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Bel-Air Mall(ベルエアモール)

「学校からタクシーで5分ぐらいかな」

アメリカの英語学校に入学して初めての週末に生徒同士で近くのショッピングモールに行こうという話になっていた。

「歩いては行ったことがないからわからないけど学校の裏門を出たところの通りの、もうひとつ向こうの通りを左にまっすぐ行けばいい」

そう教えてくれたのは、ここでは先輩の日本人の女の人だった。さらに親切に紙にボールペンで地図までかいてくれた。

アメリカにキタ━(゜∀゜)━!といっても、ここは有名なニューヨークやロサンゼルスの様な大都市でもナイアガラの滝があるような観光地でもないから、週末の休みだからといって特別に行くところもないので、することといったら、このあたりに住んでいるアメリカ人が休みの日にするようなことをするしかなかった。

日々の買い物は学校の正門を出て通りを渡ったところにあるスーパーやドラッグストアで十分に足りていたのでこれ以上の買い物が特に必要というわけではなかったが、話によるとモールというのはそういうのとは少しちがうらしい。

結局、タクシーで行く組と歩いて行く組に分かれた。

僕は日本の北海道から来ているマサと2人で歩いて行くことにした。

歩いて行くことにしたのは、タクシーで行くのはもったいないような気がしたし、乗り方もよくわからず面倒な気がしたからだ。

実は、日本からこの学校に来る途中でロサンゼルスで一泊して国際空港からアメリカの有名なホテルチェーンのホテルまでタクシーに乗った時にはよく分からず、しかもチップを多く払いすぎた経験があった。

でも今はアメリカに来て1週間。授業も始まって、学校の寮の部屋も決まって、ルームメイトのアメリカ人にも挨拶して、カフェテリアでの食事のとり方もわかってきてたところだ。

ちなみに英語学校とはアメリカの南部、アラバマ州のモービルという街にあるスプリングヒルカレッジという小さい大学に付属している英語学校だ。English Language Institute 通称ELI(イーエルアイ又はイリー)と呼ばれていた。

学期は1ヶ月単位で毎月たいていは日本から日本人の短期留学生がやってくる。年齢も様々で高校を卒業したばかりの若者や大学を1年間休学したり、夏休みなどの休みを利用して来る者、会社をやめてくる社会人、他には企業等から派遣されて来る者などだ。

僕たちは1987年の4月に入学した。

学費は授業料が400ドルちょっと、寮費が400ドルちょっとだ。

アメリカの留学費用としては破格に安い。

最も田舎だから安いというのもあるし、安いからこんな田舎まで来ているというところもある。

入学するとまずテストを受け、入るクラスをレベル分けされる。

1~7までのレベルがあり、4月入学の僕たち(男3人、女4人、全員日本人)は殆どがレベル3のクラスに振り分けられた。ただ北海道出身のマサだけはレベル1のクラスに入れられた。

噂によるとレベル1に日本人が入るというのは、ほとんど初めてきいたということらしい。

マサに言わせると「英語の辞書は日本では授業中の枕替わりよ。こうやって、辞書の各ページをくしゃくしゃにすればクッションもよくなるし」ということだった。

レベル3のクラスには残りの僕たち6人と今月からレベル3のクラスに上がってキタ━(゜∀゜)━!南米出身のカルロスの合わせて7人がいた。

朝の8時から50分の授業が4回。授業の間にはブレイクタイムが10分ずつあった。

つまり12時には学校はおわってしまう。

だから授業がおわってランチのためにカフェテリアに向かいながら、午後から何をしようかと考えるのが常だった。

ランチが終わる時までに予定を決めてしまわないと、午後からすることがまったくなくなってしうまうからだ。

学校での寮生活といっても、校内は広く、寮の建物同士も離れているので、ランチがおわって別れてしまうと、夕食のカフェテリアまで他の日本人とまったく顔をあわせないということもある。

だから、学校がおわってからのカフェテリアまでの道のりやランチを誰と一緒のテーブルで食べるかということがとても大事になってくる。

この日は、授業が終わるタイミングが同じだったレベル3のクラスの7人とレベル1のマサ(ちなみにレベル1のクラスは1人しかいない)でカフェテリアまでの道すがら自然にグループになった。

そしてカフェテリアでたまたま1人で座っていたレベル7のクラスのミキさんのテーブルに同席する流れになった。

レベル7というのは、僕たち(少なくとも僕)にとっては神の域だった。

レベル6のクラスに入っている日本人は1人もおらず、レベル5に古株の日本人が数人いるだけだった。

ただ単に同期の日本人でいるだけだと、わざわざアメリカまできて日本人同士で日本語を喋って何になるのかという気持ちがそれぞれの心の中に少しずつ溜まってきて、最初は弾んでいた会話もいずれ尻すぼみになってしまうが、グループの中にアメリカ人や日本人でもレベルが高い人(つまり英語が話せる人)が交ざれば自然に盛り上がるし、話せる人がいるとその友人のアメリカ人たちが同じテーブルに集まってきて知り合いが増えることもある。

そして、一度知り合ってしまえば、校内ですれ違う時にハローやハイと言って挨拶することもできる。

いつもなら、ミキさんはたいていアメリカ人のグループに混じって完全に溶け込んでいるので、誰もおいそれとは近づけない感じだったのでいいチャンスだった。

そして週末に何をしようかという話の中で、ショッピングモールが出たのだ。

「モールは確かホストファミリーに連れていってもらったのが最初だったかしら。その後は何度か自分たちで行くようになったけど。タクシーは電話で呼べば来てくれるし」

ミキさんはそう言った。

ホストファミリー?

聞きなれない単語が出たが、みんなは分かった様な顔をしてただうなずいた。

「モールの通りの向かいにも同じようなショッピングセンターがあるけど、そっちじゃなくてベルエアモールのほうだらから」

ミキさんはそのことを念を押した。

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