本当にどたばたしててひたすらやかましい話です(笑)

キャラクター一人一人の個性が伝わったならとても嬉しく思います。

お暇がある方は本編のこんな日常、ありですか?とおしゅの方の天津高校の日常も是非、読んでみて下さい!

ここまで読んで下さった、本当にありがとうございました!!

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