表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/20

〈第4話〉『その【決闘】受けて立つ!』〈後編〉

 王立クロフォード学園―――修練場


 クロフォード学園5日目、この日は訓練初日に言われていた、席次決めの手合わせが行われる日だ。


 「訓練初日に告知した通り、今日各自手合わせをしてこのクラスの今後3か月間の席次を決めさせてもらう」

 オーガストがそう言って、うちを除くクラス全員に羊皮紙を配布し、勝敗の結果を記録するよう指示をする。


 「ん?あれ?教官、うちの羊皮紙は?」

 一人だけ羊皮紙を配布されないことを疑問に思い、オーガストに質問する。


 「アッシュフィールドはクラス内の結果が出るまで俺の隣で待機していろ」

 オーガストの返答を聞いたうちは「?」と首を傾げつつ、意図が分からないままオーガストの隣に移動し、1人1人対戦相手を変えながら手合わせをしているクラスの風景を静観する。



 昼食休憩をはさみ、クラスの手合わせ結果をオーガストが、生徒から提出された羊皮紙を確認する。


 「……」

 オーガストは提出された全ての羊皮紙に目を通し、何か思案している様子を見せる。


 「よし、アッシュフィールド。お前は今から5対1で手合いをしてもらう」

 オーガストの言葉を聞いたうちは「はい?」と、理解が追い付かず素っ頓狂な声を上げ小首を傾げる。


 「先日お前に聞いたな?多対1の経験はあるか……と。今から女子5対1、男子5対1の多対戦をしてもらう」

 「ん?え?はああああぁぁぁぁぁ!?ちょ、ちょっと!なんでうちだけ!?」

 それを聞いたうちはオーガストの対戦方法が他の生徒とは違うことに、驚きと抗議の声を上げる。


 「この数日間、このクラスの生徒を見てきたが、お前だけがずば抜けていたんでな。この手合い方式にさせてもらった。1対1ではお前の圧勝で終わるだろうと判断し、それを考慮してアッシュフィードには多対1の手合いをしてもらう。その方が手っ取り早く席次が決められるしな」

 「ちょっと!今のそれが本音じゃないでしょうね!? 」

 5対1の対戦理由を説明したオーガストだが、うちの異議にオーガストは一旦考える素振りを見せ、黙り込んだまま顔をそっぽに向ける。

 その素振りを見たうちは「えぇ~……」と困惑と納得のいかない表情を浮かべる。


 「でも、あれ?5対1で手合いをするにしても、最後は4対1になりませんか?」

 純粋に5対1の最後の数が合わないことに、うちはオーガストに質問する。


 「安心しろ。最後は俺を加えた5人だ」

 オーガストの返答を聞いたうちは「はああああぁぁぁぁぁ!?」と再び驚きの声を発する。

 うちの意見はオーガストに聞き入れられず、5対1を4戦することになる。


 「それから、全員これを付けろ」

 オーガストはそう言って、真珠の様な丸い宝石が付いたペンダントを全員に配布する。


 「知っている者もいるかもしれんが、これは【〈決闘〉(デュエル)ペンダント】と言われるものだ。本来なら〈決闘〉で使用されるものだが、今回の席次決めで特別に使用する」


 【決闘(デュエル)ペンダント】

 ここラングリッサ王国に存在する、全学園・学院などで行われる〈決闘〉で使用されているペンダントであり、〈決闘〉のルールとしてペンダントについている真珠の様な宝石、【〈決闘〉クリスタル】

を先に破壊した方が勝者となる。

 クロフォード学園で使用している【決闘ペンダント】のクリスタルは丸いが、学園・学院によってクリスタルの形は様々ある。


 (ふ~ん、なるほどのぅ。こんなのがあるんか)

 そう考えながら【決闘クリスタル】を親指と人差し指の腹で転がし、力を入れるとパキッ!と音を立てクリスタルが砕けてしまう。


 「あ……」

 「……。何をしているんだお前は……」

 クリスタルを砕いてしまったうちを見て、オーガストが溜息をつき呆れた表情を浮かべる。


 「い、いや……あの……どの程度で壊れるのか気になったもので……。まさかこんなに簡単に壊れるとはぁ~……、あは、あははっ……」

 悪気はなかったと裏返った声で言い訳をするうちに、オーガストは自分の首に下げていた【決闘ペンダント】を取り外しうちの方に放り投げてくる。

 その仕草を見るにペンダントは教官を合わせ人数分しか用意していなかったようだ。


 「まぁ、今見た通り、クリスタルは意外と簡単に砕ける。木剣の一撃が当たれば一発アウトだ。説明は以上。それではまず女子5人とアッシュフィールドだ、準備をしろ」

 


 「はぁ……、さて、どうしたものか」

 (でも、クリスタルを壊せばええだけじゃったら怪我もさせずに済むか……)

 うちが5対1の戦闘をどう捌き切るか考えを巡らせていると、エリノア、ヴィオラを含む女子5人がうちを中心に四方に取り囲む。

 

 「……どこからかかってきてもええよ」

 うちは周りを囲んだ女生徒にひと声かけ木剣を構える。


 「来んのんじゃったらうちから行くぞ!」

 うちと距離を保ったまま攻めて来ようとしない女子達にそう告げ、まずは正面で視線がかみ合ったエリノアを標的に定め懐目掛けて一気に距離を詰める。

 

 「え?あ、え?ちょちょっと!」

 思っていた以上に距離を詰められたエリノアは、驚きと動揺をしながらも木剣を右に構え直し、うち目掛けて横振りの剣を繰り出す。

 うちは木剣を左手に持ち直し、右からくる横からの剣を受け止め、エリノアの胸元にある【決闘クリスタル】に手を伸ばし、右手で掴みクリスタルを手の中で砕く。


 「まずはエリノア脱落じゃ」

 「え?あれ?もう終わり……!?」 

 エリノアは一瞬でクリスタルを砕かれたことに唖然とする。

 エリノアのクリスタルを破壊した直後、背後で木剣を振り上げる気配を感じたうちは、右足を軸に左に身体を回転させ、左手に持った木剣で振り下ろされる剣を受け止め、不意を突いてきた女生徒のクリスタルをエリノアの時と同様に破壊する。


 「2人目!」

 うちは残りの3人の位置を目視で確認する。


 「ッ!」

 3人のうち1人は不意打ちをしてきた女生徒が、仕損じた場合の補助として後ろに控えていたと思われる女子とうちの視線がかみ合い、うちの視線に気圧されたのか後ろに飛び退き距離を取る。

 うちは後ろに飛び退いた女生徒を逃がさず、脚に力を込め地面を強く蹴り一踏みで距離を取った女生徒に追いつき、クリスタルに手を伸ばし握り砕く。


 「残り2人!」

 そう言ってうちは、残された2人の位置を把握するため視線を動かす。


 (……1人は正面。……ん?ヴィオラはどこに?)

 視線を動かしヴィオラの姿を探していると、左側から気配を感じる。

 うちは気配を感じた左側に視線と身体を動かす。

 そこには突きの構えをしていたヴィオラの姿があった。

 

 (コイツ……、体力がないって侮っちょたが、気配を消すのが上手い!1対1じゃ生かせんかもしれんが、こういった多対1になると厄介じゃの!)

 ヴィオラの戦術を考察しつつ、ヴィオラから繰り出される突きの連撃を残されたもう1人の女生徒に意識を向けながら捌き続ける。

 うちとヴィオラが剣の応酬を続けている最中、正面に捉えていた女生徒がうちの右手側に、回っていることを視線の隅で確認し、木剣を上段に構えうちに迫ってきている気配を感じ、うちはヴィオラとの剣の応酬を止め、左足を軸にしてヴィオラの突きを回避する。

 唐突に剣の応酬を急に止められたヴィオラは、態勢を前のめりに崩す。

 そこへ木剣を上段に振り上げていた女生徒が、このまま振り下ろせばヴィオラに当たってしまうと思い、攻撃の手を止める。

 うちはそれを見逃さず、まずヴィオラのクリスタルを握りつぶし、最後に上段から切りかかって来た女生徒のクリスタルを続けて握りつぶす。

 5人のクリスタルをすべて破壊するまでに要した時間は、約3分と言ったところだった。

 

 「そこまで!」

 女生徒5人のクリスタルがすべて破壊されたことを確認したオーガストが、手合い終了の号令を出す。

 対戦を終えたうち達はオーガストの元に集まる。


 「結果はアッシュフィールドの圧勝だな。今後の生徒評価の参考に生かすため、お前には今の対戦の総評をして欲しいのだが何かあるか?」

 そう言ってオーガストが先程の一戦の個人総評を質問してくる。


 「え?う~ん、そうですねぇ……、全体的に遠慮というか、躊躇い過ぎじゃないかと思いましたね。最初にうちはエリノアを標的にしたんですけど、エリノアを打ち取った後、躊躇いがあったんか知りませんが上段からの攻撃が遅かったです。あと、うちからして1番厄介じゃったのがヴィオラですかねぇ。多対1で気配を消されて、気付いたらそこに居るっちゅう状況にちょっと冷や汗をかきました。ヴィオラの戦闘スタイルは1対1じゃそこまでかも知れませんが、今みたいな多対1になると生きていくんじゃないかなぁって思いました」

 うちの総評で名指しで褒められたことが嬉しかったのか、ヴィオラが嬉しそうに小さくガッツポーズを取る。


 「なるほどな。よし、それでは次の組。用意しろ」

 その後、2組目、3組目を初戦の女生徒5人組同様に2~3分程度の時間で勝利する。



 「よし。最後の組、準備するぞ!」

 オーガストの号令で、最後の1組がうちを取り囲む一に陣取る。

 男子生徒手合わせをする前に、組み合わせは羊皮紙に記録された勝率で組み合わせを決めているとオーガストが説明していた。

 男子の1組、2組は比較的に勝率が低い生徒を集めており、最後にオーガストを含めた組は勝率が高い生徒で固めてあると言われ、この最後の組にはうち以外に全勝している男子が1名いると伝えられる。


 (つまり、今教官以外の4人は席次がほぼ決まっている奴等か……)

 うちはすでに席次が決まっている男子4人と、主にオーガストの微細な動きの変化に全神経を集中する。

 しばらく動きの読み合いで様子を見ていると、背後の2人が動く。

 うちは背後の2人が動いた気配を感じ取り、剣撃が振り下ろされる位置を予測し、両足に力を込め、地面を思いっきり蹴り上背後へと跳躍する。

 一般男子の身長以上の跳躍を見せるうちに、一同は驚愕の表情を浮かべる。

 背後から攻撃を仕掛けてきた2人の剣撃は空振りに終わり、うちは空中から今の標的の位置を視認する。

 オーガストの左右に居た男子生徒が、うちの着地地点を予測した動きを取り、うちが降りてきた瞬間を打ち取るため木剣を横へ振りかぶる。

 予測された場所へうちが着地すると、2人の左右からの横なぎの剣撃が襲ってくる。

 その剣撃をうちは木剣を正面で縦に構え、男子2人の剣撃を防ぐがその勢いで後方へ弾き飛ばされてしまうが、うちは脚に力を入れ倒れないように踏ん張る。

 ここでうちは5人の位置を再確認する。

 オーガストは初期位置から全く動いていない。

 そして、うちを後方へ弾き飛ばした2人が、木剣を横に構え追撃を仕掛けてきており、残りの2人は左右に分かれ挟撃を狙ってくる。

 うちは敢えてその場から動かず、まずは左右から挟撃してくる2人を捌くことにした。

 両手で構えていた木剣を右手に持ち替え、右からくる縦振りの剣撃を受け止め、左からくる突きの剣撃を身体を逸らして回避し、突きを放ってきた相手のクリスタルを握り潰し、間髪入れず思いっきり手首に手刀を当て剣の握りが甘くなったところを狙い、左手で木剣を奪い取り、正面からくる2人の剣撃を左手の木剣で受け止める。


 (あと4人!)

 正面2人、右1人との鍔迫り合いが始まる。

 正面2人のうち、1人は早々に鍔迫り合いに見切りをつけ、うちの左側に回る。

 

 (……!クソッ!教官を見失った!)

 2人との鍔迫り合いをしつつ、左からの攻撃を警戒し、視線だけ動かしオーガストの姿を探す。

 オーガストの姿を探していると、背後にオーガストの気配を感じ取る。

 四方を囲まれ絶体絶命の状況で、うちはあることを試してみたいと思いつき、それを実行する。

 左からの剣撃と背後からの剣撃がうちを仕留める瞬間……。


 (【紫電】・【韋駄天】!)

 魔力を脚に集中し、バチバチッ!と両脚に電撃が走り、鍔競り合いをしている2人の間を目掛け、すべての剣撃を置き去りにしてうちは前方へ疾走する。


 「「「「!!!」」」」

 各々四方からの剣撃で逃げ場のないうちを完全に仕留めたと思っていた。

 しかし、オーガストと他の3人の剣撃が全て空振りに終わってしまい、4人は目の前の出来事に驚嘆する。

 うちは4人全ての剣撃を躱した後、【紫電】・【韋駄天】で距離を取った状態で体勢を立て直し4人の方へ向き直る。

 

 「あぶな~っ。間一髪!」

 (魔力を使うのはダメじゃったかもしれんが距離は取れた!)

 


 (っ!!何かを隠して俺との手合いをしているとは思っていたが!そうか!コイツ、”身体強化魔法”が使えるのか!)

 この手合い方式にしたのはオーガストとティファとの手合いで感じていた違和感を払拭するためのものでもあった。

 ティファを仕留められず木剣が空振りしたオーガストは、ティファと自分以外の男子生徒の現在位置と状況を確認する。

 鍔迫り合いをしていた生徒2人は、目の前で何が起きたかわからず呆然しており、オーガストと同時に切りかかった男子生徒は状況を瞬時に判断し、後方へ飛び退きティファとの距離と状況を把握しようとしているティファの姿を確認する。



 うちと鍔迫り合いをしていた2人の生徒は、オーガストの視線が向いている方へ振り向き直ろうとしている。

 2人が振り向き木剣を構える前に、2人の間目掛けて【紫電】・【韋駄天】を発動する。


 (なるべく身体に当てんように!【決闘クリスタル】だけを狙って!)

 2人の間を疾走ですり抜ける瞬間、クリスタルの位置を目視し、両手の木剣を振り切っ先をピンポイントで2人のクリスタルに当て同時に破壊する。


 (残り教官ともう1人!)

 2対1で教官を相手にするのは厳しいと判断したうちは、オーガストの動きを視線の端で捉えつつ、オーガスト同様後方へ飛び退いた最後の男子生徒を追うことにした。

 オーガストより先に標的にされたと気付いた男子生徒が、木剣を横に構え直し距離を縮めるうちに、他の生徒とは違い気圧されず真向から向かってくる。

 お互い剣の間合いに入った瞬間、うちは左手の木剣を上段から振り下ろし、正面の男子は横振りの剣撃を振る。


 ガキッ!―――


 お互いの木剣がぶつかり合い、左手の木剣だけで男子生徒の木剣を抑えつつ、うちは右手の木剣を胸元辺りまで水平に引き、男子生徒のクリスタル目掛け思いっきり突きを放つ。

 しかし、男子生徒は上体を捻りうちの突きを回避する。

 

 (うち以外に全勝しちょるっちゅう男子はコイツか!)

 右手の突きを躱した体捌き、うちは目の前の生徒がうちに並ぶ生徒と確信する。

 右手の突きを躱されたと同時に視界の端で捉えていたオーガストが右側に回っている気配を感じたうちは、咄嗟に3度目の【紫電】・【韋駄天】を発動し前方へ疾走し、2人との距離を取り直す。

 【紫電】・【韋駄天】で再び距離を取ったうちを見て、オーガストは剣撃を放つ手を寸でで止め、うちの姿を目で追いかける。


 (クッソ!教官だけでも面倒なのに!)

 うちは今の状況に対して内心焦りを感じていると、男子生徒が【紫電】・【韋駄天】で距離を取ったうちを追ってくる。

 今までの攻防から、うちが窮地に陥ると【紫電】・【韋駄天】で距離を取ることを予測されてしまったようだ。

 うちは追ってくるのならと、体勢を崩さないように気を付け、脚に力を入れ後方へ振り向きながら減速し、うちも男子へと向かって行く。

 上段から振られる剣撃を繰り出す男子生徒に対し、うちは左手の木剣を右斜めの逆袈裟に構え、前進する勢いと腕力を左の木剣に思いっきり込め、男子生徒の木剣を弾き飛ばす。

 木剣を弾き飛ばされ丸腰になった男子生徒の胸にあるクリスタルを破壊すべく、うちは右手の木剣を胸の高さで水平にし突きの構えを取る。


 「まいった!」

 うちが突きを繰り出そうとした寸でで、男子生徒が自身の戦況を理解し、リスタルを自ら砕き両手を上げ戦意はもうないと降参する。

 うちは男子生徒の降伏とクリスタルの破壊を確認し、突きの手を止める。

 残りオーガストだけと思って身体を反転させようとしたとき、視界の隅で動く影を捉える。

 うちの背後に回り込んだオーガストは上段からの剣撃を繰り出す。

 オーガストからの上段縦振りの剣撃をうちは突きで構えていた右手の剣を振り返る遠心力と、出来うる限りの力を込め木剣を横から振り、オーガストの剣撃を上段まで構えた位置まで弾き返す。


 「ッ!!」


 うちの渾身の横振りの剣撃で、オーガストの剣を上段辺りまで跳ね返し、左手の木剣を水平に構え直し、オーガストの胸元にあるクリスタルを目掛け突きを放ち、切っ先でオーガストのクリスタルを破壊する。

 

 「……よし、見事だ。これで20人抜きは終わりだな」

 オーガストのクリスタルを最後に破壊したことですべての手合わせが終わった。


 「はぁぁぁ~……。疲れた……」

 5対1を4連戦したうちは、さすがに疲れてしまいその場に座り込んでしまう。


 「まさか、身体強化魔法が使えるとは思っていなかったぞ。あの魔法は自分で考えたのか?」

 「【韋駄天】の事ですか?そうですね……、はい。えっと、少しでも速く走れるように自分の脚力を【雷魔法】で速くできないかと思いながら修練してきました。つい使ってしもうたんですが、もしかして、レギュレーション違反じゃったでしょうか?」

 うちはレギュレーション違反を不安に思いながらうちは、オーガストの質問に答えながら立ち上がる。


 「いや。そこは気にしなくて構わない。そもそも魔法・魔力使用は”禁止”するとは言っていなかったからな」

 オーガストはうちの身体強化魔法の使用を咎めることはしなかったことにうちはホッと胸を撫でおろす。

 むしろ、オーガストの態度にうちは身体強化魔法を目の前にして、どこか納得しているような感じを受けた。


 「息が整ったのなら列に並べ。約今後3ヵ月間の席次を発表する」

 オーガストが4連戦のうちの戦績の総評をした後、今後3ヵ月間の席次を発表する。


 「本日からしばらくの間、剣術科の主席にティファニア・アッシュフィールドを、アルバート・エイベルを次席としていく訓練をしていく」

 オーガストがそう言って、うちに剣術科の紋章が金の糸で刺繍された腕章を渡し、次席男子のアルバートに銀の刺繍がされた腕章を渡された。

 

 「よし!これにて主席をアッシュフィールド。次席にエイベルとして今回の席次決めを終了する。主席・次席に選抜された両名は剣術科の模範となれるように学園生活諸々を立ち回り、他の生徒もこの結果に気を落とさず切磋琢磨するように」

 オーガストがそう締め括り、入学後初の一大イベントである、剣術科の席次決めが終わる。


⚔⚔

 

 王立クロフォード学園―――共用廊下


 「はぁ~……。今日は実技なしか……」

 席次決めのあった次の日、この日は実技訓練が無く、座学である『魔術基礎学』という授業になっていた。

 クロフォード学園では基本的に剣術科、弓術科、商・技術科に分類されようとも、『基礎魔術学』は必ず履修するようにとされている。

 この日は講堂での座学しかないため、うち達は普段来ている訓練着とは違う、入学式以来着用していなかったブレザーっぽい制服を着て講堂での授業に向かう。


 「うぬ~……。なんちゅうか、この制服のヒラヒラのスカートちゅうんは慣れんのぅ、てか、丈が短すぎんか?」

 ヒラヒラ動くスカートの端が大きく動くたび頬を薄く赤色に染めながら手で押さえ、気が気でない。


 「ティファ気にしすぎだよ。まぁいつもの訓練服より露出があってヒラヒラしてるけどそんなに気になるかな?」

 「……、ティファの普段の訓練服のギャップを考えると……すごく……良き。……そういえばティファ今日は髪を結ってないんだね」

 「まぁ、今日は激しく動くことがないからのぅ」

 何かの性癖に目覚めかけているヴィオラを置き去りにしエリノアは制服に関して特に抵抗はなさそうにしていて、ヴィオラはなぜか訓練着から学園の制服を着ているうちを見て何かしら妄想を膨らませてもじもじしている。


 廊下にある剣術科スペースのロッカーから『魔術基礎学』の教本を取り出し、うち等3人は講堂へ向かうことにする。


 ドッ!ドサッドサッドサ!!

 

 ロッカーから必要な教本を取り出したと同時くらいに。遠くの方で本が崩れるような音が聞こえた。


 『ちょっと!何してるのよ!』

 『”色無し”の分際で堂々と道の真ん中歩かないでよ!!!』

 『まったく!私達の進行方向に汚れた物が散乱して不愉快だわ!”色無し”は縮こまって廊下の端を歩きなさい!恥を知りなさい!!』


 本が崩れる音と共に金髪長髪縦ロールが特徴的で典型的なお嬢様風なの生徒が取り巻きを従え、足元に這いつくばっている生徒を叱責して、周囲を全く気にしない罵声を廊下に響き渡らせる。

 その声を聞いていた周囲の学生が「なにごと」かと集まりだし距離を取りつつ一気に野次馬の集団になるが、誰一人罵声を浴びせられている生徒を遠巻きに見ているだけで助けようとしない。

 うち達もその騒動に気が付き視線をそちらに向ける。


 (……またあいつらか!!)

 先日の割り込みもあって何かとやりたい放題な彼女等の動向にフツフツと我慢して来たうちの心の中の憤りが芽生え始める。


 制服の腕辺りに金糸で魔術科の紋章が刺繍してある腕章が付けてあるところを見ると、いじめている主犯格の女生徒は魔術科の主席であると確認できる。

 その魔術科主席の生徒と取り巻きの生徒はぶつかった際に四方へ散らばってしまった教本を涙を浮かべ拾い上げている生徒の目の前で、足元にある教本をこれ見よがしに足蹴にし女生徒を見下す。


 「ッ!……」

 うちは躊躇なく教本を踏みにじる行為に頭に血が上り、怒りで手のひらを強く握り込み無意識に集団の中心へと向かう。



 「なに……?何これ!」

 朝食を終え、廊下にできた人だかりに、傍にいたファーガスの袖を取りミリアが状況判断を始める。

 人だかりの中にティファのルームメイトのアリシアとヴィオラの姿を確認する。

 

 「ねぇエリノア、ヴィオラ何があったの?」

 朝食後ファーガスと合流し少し遅れてきたミリアがウエリノアとヴィオラに状況を尋ねる。


 「私達も何が何だか……。座学の教本取りに来たと思ったらなんか揉め事みたいなことになってて……」


 「ッ!ねぇ!ティファは!?」

 

 エリノアの返答を聞き、ティファの姿が見当たらないことに気付き、ミリアは辺りを見回しティファの姿を必死に探す。


 「ミリィ!あそこ!」

 ファーガスが指差す先に、生徒の群れを力任せに掻き分け問題の中心に向かっているティファの姿が目に飛び込んでくる。


 「ねぇ!ファーガス止めに行ってよ!」

 「あ、あそこまで行ってたらもう無理だよ……!」

 ミリアとファーガスはこの話しの展開が想像できているかのように互いに頭を抱え始める。



 「大丈夫か?」

 うちは野次馬の集団を強引に掻い潜り、四つん這いで散らばった教本涙ながらに拾い集めている眼鏡を掛けた女生徒の隣に腰を降ろし声を掛ける。

 意味がつかみ切れていないその女生徒に、うちはニコッと微笑みかけ、散らばった教本を一緒に集め始める。

 ある程度集め終わったうちは、女生徒に拾い集めた本を持ち、うちは女生徒手を取りその場に立ちあがらせ、拾い集めた本を渡す。


 ポンッポンッ


 うちは女生徒の制服に着いた汚れを軽く払い落す。


 「うん、こんなもんか。うちはティファニア・アッシュフィールドじゃ。あんたはの名前は?」

 いきなりの自己紹介に対面している涙を浮かべている女生徒は困惑している様子だった。


 「あ……、えっと。シン……シンシア・エ……マーソン……です」

 うちの問いに涙を浮かべ怯えながらも名前を教えてくれる。


 「シンシアか、ええ名前じゃないか。ケガはないか?」

 うちのその質問にシンシアはコクコクと首を縦に振り頷く。


 「ちょっと!!!」

 シンシアを見下していた自分達を蚊帳の外にして”色無し”のシンシアを気遣うティファに矛先が向く。

 その言葉に、うちはその言葉を発した人物へ睨みつける様に視線を動かす。


 「ア”?」

 うちの怒気を含んだ声音と視線に気圧された主犯の女生徒と取り巻きの女生徒達は、うちの気迫を感じ取り黙り込んでしまう。


 「その腕章……!剣術科の主席が関係のない魔術科の事に首を突っ込んでくるわけ!?」

 うちに興をそがれた主犯格の女生徒は、怒りの支援をうちの方へ向けてくる。


 「こんな場面を見て剣術科も魔術科も関係あるか!あんたも主席の腕章を付けちょるんじゃったら弱いものをいじめる側に立つんじゃのぅて、守る側に回ったらどうじゃこのボケが!」

 立ち上がらせたシンシアを主犯格の女生徒から隠すように、後ろへ下がらせることで、うちと主犯格の女生徒がにらみ合った構図になる。


 「ボっ!!あなた!私がクロフォード学園理事長の孫にして公爵家のエルザ・クロフォードだと知っての発言でしょうね!」

 うちの発言でエルザの頭に血の気が昇る。


 「あんたの名前なんか今知ったわ。それにしても公爵家ちゅうのは、自分より弱いものを見下すことしかできん器の小さい奴等ばっかりなんじゃのぅ。」

 うちは煽り気味にエルザに答える。

 エルザはうちの言葉に貴族、強いては公爵家が馬鹿にされたと思い込み更に沸点が上がり、うちの頬を叩こうと右手を大きく振りかぶる。

 うちは自分に向かってくるエルザの右平手打ちを左手で制し、反射的に右手を振りかぶりエルザの左頬を叩く。

 その一連の出来事を見ていた周囲の野次馬は静まり返る。


 「……は?」

 一瞬何をされたのか理解できなかったエルザだったが、だんだんと熱を持ち赤くなっていく頬に左手を添える。

 

 「ッ!!公爵家である私に手を上げるなんて!!」

 うちに頬に広がる痛みに叩かれたことを理解したエルザが激高し、再び右手を振りかぶる。


 「お前達!!何をしている!!」

 騒ぎを掻きつけてきたのか、生徒からの報告があったのかわからないが、剣術科教官のオーガストと魔術科教官がその場に駆けつけてきた。

 教官2人が駆けつけてきたことでこの場は収束するかのように思えた。


 「スーッ。教官丁度良いところに」

 ふぅと今で激情してしまった自分を押さえつけ深い一呼吸をし冷静さを取り戻したエルザが、その場に居合わせる2人の教官に向き直る。

 

 「私、エルザ・クロフォードは、この方ティファニア・アッシュフィールドに正式に【決闘】を申し込みます!」

 うちに指差し教官2人の前で【決闘】申請をしてくる。

 オーガストと魔術科の教官は躊躇いながら、うちの方に様子を窺う様に視線を向けてくる。


 「ええよ。『その【決闘】受けて立つ!』けど、1つうちから条件を出させてもらう。うちが【決闘】に勝ったらシンシアに頭を下げてもらう」

 うちはエルザから睨みを利かせた視線を外さず、【決闘】に勝利した際の条件を提示する。


 「いいわ。ただし私が勝った場合あなたには在学中、ずっと私の召使としてこき使わせてもらうわ」

 エルザはうちの視線に怖気づきもせず、お互いに勝利した際の条件を提示し、この場は教官の【決闘】承認と解散の指示でこの場は散り散りとなることになった。

いつも稚拙な文章にブックマーク、いいね!ありがとうございます。

更新頻度が遅いですが執筆の励みになっております。

感想もお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ