1 仲間
ー城塞都市ハルファス郊外の森ー
「マルス!エリナリーゼ!魔熊と魔鷹の群れは俺とスランサで捌くが小さいヤツらは面倒だ!お前ら二人でなんとかしとけ!!」
Bランク冒険者パーティー[悪酒]のリーダーであり、前衛担当の大男ガイスが大槍を構えたまま大声をあげてこちらに指示を出す。
「極力減らすけど流石に数が多いわ。ごめんねエリナちゃん!」
続いてガイスと同じ前衛であり、こちらも背の高い双剣使いの女スランサが私にだけ謝まりながら魔熊と魔猪、小鬼を捌いていく。
「悪いと思っているのなら僕にも謝ってほしいんだけどねぇ!?」
そう叫びながら私と同じ後衛担当の弓使いで猫人の男マルスは魔力で作った矢で次々と小鬼を狩り続ける。
「重たいのは任せたよエリナリーゼ」
ウィンクしながら笑顔でこちらを向いてきた。
面倒な方の仕事を押し付けてきたマルスにムカついたが、仕方ないので魔法を行使する。
「石の雨」
狙いを定め、初級魔法を発動する。魔法によりこちらに向かってきた魔猪は次々と潰されていった。
が、三匹ほど外してしまったようだ。
もう一度魔法を使い今度こそ魔猪を全滅させる。
「また外してしまった...」
数が多くなると命中精度が落ちてしまうのが私の今の弱点。前よりはマシになったが優秀な魔法使いと呼ばれるレベルにはまだまだな実力だ。
前の方でも片がついたのか、素材の剥ぎ取りをスランサに任せてガイスだけ先に戻ってきた。
「しっかし結構な数がいたなぁ...魔物がこんなにいるとは思わなかったぜ。全部で五十はいたか?この辺りの..北の方に強力な魔物が出て追いやられたのか?」
ガイスの言う通り結構な数がいた。
本来、複数の魔物が同時に現れるのは珍しくないが、それにしたって今回の数は異常に多かった。
しかもまとめて南下してくるなど強力な魔物から逃げてきたと考えるのが妥当なのだが...
「いや、北の方には強力な魔物はいないはずだよ。仮にいたとしたら僕の感知に引っかかっているよ。強力な魔物なら魔力が多いから尚更ね」
マルスは猫人であるため、魔力の感知や魔物特有の匂いなどに敏感な種族だ。
それに加えてマルスは自身の魔法で元から持つ感覚を数倍に引き上がることができる。
その能力の優秀さゆえに〈観測者〉の二つ名がつけられるほどだ。
これまでの冒険で何度もマルスの感知能力が役に立ってきたし、ギルドだけでなく王国の専門部隊から勧誘がくるほど彼の能力には信用が置ける。
「ま、それならいいが...一応警戒はしておけよ。油断してるとこを突然襲われて死ぬなんてごめんだからな」
帰るまでが冒険だ、とガイスが注意を払うよう私達に指示した。
「今日はギルド直接の依頼とはいえ楽な任務のはずだったんだが余分な仕事が増えちまったぜ。
とりあえず魔物のことはギルドには伝えとくか。
必要そうならこの辺りを調べさせればいい。そん時はマルス、お前も手伝ってやれ」
うへぇと露骨に嫌そうな顔をするマルス。
さっき面倒な仕事を押し付けたツケが回ってきたな...いい気味だ。
そんな会話をしているといつの間に戻ってきたのか、スランサが私の背後から抱きついてきた。
「しっかし相変わらず凄い威力ねぇエリナちゃん。今使ったの初級魔法でしょう?」
「流石〈最高の魔力の持ち主〉の名は伊達じゃねえってことだ!」
「...」
その二つ名で呼ばれるの、あんまり好きじゃないんだけどな...
魔法の効力は発動のために使用した魔力の量も大切だが、それに加えて質も大切なのだ。
質の異なる魔力を持った二人が同じ魔法を同じ魔力の量で使用してもその差によって効力が変わってくる。もちろん細かい技術や発動速度なども重要だか、基本は量と質によって魔法の効力は決まる。
私は魔力の量は平均より少し多い程度だが、魔力の質は異常に高いらしく、簡単な魔法でもそれなりの効力を発揮をすることができる。
だから普段は魔力の使用量の少ない初級魔法で魔力を節約しているのだ。
だが、その魔力の質の高さの珍しさゆえに最高の魔力の持ち主なんて実力と実績に見合わない二つ名を貰ってしまった。
私の魔法は命中精度が悪く、攻撃魔法のコントロールがまだ上手くできない。
二つ名という冒険者の栄誉の証を貰っているのにも関わらずだ。
二つ名を持つ他の冒険者は私のような未熟者と違ってしっかりと力を使いこなし、実績のある優秀な冒険者だ。
だから私は自分の二つ名があまり好きではない。
まだ二つ名を貰うには早すぎるのだ。
「ガイス?エリナリーゼはその名の通り凄い力を持ってるけど、あんまり呼ばれるのは好きじゃないんだから本人の前では言わないであげなよ」
顔に出ていたのか。マルスがこちらを察してくれた発言でフォローしてくれた。こういった所はコイツの良いところだな。
「いいじゃねえか。今はまだエリナリーゼ自身が未熟な点があると思っていてもそれは経験で解決できる課題だ。それまでは仲間の俺らで助けてやれるとこは助けてやればいい。
それに、将来エリナリーゼは必ず歴史に名を残すレベルの魔法使いになるぜ?それだけの才能を感じる。
しかもまだ15だぜ!こんだけ若い時から二つ名を貰うほどの力を持ってるんだ。そのことを自覚しろ。もっと自信を持て!!」
そう言って私を鼓舞してくれる
だが、と付け加えて
「才能に驕るなよ?驕りは成長を止め、油断を生み、呆気なく死ぬことになる。どんな凄えヤツでもな。それも忘れんなよ」
釘も刺してくる
「わかってるよ。それだけは。パーティーには入った時に十分思い知ったさ」
油断は冒険者にとって大きな死因になるものだ。
それをパーティーに入った時に擬似的に体験させられたのを今でも覚えている。アレは絶対に忘れられない、忘れてはならない体験だった。
「わかってるならいい」
そう言ってガイスはガハハっと笑いながら私の背を叩いた。
〈剛槍〉の二つ名を持ち、個人でもBランクの冒険者であるガイスの言葉は重みがある。
そんな実力者である彼に褒められると自分に自信が持ててくる。
「そうそう。エリナちゃんはまだまだ若いんだからぁ〜これから色々経験して学んでいけばいいのよぉ〜。あと可愛くてスタイルも良くて黒く長い髪も綺麗で凄いんだからそこも自信持ってねぇ〜」
スランサはそう言ってまた抱きついてくる。
年齢はともかく容姿は冒険者には関係ないだろ...
そんな彼女はこのパーティーにおいて、ガイスよりも冒険者歴が長く、〈紅い双剣〉の二つ名を与えられている優秀な冒険者だ。
彼女も自らの二つ名を安直すぎだと呼ばれるのを好まないのだが、私には今みたいに「凄い才能があるんだから自信を持つのよぉ〜」と常に言ってくれる。
「たしかに、二人の言う通りかもしれないね。エリナリーゼは自分にもっと自信を持つべきかもしれないね。
君には冒険者としての才能がある。それに加えて生まれ持った魔力という才能もある。
だから君はもっとできるという自信を持つべきだ。それが一番君が望む成長に繋がる鍵になるんだから。
それに案外、今日の魔物は君の魔力につられて襲ってきたのかもしれないよ?君の才能は人々だけでなく魔物にまで認められるものかもしれないね」
そう茶化しながらも私の素質を褒めてくれるマルス。
「三人ともありがと」
仲間のそれぞれが私のことを気遣い、認め、期待してくれている。
冒険者としての道を歩んで行こうとした自分を仲間として迎え入れて、冒険者としての知識や技術だけでなく、仲間の大切さや信頼というものをこのパーティーに入ってから二年間で沢山学ばせてくれた彼らには感謝している。
本当にいい仲間に出会えたものだ。
私はまだ冒険者になって3年と歴も短く、腕も未熟。けれど、そんな私に期待してくれる彼らのためにも、彼らの仲間として恥じない魔法使いに一刻も早くなりたいのだ。
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城塞都市ハルファスの冒険者ギルドに戻ってきて依頼の報告と素材の換金などを済ませる。食事は先の魔猪を焼いて食べてきたので後はお風呂に入って寝るだけなのだが...
「おいエリナリーゼ!今日は飲みに付き合えよ!」
「そうそう、今日こそいいでしょう?。コイツとマルスと三人では飲むのはもう飽きたわぁ〜」
「その通りさ!僕も熱苦しい大男と枯れた華と飲むのは嫌になってきてね!そろそろ酒の場に麗しい華があるべきだと思うのさ!」
「「誰が熱苦しいだって(枯れた華よ)!?」」
彼らの唯一尊敬できない時間がやってきた。
「私はお酒がそこまで好きじゃない...あとお前達の酒癖は最悪だから二度と一緒に飲むのは嫌だと言ったはずだけど?」
[悪酒]とパーティーの名前になるほど酒癖が悪い。しかも三人共...
前に一度飲んだこと(飲まされたこと)があったがそれもう酷かった。
ガイスは樽ごと酒を飲んでいたのだが樽をそこら中に放り投げてくるのだ。
あととんでもない力で叩いてくるものだから骨が折れるかと思った。
一応女の身なので加減はしてほしい。
スランサは何故か服を脱がせようと常にこちらを狙い、
マルスは下手くそな歌をずっと歌い続け、
挙句の果てには三人で酒場にいた他の客と賭けをして大負けしていた。
とにかく、それはもう本当に酷かった。
何が恐ろしいかって、聞くところによると私のいない時はさらに酷いらしい。
アレより酷いなんて信じられないがたぶん真実なのだろう...
どうして酒場から追い出されていないのか不思議なくらいだ。
「それに私は明日早いの。今朝言ったでしょ?」
「んあ?ああ、そうか。
明日はレスランに頼んでた杖が完成したから受け取りに行くんだったな」
「そうだよ。ようやく完成したんだ。
早く杖をとりにいかなきゃ」
冒険者になってからずっと杖がない状態で魔法を使っていてそれでも問題はなかったのだが、自分の弱点を自覚してからは、杖があれば多少はマシになるのではないかと考えた。
それにどうせなら特注で作った物がいいと思い、少しづつ貯金貯め、|ハルファスの隣の都市であるレスランにいる魔法使いの間では有名な杖職人にオーダーメイドの杖を頼んだのだ。
だが、その有名さ故なのかその職人には常に依頼が押し寄せているのだ。そのため注文してから完成したと連絡が今朝くるまでに一年もの時間がかかった。
偶然ハルファスに来ていたのでホントは今日の内にレスランへ出発して杖を受け取りたかったのだが、ギルドからの依頼があるとなれば仕方がなかった。三人に任せてもよかったが私も仲間だからね。
今日はもう遅いので明日の朝一でここを出る。
早朝に出れば夕方前にはレスランに着くだろう。
ハルファスとレスランの間の道は整備されていて安全に速く移動できるのだ。
「明日はいないけど明後日には帰ってくるよ」
どれくらいパーティーいないかを伝えておく。
いざとなったら魔力鳩を介して連絡をとればいい。
私がいなくてもこの辺りの依頼なら問題ないだろうが三人ともだらだらと酒を飲んで依頼もロクに受けないだろう。
今日は魔物が入ってこないための結界の効力の確認というギルド直々の依頼と私個人の回復ポーション作成用の薬草採取のため森に出たが、この街の酒がよほど気に入っていたのか、街に到着して三日は飲んでは寝ての生活だったのだ。
「ま、それなら仕方ないわねぇ〜。杖は私たちの武器と同じで魔法使いにとっては重要なもの。しっかりしたものが欲しいものねぇ〜」
「仕方ない。そういうことならまた次の機会に飲もうか。この街の酒を制覇まであと少しだからね。エリナリーゼがレスランから戻ってくるまでには終わらせるさ」
しつこく誘われると思ったが意外にも物分かりがよかった。
「じゃ、俺たちは飲んでるから気が向いたらこいよ〜」
「おやすみぃ〜」
「さぁ!今日も飲むぞ〜」
違う...早く飲みたいだけだな。
酒癖さえ悪くなかったら一緒に飲んであげてもいいのだが...そう思いながら呆れて宿に戻ってさっさと寝た。
ちなみに、アスラン王国てば18歳以上しか酒を飲んではいけないが冒険者にそんなルールはないとのこと(スランサ談)




