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うみのうた  作者: 木間居鶉
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旅立ち

海は広くてどこまでも続いている。

きらきらと輝く海の中は暗くて静かで、だけど神秘的な水の世界が広がっている。


幼いときに児童館で読み聞かせてもらった絵本は確かそんな感じの内容だった気がする。

幻想的なものが好きだった僕はその絵本をなんども読み返して海の中の綺麗な世界を想像していた。


そんな風に海に憧れを抱いていた僕は海に入れない。

アレルギーとか、泳げないとかそんな単純な話じゃなくて、とりあえず小さい頃から私は海に近づくことすらをも固く禁じられている。

そのくせ名前が“雨美(うみ)”なんてものだから小さい頃からよくからかわれていた。


なぜ海に近付いちゃいけないのか、じゃあなぜ雨美という名前なのか、誰も教えてくれない。

むしろ聞く人がいないというのが本当のところ。親に聞くっていうのが普通なんだろうけど、生憎僕には両親がいない。

母は14年前に出かけたきり帰ってこなかった。父は東京にいるらしいけど会ったこともない。

僕を育ててくれたのは母の妹の木苺(きいち)さんこときーちゃん。きーちゃんにも聞いてはみたけれど、「姉さんに頼まれたから」としか答えてくれなかった。名前については知らないらしい。




中1の春


「もう!!嫌になっちゃうよね、みんなして僕を海から遠ざけようとするなんてさ!」


中学校から帰ってきた僕は鞄をそこらへんに投げて愛猫のさくらに話しかける。


「母さんのお願いだから、とか意味わかんないよ。なに帰ってきもしない人の言うこときいちゃってんの?ってね。」


その日僕は学校の校外レクがあったのに参加できなかった。

レクはクラスで海に行って潮干狩りをする予定だったのに僕だけ行けなかったのだ。


「みんなレクとかで友達と仲良くなったりするんだろうなぁー、今度こそって思ったのに、本当にクラスで上手くやっていけるのかな…。」


小学生の頃は海で遊ぶ子ばかりでなかなか馴染めなかったから中学こそは!って思ったのにいきなりつまづいてしまった。

正直中学も入学して半月になるのに未だに友達の一人もいなく、半分諦めている部分がある。


「なーんか、もう学校行きたくないや…」


どうせひとりぼっちだもん。そういうと慰めるかのようにさくらが擦り寄ってきた。

もうさくら大好きー!なんてじゃれているときーちゃんが帰ってきた。


「ただいまー、遅くなってごめんね雨美〜。ちょっと東京まで車とばしてたからさー」


きーちゃんはサバサバしててすごく元気な女性。美人なのに男みたいな性格のせいであまりモテない残念美人。

バリバリの働き者ということで地元じゃちょっとした有名人。


「えー?なんで東京まで行ったの?」


割と近所の漁協とスーパーで働いてるのに、東京なんかに何の用だろう?お見合いとか?なんて呑気に考えているととんでもない返事が帰ってきた。


「んー?あぁ、雨美の転校の手続き。あとお父さんのとこだよ、雨美の。」


ふーん。なんて適当な返事をした後しばらくして驚いた。


「へ??転校の手続き?!!え、お父さんって…えっ?はぁああああ⁈‼︎」


パニックになった僕をみてきーちゃんは爆笑してた。


「ぶわっははははは!!予想どおりの反応、いやそれ以上の反応ありがとう、あっはははははは!!!」


お腹を抱えて笑い転げるきーちゃんをみながら呆然とする僕は、傍からみたら変な光景だったんだろうな…。


そんなこんなで私の海辺での生活はあっけなく終わった。

5月からは東京で父さん達(父さんの兄弟達)と暮らして中学に通うことになり、悩みに悩んだこの14年はいったいなんだったんだ…と思いつつ僕は生まれ育った町を旅立った。



このとき、僕はまたこの地に戻ってきて色んなことに巻き込まれちゃったりするなんて想像もしてなかった。










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