2 約束と噂
翌朝
日が昇る頃に起きて身支度を済ませてからレスランに向かう。
「行ってくると一言告げた方がよかったか?」
いや、アイツらのことだ。きっと昼まで寝ているに違いない。
そんなことを考えていると、街から出るための門の付近に三人の見知った姿が見える。
「エリナリーゼ早く戻ってこいよな〜」
「そうよぉ〜。お姉さんを一人にしないでねぇ〜」
「くれぐれも道中気をつけて行くんだよ〜」
「....」
入口に付近にガイスとスランサ、マルスがどこからか持ってきたであろう椅子に座って待っていた。
「驚いた。まさか昨日からここにいたの?」
「起きれる自信がなかったからなぁ〜。お前が来るまで飲んで待ってた」
眠そうな声でガイスが答えた。
「旅立つ仲間を見送るのが冒険者のルールさ」
知らないルールをマルスが教えてくれた。
「でも見送ったらすぐに寝るわぁ〜この場でぇ」
守衛の迷惑になりそうなことをスランサが言う。
そんな仲間の言葉に嬉しさが溢れてきた。
「旅って、明後日には戻ってくのに」
笑顔でそう答える
「いいんだよ。冒険者はいつ死ぬかわからない。だからこそ、仲間にはどんなに短い別れでも次に会う約束をして互いの無事を祈るもんなのさ」
物騒なことを言うものだ。
だが、その心使いは嬉しかった。
「そうだね。じゃあ私はすぐに帰ってくるから三人ともこんな所で寝て馬に跳ねられて死ぬんじゃないぞ」
「そうねぇ〜。ここで馬に跳ねられて死ぬなんてゴメンだわぁ〜」
「ならさっさと再会のための契りを交わして宿に戻るとしようか」
「約束の酒だな!」
ガイスの声に覇気が戻る。酒で眠気も飛ぶのか?
ただ飲みたいだけでは?というかまだ飲めるか?
そんなことを思ったが仲間の親切は素直に受け取っておくことにした。
「いいよ、一杯なら付き合ってあげる」
「決まりねぇ〜」
スランサがそう言って人数分のグラスに酒を注いだ。
「それでは!俺たちの仲間のエリナリーゼの旅立ちと再会をこの一杯に誓って乾杯!!」
「「「乾杯〜!」」」
ガイスの合図で全員でグラスを交わし、酒を飲み干す。やっぱ美味しくないな...
「じゃあ、行ってきます」
グラスを置き、三人に別れてを告げて出発する。
別にまた会えるのになんだか凄く寂しくなった。
「「「いってこい(いってらっしゃい〜)!」」」
三人に見送られて私はレスランに向けて旅立つ。
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その日の内に予定より早くレスランに到着した。
馬を預け、目的の店で杖を受け取る。
「これが私の杖」
すごく良い。重さやデザイン、質感や魔力の通りも完璧な仕上がりだ。
デザインから素材までオーダーメイドしたことでそれなりの金額にはなったが十分に満足する出来だった。
特に杖に嵌め込まれている赤い魔石は魔力操作を補助してくれる〈リュミーナの宝玉〉だ。
これで魔法のコントロール精度の上昇が見込める。
杖を持った今の自分の実力を知りたくて魔法の試し撃ちをさせてもらおうとしたが、店内では攻撃魔法の使用は禁止らしい。
仕方ないので操作魔法のみ試してみる。
そして思わぬ収穫を得た。
「操作魔法の射程が延びてる。」
もともと操作系の魔法はイメージが簡単にできたので射程距離が長かったのだが、杖の影響かさらに射程を延ばせた。おそらく100mくらいまでなら操れるようになってる。
これなら攻撃魔法でもしっかりと相手に当てることができるようになってるだろう。
今なら前回のクエスト時の魔猪の数が倍にだとしても魔法を当てられそうだ。
「だめ。油断はしないこと」
驕りや油断は命に関わる。それは自分だけでなく、大切な仲間の命も含めてだ。杖を手に入れたとはいえ実戦を行ったわけではない。実戦でしっかりと自分の力を把握しなくては。
彼らから学んだことを忘れてはいけない。
心の中にもう一度そのことを刻む。
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さて、杖も受け取ったことだし、この後は食事でもすることにしよう。
以前にスランサに連れて行ってもらったの魚料理の店がいい。あの店の魚料理は本当に美味しいかった。
店に到着し、注文を済ませて料理を待っていると隣の冒険者たちの会話が聞こえてくる。
「そういや聞いたか?なんでも最近、王国内で黒い竜を見たって話」
「黒い竜?なんで帝国にいる竜が王国にいるんだ?」
竜。アスラン王国とは大きな山を一つ挟んだ隣にあるファリス帝国の北西に生息するとされる魔物だ。
一匹でも非常に強力な魔物であり、その中でも黒い竜は強力な個体なら国すら滅ぼせると言われている。
王国内で竜を見ないのは帝国側が北の山脈にある
[アルビスの谷]から抜けた竜を自国の安全のために全力で狩り尽くしているからだと帝国出身のガイスから聞いたことを思い出す。そんな竜が王国内で?
仮に帝国の包囲網を抜けているとしてもアスラン王国に竜が入ったのならもっと目撃情報があるはずだ。
「わからん。だが見たってヤツは帝国出身の冒険者らしいぜ?」
「見間違えだろ。仮に黒い竜が王国内にいたら噂じゃなくてもっとデカい騒ぎになってるさ。
俺はそんな噂より東にある[ガランドールの大樹]が結界ごと消えてたことの方がよっぽど驚きだぜ」
その話は私も耳にした。
ガランドールの大樹、レスランから東に四日ほど進んだ所にあるガランドールの街の大樹が一週間ほど前に大樹を囲っていた結界ごと消滅したという話。あまり信じていなかったが本当だったのか。
大樹の結界は動物や魔物、人間から葉っぱに至るまでありとあらゆるものを通さないと言われている。
これまで多くの冒険者や魔法使いが結界の中に入ろうとしたが誰一人として入れたものはいないらしい。
そのため木と結界についてわかっていることは、
非常に大きく、少なくとも三百年前からは存在するということだけらしい。
以前一度見たことがあったがあの大樹は王都の城くらいのサイズがあり大樹から不思議な魔力を感じたのを覚えている。
元々結界の範囲が広く、道の通りには不便だが、結界付近には魔物が寄り付かないことから安全に生活できるため古くから神聖な大木として扱われていたらしい。
「確かにあれは驚いた。なんで急に消えたんだろうな?」
「わからん。その日ガランドールにいた知り合いから話を聞いだが、寝る前まではあったが朝起きたら更地になってたそうだぜ。あと大樹が消えたその日の朝早くに値が張りそうな大剣を持った女が街に来たらしい。しかも一人だけで」
なんだそれは。怪しさしかない女だな。
「値が張りそうな大剣を持った女の冒険者なんて聞いたことないな。さすがに怪し過ぎるだろその女」
「そうだよな?しかもその女、街で食い逃げしたらしいぜ。捕まえようとしたがとんでもなく速かったとも言ってたな」
「ハハハっ!なら大樹と結界はその女が食ったせいで消えたのかもな!」
「まぁ女の件は偶然だろう。大方、ガランドールにくる途中で結界が消えてたんだろ。結界が消えてたなら迂回することなく真っ直ぐガランドールまで行けたはずだからな。目立つ大剣を持ってるならそのうち目撃者も出てくるだろ」
話が終わったタイミングで私の席に料理が運ばれてきた。
気になる話だったが昨日の夜から何も食べていないのでか随分とお腹が空いている。隣の席の話よりも目の前の食事に意識を向ける。
「今日はデザートも追加しようかな」
今ならたくさん食べられそうだ。
なおこの後デザートを注文したは良いが手持ちの金では足りなかったため私も食い逃げ女になるとこだった。




