出会い
「はぁ..はぁ...」
竜を倒しはいいけど流石に疲れた。
竜の攻撃には常に意識を張り詰めていたせいか精神的にも疲労が溜まっている。
(でもガイスを探さないと...)
ガイスはしぶとい男だ。個人でBランクにも到達した彼がそんな簡単に死ぬわけがない。
都市はまだ燃えている場所もある。もし動けないようならまずい。あの炎の危険性は先ほど身をもって体験した。
「とにかく見つけないとっ!」
体に鞭をいれてガイスを探す。
あれから歩いて都市の中心に向かう。
中心街には地下もあり、誰かがいるかもしれない。
もしかしたらガイスもそこにいるかも...
しかし道中人っ子1人見当たらない。やはりおかしい。
都市に入ったときもそうだが、あまりにも人の気配がなさすぎる。いくら竜が襲ってきたとはいえ人が見当たらないなんてことがあるのだろうか。
あたりには死体はいくつかあれど、助けを求めるような声すらも聞こえない。
それに...
「冒険者の姿がない」
そもそもなぜあの竜と戦っていたのがスランサとマルスだけだったのか今になって疑問が生じる。
ハルファスに〈悪酒〉メンバーより有力な冒険者はいなかったとはいえ、個人ではそこそこ名のある冒険者達も居たはずなのだ。
竜相手だったことを踏まえても全員が一目散に逃げるなんてあり得るのだろうか?
それなのにあの場で竜と戦っていたのは二人だけ。
もしかしたら二人以外の冒険者も戦っていたのかもしれないが、それにしたってこんなに少ないことはなかったはずだ。
「一体何があったんだ」
都市の中心を越えれば冒険者ギルドがある。
もしかしたらそちらに人々が避難していて冒険者もその手伝いをしているのかもしれないと考えて進んでいる間に、都市の中心まで来た。
そして、目を疑う光景が広がっていた。
「な、んだこれ....」
何も無かった。
文字通り、都市の中心より先は無が広がっていた。
今いる位置より先は全て更地となっていた。
私が入ってきた城門の対角にある城門辺りまで更地は広がっていた。
「あの飛んでいった竜の仕業なの?」
私が倒した竜も脅威的ではあったが、この現象を起こせるとは思えない。ならばハルファスの半分を更地にしたのはあの巨大な黒竜以外には考えられない。
もしガイスが更地になる前にいたとしたら...
「嫌だ!そんなのは、絶対にっ!」
認めたくない。そんなのはありえない。
自分にそう言い聞かせる。
「真っ直ぐここまで向かってきたけど探していないとこはある!そこにガイスはきっといる!」
そう思い引き換えそうとする。
そして...
「.....え?」
竜がいた。
先ほど倒した黒竜でも飛び去った巨大な黒竜でもない。
赤い竜が建物を一つ挟んで歩いていた。
(いつから?それに音も気配も全く感じなかった。そもそもどこに隠れてい..)
あまりの出来事に体が動きを止める、止めてしまった。
直後、竜の尻尾が建物越しに私のの体を直撃した。
「がっ!?」
強化魔法の効力が持続していたのと建物がクッションのような形となり、威力が落ちていたためか、どうにか即死は免れた。しかし、避けるべき攻撃を直に受けてしまい私の体は大きく弾き飛ばされた。
「かはっ!?」
道にある壁にめり込むような形で叩きつけられ口から血を吐く。
腕と肋の骨が折れた。
息をするたびに口から血が溢れる
「ヒー、ル....」
なんとか回復魔法を行使して血を止めるが、腕は以前折れたまま。肋の骨もおそらくは治っていないかもしれない。
(まずいっ、体が動かないっ!)
先の戦闘と今の一撃。
これにより私はもう立ち上がることさえできない。
もう魔力も殆ど残っていない。少なくとも攻撃魔法を使う余裕も今の私にはない。
呼吸が荒い。
今の状況を打開する策を模索するが何も考えつかない。
赤い竜は私の方へゆっくりと向かってくる。
(ああ...死ぬなこれは...)
もう助からない。ここから立ち上がることもできないので諦める他ない。
「最後まで未熟なままだったな...」
竜を見た瞬間すぐに距離を取ればまだ助かる道はあったかもしれない。経験のある冒険者であれば反射的に行えたはずの行動をとれなかった。
その結果がこれだ。
まもなく私は、エリナリーゼ・ミットナードの人生はこれで終わる。
最後まで未熟な冒険者、先にあの世へ行ってしまったスランサとマルスに合わせる顔がない。
「死にたくないなぁ...」
ガイスを探しだすこともできず、先にあの世へと行ってしまったスランサとマルスを埋葬してやることもできず、仲間に誇れるような冒険者になることもできないまま死ぬなんて...だけど...
「二人の仇はとれたからいいか、な?」
スランサとマルスがダメージを与えていたとはいえ、たった一人で黒竜を倒せたのだ。
そのことだけはあの世で自慢できるな。
あと杖も自慢しよう。私が作った物ではないがいいだろう。なかなかの出来なのだ。
竜が迫る。
私を食べるのだろうか?
殺すなら一思いに殺して欲しい。意識のある状態で食べられられるなど勘弁してほしい。
全てを諦め、目を閉じる。
数十秒後にくる終わりを受け入れる。
そして....
I
I
I
I
ドスンっ!!!!
その終わりがいつまでも訪れることはなかった。
何かが落ちた音を聞いて目を開ける。
「.....え?」
目の前に竜がいた。
私のほんの数メートル先に赤い竜の首が落ちていた。土埃で見えずらいが、首から切り離された体も倒れていた。
赤い竜の首が切り落とされた部分からは大量の血が流れており、吹き出した血は当たりの道をなんとも似合わない赤色で彩っている。
「いったい何が起...」
「あ、生きてた」
起きているの。そう喋る途中で、声が聞こえた。
声は竜の背中から聞こえてきた。
その背には女の人が乗っていた。
曇り空から差し込んだ日の光が彼女を照らしている。
年齢は私と同じくらいだろうか。
黒い目とをした綺麗な顔立ち。
長く美しい黒髪と、黒を基調に白の鋭い線の入った服を纏い、その上に一枚の白く大きな布を羽織っている。
そして、その両手には白く美しい、とても高価そうな大剣が握られている。
おそらく、いや間違いなく、私は目の前の少女に救われたのだ。
「....」
彼女の姿と剣の美しさに言葉を失う。
私が何も発しないのを疑問に感じたのか、首を傾げて
「...やっぱり死んでる?」
その言葉にハッと我に戻る。
「生きてるわ!助けてくれてありがとう!本当に助かった...」
生きてることを改めて実感してホッとする。
「生きてたのならよかった。貴女名前は?」
「エリナ、リーゼ、エリナリーゼ・ミットナード」
「エリナリーゼね?初めまして。私はラナレイって名前らしいの。よろしくね?」
ラナレイと名乗った少女は竜の背から降りてこちらに手を差し伸べてきた。
一瞬疑問に思う発言をしていたが、差し伸べてられた手を握り返す。
これが私、魔法使いのエリナリーゼとラナレイと名乗った謎の少女との初めての出会いである。




