〈第8話〉『【再創造】』
王立クロフォード学園―――学園闘技場 武舞台
(……?どうなっちょる?さっきからアイツの狙いが大分外れてきちょるけど……)
無理矢理の急制動を止めたうちをし止められなかった【炎球】石畳に落ち爆散する。
最小限の左右へのステップに加え前方後方の変則的な回避ステップに切り替えてしばらくして、エルザの【炎球】がうちという攻撃対象を大きく外れ始めていることにうちは気付く。
(アイツみたいな実力がある奴がここまで【炎球】を外し続ける事ってあるんか?)
対戦中のエルザと観戦している生徒には、【炎球】が外れている理由が分かっている様だったが、【決闘】に集中しているうちには、エルザが【炎球】を外し続ける理由が分からなかった。
だが、この攻撃を外し続けている状況が、好機だと思いうちはこのままエルザへ木剣の届く距離まで詰め続ける。
「ちっ!」
(【創造】からの【炎球】の弾速じゃあの子を打ち抜けない!どうしたら……!)
先程まで優勢だったエルザだったが、迫りくるティファに対して思わず舌打ちをし焦りを感じ始める。
「とにかく、脚を止めさせないと!攻撃力は落ちるけど【炎球】の弾速が遅いなら!」
エルザは自身が【創造】できる最大の7つの光球を【創造】し、それに火属性を【創造】した【炎球】を創り出し、分身し狙いの定まらないティファへ向けて、全弾をエルザは攻撃対象へのコントロールを敢えてせず、無作為に広範囲で7つの【炎球】を展開発射する。
「『【再創造】』!【炎球】【形状変換】【炎矢】!!」
エルザがそう唱えスタッフを1回転させると、撃ち放たれた【炎球】はティファへ向かって行く最中で術者であるエルザの【再創造】により形状を再構築し、広範囲から数十本の【炎矢】に形状変化させる。
「この数の【炎矢】弾速なら逃げ場はないわよ!!」
(これだけの弾幕、あなたが取る行動は2つ!立ち止まってからの【魔法防盾】或いは【炎矢】の攻撃範囲外への超速回避!)
ティファが【魔法防盾】で防御に徹すれば、【炎球】の連弾で魔力を削り切り、また【炎矢】の左右どちらかの攻撃範囲へ回避した場合【炎球】で狙い撃ちする。
ティファが防御と回避、どちらの行動をとっても対応できるよう、数発の【炎球】を【創造】し追撃の準備をする。
広範囲に展開した【炎矢】を目前に、ティファが急制動を掛ける姿をエルザは確認する。
「なっ!」
(【炎球】の形状が矢の形に変わった!?そうか!これがシアが言っちょった魔法戦技の【再創造】か!!)
目の前で【炎球】の形状が変わった瞬間、これがシンシアが言っていた魔法戦技の【再創造】だとうちは認識し、この【決闘】3日前にシンシアから教授されたことを思い出す。
⚔
「え、エルザお嬢様と対戦するにあ、あたってもう一つ警戒すべきというか、け、懸念しておくべきことが1つあ、あるんですが……」
「懸念?」
うちはシンシアの言葉に小首を傾げ聞き返す。
「は、はい。えっと魔術師には魔法戦技として、放出した魔法を途中で形状の再形成や属性変換ができる【再創造】というものがあります」
シンシアが言葉を詰まらせながらも、【再創造】という魔法戦技の説明をする。
【再創造】
魔術師が使用する魔法戦技で、攻撃魔法として放った魔力の形状をボール、アロー、エッジ等の異なる形状のものへ”再創造”する魔術戦技法の事を言う。
上級者になれば前述した形状以外にも上位形状の再創造可能になり、戦局に応じて様々な形状の再創造が可能になってくる。
「り、り……くりえいと……?」
うちの知らない単語がシンシアの口から新たに出てきたことに、時間は限られているがパンク寸前の頭にまだ知識を詰め込もうとするのか、と目尻に涙をためながら情けない声でシンシアに聞き返す。
この時うちは、クロフォード学園だけなのかは定かではないが、剣術科含め他の科と魔術科に対しての魔法座学に教育の差があるように感じた。
うちがそう感じたのは、魔法座学の教官の魔術科とそれ以外の科に対する温度差である気がした。
そう思ったのが、うちが受けてきた魔法座学で、シンシアが享受するような内容が今の今まで教官の講義から出てきたことがないからだ。
魔術科の基本である魔力循環から色々と魔法に関する基礎学をシンシアが、うちの分かりやすいように丁寧に教え続けてくれるが、うちの頭は指南されていた事をできる限り理解し、覚えようとするが自身が理解できる許容量を超え思考の整理が追い付かなくなり眩暈がし始める。
そんなうちの状況を見兼ねたシンシアが、うちに解り易い様に伝えるべく顎に手御添え「う~ん……」と困惑した表情を浮かべ、唸りながらうちに理解できやすいような解説ができないかと思案する。
「え、えっと、【再創造】という魔術師の戦闘において、魔法戦技があってですね……」
うちが言葉だけで思考を整理することが追い付いていないと判断したシンシアは、うちに対してという訳でもないが、教えるという立場としての困難さを知る。
「魔術師に魔法戦技である【再創造】は多種多様です。例えば、弾速の最も遅く飛距離の短いエッジ系統の魔法を使用したと思い込ませ、あ、相手を油断させてからの弾速の速い【炎矢】に【再創造】で【形状変化】して攻撃してくる手段もあります。」
シンシアは先程までよりゆっくりとした口調と手に持っている己のワンドの尖った先端で、修練所の地面にうちが分かりやすいように文字と図形を用いて説明してくれる。
「ふぅ~む……。シアの説明じゃったら、基本的に【再創造】ちゅう魔法戦技は相手の意表、油断を突いたフェイント戦法……ってこと?」
「そ、そうですね。か、過去の戦争の事を鑑みてからも、こう言った戦技は主流で、よく使われていたと聞いています。ちなみに、実力のある魔術師同士の戦闘では現在でも主流になっています」
うちの私見にシンシアは過去の戦歴から使われ続けてきた戦技であると頷き肯定する。
そこからシンシアが魔術者によるがと前置きし、【再創造】についての詳しい説明を続ける。
①【再創造】には大きく分けて2種類が存在する。
【再創造】は主に形状を変える【形状変化】と属性から【再創造】する【属性変換】の2種に分けられる。
【形状変化】は術者が想像できる範囲での、魔法形状を変化するもの。
【属性変換】は放出した魔法の属性を術者が異属性のものへと任意で変化させる技法。
ただし、現在上記の2種の技法を同時にできる魔術師は、ランノック王国において数人しか確認されていないとされている。
②初級魔法から形状の異なる初級魔法への【再創造】(シンシアのここの説明ではエルザの得意とされる【炎系】の属性に限った技術考察になる)
【炎球】からの各【形状変化】への基本的な制限。
【炎球】→【炎矢】1つの【炎球】からは最大2~3程度の【炎矢】へ【形状変化】が可能。
特徴としては、1つの【炎球】から数本の【炎矢】を【再創造】することができる。
メリットとして弾速は3形状中トップクラスであり、複数の弾幕を少ない魔力で形成できる点にある。
デメリットは弾速と弾幕を重視するばかりに、攻撃対象へ着弾した際、【炎球】程の爆発力が発生しない事と、初級3形状中一発の火力が一番低く致命的なダメージを与えられない事から主に牽制用魔法として扱われることが多い。
【炎球】→【炎刃】は【炎球】を【再創造】により最大2~3発を一点に集中させることによって薄い刃状の【形状変化】を可能とする。
【炎刃】のメリットは初級3形状の中で飛距離は短いものの至近距離から放てば、初級魔法一番の攻撃力を誇る。
【炎刃】のデメリットは薄く形成されている魔力部分があるため、そこを攻撃されると撃ち落とされてしまう。
そして、魔力を発生させた直線部分にのみ攻撃力が特化した初級魔法であるが故、他の2形状の魔法に対し極端に射程距離が短く速度が遅い。
加えて、縦横と言った魔力を幅を広く形成する魔力を薄く発生させることにより、3形状中的が大きく一番撃ち落としやすいとされており、薄い刃状に形成された魔力は、【炎矢】の弾速と弾数が優位に位置し攻撃対象者へ被弾する前に打ち消されてしまうこともある。
加えて、【炎球】を【炎刃】に集約するためのタイムラグが生じてしまう。
この事からエッジ系等の魔法は魔術師にとって使用を控え、気嫌っている術者が多い。
【炎球】→【炎矢】、【炎刃】への各【形状変化】について。
魔術師において一番と言っていいほどに基本的なものがボール系魔法であり、魔術師にとって最も扱い易く、魔法の原点と言っても過言ではないものである。
【炎球】のメリットとしてどんな魔術師に対して形状の想像がし易さと弾速の安定。
【炎球】のデメリットは上述されている通りであり、下記に記すのは【炎矢】、【炎刃】からの【再創造】例である。
【炎矢】→【炎球】
2~数本発生させた【炎矢】を1球の【炎球】へ変化させることができる。
メリットととして【炎矢】にはない攻撃力と爆発力を得ることができるが、デメリットとして初級魔法きっての最速と弾幕が犠牲なる。
加えて2~数本の【炎矢】を集約するタイムラグが生じてしまう。
【炎刃】→【炎球】
初級魔法の3形状で【炎刃】は弾速、飛距離において他2形状に比べ最低評価ではあるが、攻撃力のみについては初級魔法では最高とされている。
だが、分裂する際のタイムラグ。その後の飛距離を考慮する結果、【炎刃】→【炎球】は全くと言っていい程使用されていない
「い、以上の短所、長所は【再創造】という魔法戦技は攻撃魔法を放出後、魔法の形状を術者の技量で形状変換、或いは属性変化をして、攻撃対象への不意を突いたフェイントができるメリットにで戦局を有利になることがで、できます」
「なるほどのぅ……。今のを聞いちょったかぎり【炎球】からの【炎刃】はない。うちの脚を止めたいならやってくるのは……【炎球】からの【炎矢】か!」
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(よし!速度御緩めた!足元を見た限り左右への回避行動も見られない!【魔法防盾】で防御に徹するつもりね!!)
エルザはティファが速度を緩め【炎矢】が着弾する手前で止まったことを見て、そこからの【魔法防盾】で防御へと思考を切り替えたと見定めた。
【再創造】した【炎矢】がティファへ着弾する直前までティファの行動を注視すし、【魔法防盾】を発動した際、魔力削るための追い討ちの【炎球】を準備する。
(シアが言っちょった通り、1発から3本の【炎矢】しか【再創造】されちょらん。エルザが無造作に放った【炎球】は7つ!という事は矢の数は24!)
【再創造】された矢の本数と、矢の飛んでくる位置を視線だけ動かし確認する。
うちは向かってくる数十本の【炎矢】を脚に力を入れ、【炎矢】が着弾する手前で立ち止まりる。
その際生じた石畳と靴底が摩擦で擦りあった焦げた匂いが鼻につく。
「シアと予習しちょって正解じゃったわ!この【炎矢】!うちの脚を止める事が目的じゃろ!!【炎球】みたいに爆発せんのじゃったら!」
(ついさっき思いついた突拍子のないものじゃができるか?いや、やるしかない!)
向かってくる【炎矢】に対して、うちは両手の剣を構え、脚に集約していた魔力で剣速を上げるため両腕に魔力を込める。
加えて、【炎矢】の空を切る風切り音から距離と方向、矢の速度に全神経を集中させる。
「【紫電】【高速二刀】【迅雷】!」
うちの思考が、高速=雷属性というイメージが自己定着しているせいか、両腕に集約した魔力が雷状の形状に無意識に変化し魔力が溢れ出していた。
うちは剣速が高速に強化された両腕から電撃を放ち無我夢中で振り、被弾寸前の矢を寸で打ち払ったるり、無造作に狙いを狙いを定めている攻撃にも反応する。
高速剣を不意っているちとの迫りくる【炎矢】を迎え撃つ。
「なっ!噓でしょ!?」
回避行動も【魔法防盾】での防御にすら徹しないティファにエルザは驚愕する。
四方からの【炎矢】の攻撃に対し、高速の剣撃で太刀打ちする姿に、自分が思っていなかった行動を取られエルザは困惑する。
「なんで?なんでこうも私の思う通りの展開にならないの!?なんなのよ!!なんなのよこの子は!!」
エルザはティファ特有の新たに繰りだした初見殺しの技【紫電】【高速二刀】【迅雷】という思ってもいなかった一手を出され、打ち消されゆく【炎矢】を目の前にしても一瞬戸惑いが生じてしまい、追撃の攻撃を仕掛けることができなかった。
(はっ!私は何を!冷静になりなさい!相手が予測不能の行動をとることは実戦ではよくあることよ!)
エルザは自分の思った通りの戦闘状況にならないことに憤りを感じるつつ、冷静になるよう自分に言い聞かせる。
「脚を止めた事には変わりない!そうやって【炎矢】の迎撃に一生懸命になっていればいいわ!!」
エルザは正気を取り戻し冷静さを取り戻そうとしたが、追撃で用意していた【炎球】を【炎矢】の迎撃に徹しているティファに対し、真正面へ全弾を一直線で放ち間髪入れず、次の【炎球】を連続して【創造】し撃ち放つことで、ティファの魔力切れ狙いからスタミナを削る方向へ戦略を変える。
うちは【炎球】から【再創造】された、弾数と弾速が向上した【炎矢】を【紫電】【高速二刀】【迅雷】で捌き続ける。
高速で剣を振る中、剣速が早すぎてと捉え切れなかったものや、目視で見逃した数発の【炎矢】を木剣で捕らえきれなかった【炎矢】が身体を掠めるが、【決闘クリスタル】と自身への被弾と決定的ダメージは全て迎撃、受け流し武舞台の石畳に【炎矢】突き刺さり、矢に形成された魔力が霧散し消滅していく。
【炎矢】を高速剣で捌く中、正面のエルザから追撃の【炎球】連弾がうちに放たれている瞬間を視線の端に捉える。
(追撃の【炎球】!しかも連弾か!このままうちをここに足止めして魔力切れかスタミナ切れを狙っちょるな!)
【炎矢】の大半を打ち払いつつ、正面のエルザに視線を向けると、すでに【炎球】を【創造】し【炎矢】の気を取られているうちに対し、そのまま動きを抑え込めるためと思われる【炎球】の連撃を放っていた。
「ああああぁぁ!鬱陶しいことやってくれるのぅ!」
【炎矢】の処理が大体終わり、再び【韋駄天】で距離を詰める算段をしていたうちの思考より早い判断で【炎球】の連弾を打ち放たれていた追撃の攻撃が目の前に迫り、【炎矢】からの【炎球】による連撃に、うちはイライラが募っていたのか無意識に声を荒げていた。
「えぇよ!そっちがその気なら、こっからはうちとアンタの根気勝負!先にバテた方の負けじゃ!!」
双剣を振り続け、切り払われた【炎球】の爆煙で周囲を包み込まれる中、うちの【紫電】【高速二刀】【迅雷】とエルザの【炎球】連弾の根気勝負に発展していく。