詰所
自警団の面接はとてもあっさりしたものだった。
ギルドに掲示された自警団募集の張り紙。
専用の書類に自分の名前、住所、配偶者の有無を記入した物を送付し受付で提出すると、2日ほどで家に自警団の者が来てすぐに詰所に来て欲しいとのことだった。
「これは採用ということで良かったのだろうか。」
「あぁ、そうだ。なんせ人が足りないんだ。ご留意願いたい。」
よっぽど人手不足なのだろう。
家まで迎えに来た自警団は額に汗をかき、今にも倒れそうな形相をしている。
詰所で働く自警団員の業務は主に戦地で必要な武器や防具の仕入れ、兵士の雇用、訓練、駐屯地から届いた書簡の受付、その他街の警備等と多様である。
俺も父が詰所で働いていた時の事をよく聞かされていたのでその過酷さを知っている。
ましてや戦争となると、ただでさえ足りていない人員はさらに削減され、まさに地獄と化すのだとか。
「ついたぞ。入所許可証を取ってくるから待っとけ。」
そう言い残すと自警団の男はさっさと門の中に姿を消していった。
ここで全てが分かるのかもしれない。そう自分に言い聞かせる。
怖い。
震える腕をもう片方の腕で抑えようとするがもう片方の腕も震えている。
ここに一人にしないでほしい。
理屈では分からない、謎の寒気が俺を襲う。
巨大で堅牢な詰所の前に居る自分がいかに小さな生き物であるかを感じる。
「よぉ、お前も来てたか。」
そう俺の背後から誰かが声を掛ける。
オレオンの声だ。
「お前もここで待たされてるのか」
「あぁ、入所許可証を取ってくると言われてもう20分以上ここで待たされている。おかしいよな、遅すぎる
。」
俺は冷静を装ってオレオンに問いかけた。
「お前、なんか慣れてるな。詰所に来たことがあるのか。」
オレオンは不思議そうな顔をして、ないと答えた。
それにしては場馴れした感じがする。
オレオンは皆が緊張する場面では逆にテンションが上がる質なんだと言うが、そんな感じでもない。まぁ、俺も冷静ではないのだし、変な気になっているのかもしれないと思って受け流すことにした。
「許可証を持ってきたぞ。」
さっきの男が門から出てきた。
男は「ウェイン」と「オレオン」と書かれた名札を俺達に手渡し、ついて来いと言う。
門から中に入るとそこには幅5m程の屋根があるだけの半屋外の通路が左右に伸びており、向かう先には広々とした芝生が広がっていた。
芝生の右手の方には何かが入っているであろう木箱が大量に置かれている。武器や防具が入っているのであろうか。
また、左側には訓練で使う設備がズラッと並んでいる。これまた大量の器具があるのだが、それらを使う兵士の姿はなくガランとしている。
「ここがお前たちの今日からの職場だ。」
男はそう言うと懐に手を入れ、俺達に書類を手渡してきた。
「その書類を持って物資係の窓口にいけ。装備一式と保険係の窓口で使う死亡保険の申請書が貰えるはずだ。それが終わったら第二会議室に来い。契約書の準備をしておく。各部署の場所はこの端末に記載されているからこれを使って探せ。これを持って外に出るなよ。内部監査室に通知が入るようになっている。それから、俺の名前はオーディンだ。これからお前たちの所属する第一部隊の副隊長を務めている。よろしく。」
そう早口であらかた説明し終えるとオーディンはそそくさとどこかへ向かっていった。
「オレオン、全部聞き取れたか?」
「あぁ、大体はな。」
俺達は少しの間そこに立ち尽くしていた。
俺は深く深呼吸をする。
大丈夫。きっとすぐに慣れる。
そう言い聞かせて俺達は端末を使って物資係の窓口を探し始めた。