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ひみつ  作者: トウリン
3/8

切望:ユリナ×マリナ

 三つの鍵を上から順番に外していき、軋む重い扉を押し開ける。

 ベッドが置かれているだけの小さな部屋には、格子がはめられている窓から朝日が射し込んでいた。


「おはよう、マリナ」

 そう声をかけると、ベッドの上の薄い山が動いて、窓の外に広がる春の空よりも透き通った青い瞳が私に向けられる。


「おはよう、ユリナ。今日もいい天気みたいね」

 ゆっくりと起き上がりながら、力のない、囁くような声。

 私のものとよく似たそれは、けれど、私のものよりも、甘い。


 ――私とマリナはまるで鏡に映したかのような姿をしているけれど、不思議と、マリナから受ける印象の方が柔らかだ。

 同じ青い瞳も、マリナは春の空で、私は冬の空。

 同じ淡い金髪も、マリナは太陽の光で、私は月の光。

 向かい合って手を結べば、まるで豆の片割れのようにピッタリとはまる。

 きっと、母の胎内で小さな粒に過ぎなかった頃から、マリナと私は手をつないでいたに違いない。

 私にとってマリナは、何よりも大切な、かけがえのない、けっして誰にも譲れない存在だ。


「気分はどう、マリナ?」

 目を細めて彼女の顔色を観察しながら、ベッドに歩み寄る。

 私は朝食を載せたトレイをベッド脇の台に置いて、マリナの頬にそっと触れた。


「……熱はないわ」

 ここのところ微熱が続いていたけれど、ようやく下がってくれたみたい。

 少し薬を調整したのが功を奏したようで、ホッとする。


「最近はね、調子が良いのよ」

 微笑みながらマリナはそう言ったけれど、彼女はとても儚げで、回復に向かっているようには見えない。

 もう少し、薬を調整しないといけないようだ。

 頭の中で調合を考えながら、マリナの頬にかかっている柔らかな髪を耳にかけてあげる。すぐには手を離せず、親指で柔らかな頬を辿った。


「まだまだ安静は必要だから、しばらくはこの部屋にいてね?」

 本館の、自分の部屋に戻りたいと言われる前に、釘を刺す。

「わかっているわ」

 そう言ってマリナが浮かべた微笑みは、私の全てを受け入れてくれているようなものだった。

 途端、堪えようのない愛おしさが込み上げてきて、思わず、彼女の頬にそっと口付ける。


 私の唇が触れて、マリナがくすぐったそうにクスクスと笑う。

 とても、幸せそうに。


 この小さな部屋にいるのは、私とマリナだけ。

 ベッドの他には何もないような空間でも、私にとってはこの世のどこよりも楽園に近い。

 ここは本館から離れて建てられた塔の最上階にある小部屋だ。

 身体を壊して体力の落ちているマリナには、ヒトの息が毒になる。だからここに隔離して、訪れるのは私だけ。

 殺風景な部屋だけれど、これは全部、マリナの為なの。


 マリナのことは、私がこの手で守ってあげる。

 だから、お願い。

 ずっと私の傍にいて。


 私以上にあなたのことを想っている者なんて、いないのだから。

 私以上にあなたを必要としている者なんて、いないのだから。


 あなたを失いでもすれば、きっと私は壊れてしまう。


「……元気になるには、しっかり栄養を摂らないとね。ほら、食べて?」

 ベッドの上に座ったマリナの膝にトレイを置いて、朝食を摂るように促す。

「薬湯も、ね」

 カップを差し出すと、マリナは両手でそれを受け取って、口に運ぶ。

 数口それを含んで、ふと、彼女は顔を上げた。


「……何?」

 ジッと私に注がれる眼差しに瞬きをすると、マリナはほんの一瞬間を置いて、目を伏せて、小さくかぶりを振る。

「ううん。何でもないわ」

 そして、微笑んだ。

 柔らかに、いつものように。


「……大好きよ、ユリナ」

 その言葉とその微笑みに、胸がキュッと痛む。


「私も、大好きよ」

 そう返すと、マリナの笑みが深くなった。

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