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妊娠したのは親友でした。でも父親は─  作者: 熊猫ぱんだ


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第6話 週数が、合わない

 弁護士との面談は、驚くほど静かだった。


「まずは時系列を整理しましょう」


 テーブルの上に置かれたメモ帳。


 私は深呼吸して、言葉を並べていく。


・私の最終月経日

・妊娠判明日

・推定排卵日

・里奈の“妊娠発表日”

・夫が家を空けていた日


 淡々と。


 感情を削ぎ落として。


 


「ご主人と親友が肉体関係を持ったと認めたのは、いつですか?」


「一週間前です」


「その際、妊娠週数は?」


「私より二週間早い、と」


 弁護士はペンを止める。


「医師の診断書はありますか?」


「いいえ。SNSでエコー写真を見ただけです」


「週数が確定しているとは限りませんね」


 胸が、ひとつ跳ねる。


「どういうことですか?」


「妊娠初期の自己申告は、かなり曖昧です」


 曖昧。


 


「排卵日は前後しますし、本人の記憶違いもあります」


 私はふと思い出す。


 里奈の言葉。


『私のほうが週数、少し早いみたい』


 “みたい”。


 確定じゃない。


 


「さらに言えば」


 弁護士は続ける。


「ご主人の数値が事実なら、自然妊娠の確率は極めて低い」


「はい」


「同時期に二件成立するのは、統計上かなり不自然です」


 不自然。


 私はメモ帳を見つめる。


 そして、気づく。


 


 夫が里奈の家に“泊まった日”。


 それは——


 私の排卵予測日の三日前。


 でも。


 里奈が言っていた週数から逆算すると。


 受精日は、さらに一週間前になる。


 その週。


 夫は、出張だった。


 会社のタイムカードも、位置情報も、私は確認している。


 里奈の家には行っていない。


 


 ぞわりと、背筋が震える。


 


「先生」


「はい」


「もし妊娠週数が事実とズレていたら?」


「父親が別である可能性が出ます」


 空気が、澄む。


 


 家に帰ると、夫はいなかった。


 テーブルの上に、里奈からのメッセージが届いている。


『つわりひどくてさー』


 私は返信せず、あるものを開いた。


 クラウドに保存していた、夫の位置情報履歴。


 そして、クレジットカード明細。


 その週。


 里奈のマンション近くで使われた履歴はない。


 


 次に、私は里奈のSNSを遡る。


 妊娠発表の前日。


 投稿。


『久しぶりに飲みすぎた〜笑』


 日付を見る。


 もし彼女の言う週数が正しいなら、


 その日はすでに妊娠5週目。


 アルコールを控える時期。


 


 指先が冷たくなる。


 


 私はスクリーンショットを保存する。


 保存。


 保存。


 保存。


 


 矛盾は、小さい。


 でも。


 積み重なれば、嘘になる。


 


 夜、夫が帰宅した。


「里奈、つわりひどいらしい」


 私は静かに聞く。


「何週だっけ?」


「え?」


「妊娠」


「……七週、くらいって言ってた」


 七週。


 私の計算では、九週になるはず。


「確定なの?」


「医者が言ったって」


 医者の名前は?


 母子手帳は?


 診断書は?


 何も知らない。


 


 私はにこりと笑う。


「そう」


 夫は安心したように息を吐く。


 


 その瞬間、確信した。


 彼は、確認していない。


 信じたいことだけを、信じている。


 


 私はスマホを閉じる。


 静かに、次の段階へ進む。


 


 奇跡が二度起きたんじゃない。


 どちらかが、計算を間違えている。


 そして——


 嘘は、数字に弱い。


(続く)


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