一本目:とある配管工のアクションゲーム
カセットフーフーは、やめましょう。
「あぁ!またミスった......も~」
少し不機嫌な顔が、よくある英単語を映した真っ黒な画面に反射する。
ここでミスるのは何回目か、ゆうに10は超えている。
どうしてもあの場所を超えられない。もうクリアなんて無理なんだろうか。
「こら!いつまで起きてるの!明日も学校あるんだから、早く寝なさい!」
時計を見る。いつの間にかとっくに10時を過ぎていた。
「はぁい......」
電源をオフにする。続きはまた放課後かな......
そう思いながら、自分の部屋に向かった。
「......」
「......もう行ったかな? 」
「行ったっぽいね。」
”ご主人様”がゲームをやめたことを確認して、息をつく。
「やっと終わった~~。もう何回踏まれればいいんだよ......」
そんなことをぼやきながら、
カクカクした雲が浮かぶ、あからさまに不自然な水色の空を見上げているのが僕、
”キノコの形”をした雑魚敵Aだ。
「ほんとな......俺なんて何度”緑甲羅”を脱がされたか」
そうやって地面に座り込んでいるのが、
僕と同じ場所に配置される友人、緑の甲羅を身に着けた雑魚敵B。
僕たちはいつも、"仕事"が終わると二人で話し込む。
「こんだけ働いても、たった10コインかぁ......これじゃあ飲み代にもならないや。」
給料はゲーム内で使用されている通貨、コインで支払われる。
コインといっても、妙にカクカクして薄っぺらい、まがい物のようなものだ。
「貰えるだけましさ。あんまりプレイされない"面"で待機してる奴らなんて、もっと少ないって聞いたよ。」
顔をしかめた。ここはやはり恵まれた面なんだろうな......痛いし疲れるけど。
「それにしてもあの"配管工"さん、もう少し優しく踏んでくれないかなぁ......なんだか今日はいつも以上に強く踏まれた気がするよ。」
配管工さんは、いわゆるスター的な存在だ。
唯一"ご主人様"に操作される人で、この世界で一番強い。火だって投げれるし。
「わかる、ご主人様に酷使されて少しイラついてたのかな。俺の甲羅を壁に向かってずっと蹴り続けさせられてたし.....」
一定の動きしかできない僕たちとは違い、配管工さんは自由自在に動ける。
いや、動かされる、のほうが正しいか。
自分の行動を他者に制御されるって、いったいどんな感覚なんだろうな。
まぁ、僕たちも仕事中は平行移動しかできないから、同じようなもんか。
いつか僕も、主役になってみたいな。
なんてことを考えてたら、
「でも、その分給料もいいし、人気者だから友人も多い。きっと今頃、お城で"姫様"や"ボスキャラ"たちと楽しく宴会してるんだろうなぁ......うらやましい。」
と、友人がため息交じりに言った。
「そんな悲しまないでよ。僕がいるじゃないか。なんか一緒に食べに行こうよ。この前、安くて美味しいラーメン屋を見つけたんだ。」
この世界には大きく分けて三つの町がある。
僕たちがいる地上の町、"ツタ"を登っていける雲の町、
そして、"土管"から行ける地下の町だ。
地下の町には飲食店が多くあり、そのラーメン屋もそこにある。
「お、いいね! 」
じゃあ行くか、と移動しようとしたその時
「テレレレレレ♪テレレレレレ♪」
と、まるで自分がもう一人増えるような気がする、
始業を知らせるサイレンが鳴った。
「え?!今日はもう終わりじゃないの?! 」
「しまった、今日はXデーか......」
Xデー、つまり”深夜のお忍びゲームデー”だ。
「まずいまずい、早く行かないと! 」
僕たちは急いで、いつもの配置についた。
友人とのラーメンはおあずけだ。
「はぁ、また元気にやられますか......」
そうぼやいて、踏まれるのを待つことにした。
これで残業代が出ればいいな......
真っ暗なリビング、時計はすでに0時を回ろうとしている。
音を立てずに来たんだ、両親にはバレていないだろう。
電源スイッチを慎重にオンにする。もちろんテレビの音量は0だ。
どんな小さな音でも立てないようにするのが、お忍びゲーマーとしての流儀だ。
「よし、絶対クリアしてやる!」
心でそう誓って、配管工を動かし始めた。
GAME OVER
CONTINUE? Y/N