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妊娠したのは親友でした。でも父親は─  作者: 熊猫ぱんだ


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第7話 何週だっけ?

 里奈から連絡が来たのは、夜の九時だった。


『ちょっと話せる?』


 珍しく、絵文字がない。


 私は数秒だけ画面を見つめてから返信した。


『うん』


 すぐにビデオ通話がかかってくる。


 出ると、里奈はノーメイクだった。


 少しやつれた顔。


 でも、目はどこか落ち着かない。


「体調どう?」


 先に聞いてくる。


「大丈夫。そっちは?」


「うん……つわりがね」


 言いながら、水を飲む。


 その手がわずかに震えている。


 


 私は穏やかに笑う。


「何週だっけ?」


 一瞬。


 本当に一瞬だけ、沈黙が落ちた。


「……七週」


 間。


 前は、私より二週間早いって言っていた。


 今、私は八週目。


「私、八週だよ」


「え?」


 声が裏返る。


「前、里奈のほうが早いって言ってたよね?」


「そ、そうだっけ?」


 視線が泳ぐ。


 カメラが少し揺れる。


「勘違いかな。最近バタバタでさ」


 私は頷く。


「そうだよね。初期って数え方難しいよね」


「そうそう!」


 食いつくように言う。


「医者も曖昧でさ!」


 医者。


「どこの病院?」


「え?」


「私と同じところ?」


「……ううん、違う」


 即答できない。


 


 私は静かに言う。


「母子手帳、もうもらった?」


 固まる。


 ほんの数秒。


「……まだ」


 七週なら、通常は交付時期。


「そうなんだ」


 にこりと笑う。


「今度一緒に健診行く?」


「え?」


「同じ時期だし。心強いよ」


 カメラ越しでもわかる。


 顔色が変わる。


「いや、あの……彼と行くから」


「そう」


 優しく頷く。


「DNA検査のこと、聞いた?」


 完全に止まる。


「……なにそれ」


「出生前親子鑑定」


 静かに。


「私、受けることにした」


 里奈の呼吸が乱れる。


「なんでそんなことするの?」


「だって」


 私は目を逸らさない。


「はっきりしたほうが、みんな幸せでしょ?」


 数秒。


 長い沈黙。


 


「信用できないの?」


 絞り出すような声。


「できるよ」


 本心だ。


「でも事実は必要」


 その瞬間。


 里奈の目に、明確な焦りが浮かぶ。


「……最低」


 小さく呟く。


「そこまで疑うなんて」


「疑ってるわけじゃないよ」


 穏やかに言う。


「数字が合わないだけ」


 通話が、突然切れた。


 


 暗くなった画面に、自分の顔が映る。


 震えていない。


 怒ってもいない。


 ただ、確信している。


 


 彼女は今、計算している。


 いつ関係を持ったか。


 何週と答えたか。


 誰に何を言ったか。


 


 嘘は、覚えていないといけない。


 本当は、覚えなくていい。


 


 数分後。


 夫からメッセージ。


『里奈、泣いてたぞ。お前、何言った?』


 私はゆっくり返信する。


『何も。週数を確認しただけ』


 既読がつく。


 しばらく返事は来ない。


 


 私はスマホを置く。


 深呼吸。


 小さな亀裂が入った。


 あとは、広がるだけ。


 


 奇跡は、一度で十分。


 二度目は——


 たいてい、嘘。


(続く)


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