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二本目:とあるピンボールのゲーム

昔、祖父の家にあった気がするゲームの話。

「よし、新人。ここが今日からお前が担当するエリアだ。いろいろ教えるから、ちゃんとついて来いよ。」

「はい!先輩!」


 目が痛くなるような配色の壁に、ガラス張りの床。そこには、奇妙な仕掛けが点在していた。


 鉄球("球"というよりは六角形に近い)の発射台。点数の書かれたバンパー。フリッパーやレーン。

 ここはピンボールゲームの中だ。

 つい先日製造されたばかりのカセットで、役物全てがピカピカしている。

 気を付けないと足を滑らせてしまいそうだ。


 ゲームカセットの中には、登場するキャラクターやアイテムのほかに、それらを整備する整備士や、ゲーム全体の流れを監視する司令官のようなキャラまで様々なものが詰まっている。

 僕はその中でも整備士に属している。


 整備と聞くと、それほど大したものではないと思うかもしれない。

 しかし、ゲームに登場するアイテムやギミックは、定期的に整備しないと、予期せぬ挙動を起こすことがある。

 いわゆる"バグ"だ。

 それが起こると、画面が真っ暗になったり、キャラが地面に埋まったり、敵が無敵になったりと、めちゃくちゃになる。

 だから整備士の役目はとても重要だ。いわば、縁の下の力持ちだ。

 僕も頑張らないと。


「じゃあまずここの点検からだな......」

 そう言って、カクカクした工具箱を漁っているペンギンが、先輩だ。

 このゲームでは整備士をペンギンの姿で描画するらしい。

 きっと、ゲーム内のキャラデータを流用しているんだな。


 整備士の中にもリーダーが存在する。

 リーダーに選ばれたキャラは、整備に関する知識をすべて備えた状態でゲームに入る。

 他の整備士にはそういった知識がない。

 きっと、カセットの容量の都合で、全員には知識を記憶させられないのだろう。

 そのため、リーダー格のキャラが、他の整備士キャラに整備の知識を教える必要があるのだ。


「ここはどういう処理をする場所なんです? 」

 先輩の前には、鉄球ほどの大きさの穴があった。結構深そうだ。

「ここはだな......とりあえずその鉄球をここに入れてみろ。」

 言われたとおりに入れてみた。


「ちょっと危ないから、離れてな。」

「? わかりましt うわっ!」

 穴に入ったはずの鉄球が、勢いよく飛び出してきた。

 驚いて尻もちをついてしまった。ってかもう少しで当たるところだったぞ!


「はっはっは。この穴は、入ってきた鉄球をまた吐き出すんだ。 毎日鉄球を入れて、ちゃんと飛び出してくるか確認するんだぞ。」

 先輩が笑いながら言った。

「先に言ってくださいよ~......」

 不満を口にして、先輩の後についていく。


 そのあとは一通りの整備内容を教えてもらった。

 ボーナスエリアにつながる穴の整備や、ガラス床の下で踊るペンギンの動作確認。

 ゲームの見栄えを良くするためらしいが、なぜペンギンなんだろう......?


 そして今は、最後の整備場所を教えてもらおうとしているところだ。


「最後にここだ。」

 フリッパーの真上辺りの場所で先輩が立ち止まった。

「たしかここに......あったあった。」


 先輩が工具箱から取り出したのは、どう見てもただの"卵"だった。


「これを横並びに三つ設置する。」

「こんなところにですか?鉄球が来たら潰れちゃいますよ。」


 もう一度言うが、ここはピンボールゲームの中。しかもここはフリッパーの真上だ。

 ほぼ確実に鉄球がここを通るし、当たり前だが卵もつぶれてしまうだろう。


「いや、これは特殊なものでな、鉄球がぶつかったらヒヨコが産まれる。」

「産まれるんですか?! 」

 目を見開いた。え、どういう理屈……?


「じゃあ、そのヒヨコに鉄球がぶつかったらニワトリになるんですか? 」

 ふと、疑問に思ったことを聞いてみる。


「いや、消滅する。」

 ......頭を抱えた。訳が分からない。

 ここでは常識が通用しないらしい。そりゃそうか、ゲームだもんな。


「んでまた鉄球がここを通過すると卵が産まれる。」

「そうなんですね......」

 全力で突っ込みを入れたいが、ぐっとこらえた。

 もう驚かないぞ。


「ちゃんと"卵"を置くんだぞ。それ以外のモノを置くとバグるからな。こんなふうに。」

 そう言って、先輩は工具箱から"スコア表示用の数字"を取り出し、そこに置いた。すると、


「うわぁあ!」

 思わず声を出してしまった。

 置かれた"それ"がものすごい速さで点滅し、もはや数字とは呼べない異形のものになった。これがバグか!怖っ!


 先輩がスッと"それ"を取り外す。

「な?ほんとに気を付けるんだぞ。」

「は、はい......」

 ビクついたまま答えた。ミスは許されないってことか......


「これでお前の担当箇所は以上だ。大体覚えたか?」

「まぁなんとか。頑張ってみます!」

 そういうと先輩は「よし」とだけ言って、次の新人整備士のところへ向かった。


 なんとなく、さっきの卵を見つめる。

 ......本当に、鉄球が当たるとヒヨコが生まれるのか?

 そんなことを考えていたら、ふと不安がよぎった。

 もうすぐこのゲームは出荷されて、どこかのゲーム少年(少女かも)のもとへ届くのだろう。

 バグは大丈夫だろうか? ちゃんと整備できるだろうか?

 不安はたくさんあるが、楽しんでもらえるように、全力で頑張ろう。

 心でそう誓って、整備士の待機部屋に戻った。

PLAYER 1

GAME OVER

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