序幕 ある神の愚痴
序幕 ある神の愚痴
永久に続く人生ってどう思う?
結構辛いんだよね。気の毒に思う者などこの世のどこにもいないし。
だからね、私が、私を慰めるんだ。
一番の暇つぶしは地上の人間たちを眺めることだよ。
今日のアティアは機嫌がいい。ゆっくり青空をたゆたいながら、わたしは地上を見下ろす。所々、雲が邪魔してうっとうしい。と、思えば私の意を組んで、アティアが雲を消してくれた。
眼下には、大きく分けて五つの島々がある。
私が今、気にしているのは東の大陸ヴァリア―ム。さらに海を挟んだ北に位置するボアース諸島だ。
どちらもわたしが最初につけた名前と違う。
人間たちは勝手に様々な名前を付ける。癖? なんだろうか。
島の名前どころか、私たち神々の名さえ創作してしまうのだから呆れたものさ。それだけじゃなく、宿ってもいないものにも神の存在を信じて疑わないのだから。ま、この話は置いておこう。おかげで愉快なこともできるのだから。
ヴァリア―ムは、四季のある住みよい大地だと自信をもって言えるよ。
ただねぇ。大陸を統べる良き君主に恵まれていない。大小様々な国が支配され、支配し、未だに落ち着かない様子だ。まさに群雄割拠の時代さ。
おかげで大地は泣いているよ。
私にできることは、せめて雨を降らせるようにアティアに頼むことくらいさ。少しでも染みこんだ血を洗い流せるようにってね。
ボアース諸島は、まぁ、少々酷だったかなって思う極寒地だ。けれど、その代わりに強靱な肉体と見目麗しい姿を与えたつもりさ。彼らは総じてボアース人と呼ばれているが、七つの部族があってそれぞれの個々の族名がある。彼らの多くは、海を渡ってヴァリア―ムへ降り立つんだ。
なぜかって?
それは、働き口があるからさ。家族を養う糧だよ。つまり、お金。
戦ばかりのヴァリア―ムにとって、屈強なボアース人は喉から手が出るほど欲しい。中には、乗っ取ってやろうとする野心を持ったボアース人もいるけれどね。
とまぁ、こんな感じだからもちろん、死者が多い。冥界の忙しさは察するにあまりある。
さて、私の暇つぶしの話だったね。
それはね、人間の死に際を覗くこと。もう少し分かりやすく言おうか。
ほら、人間ってさ、死を間際にするとこれまでの記憶をざざーっと漁り出すだろう? 走馬燈っていうのかな。それを、私も一緒に覗かせてもらうんだ。
これがなかなか面白くってね。
胸を躍らせながら、沈み始めた人間共の声に耳を傾ける。
今日は私を満足させる人間はいるだろうか。戯れに遊んでみるのもいいな。
どういうことかって?
それはこれからのお楽しみさ。
さぁ、はじまり、はじまり。