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異世界剣聖記  作者: 深村美奈緒


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〈第25話〉『後悔しているんじゃない?』

 クロフォード学園―――学生食堂・朝【決闘】まで残り3日


 4人掛けのテーブル席で、他の生徒を寄せ付けない雰囲気を出しているクラウスが1人書籍を片手に昼食を摂っていた。


 「相席失礼するぜぇ~」

 クラウスの座っている席に、アシュリーを傍らに伴ったレオスが無骨にクラウスの許可もないまま対面の席に座る。

 その様子を見ていたアシュリーは、レオスの態度に半ば呆れつつ隣の席に腰を降ろす。

 対面に座った学友の2人を気に止めることなく、クラウスは手にしている書籍のページを捲る。


 「おいおい、お前公爵家だろ?本を読みながら食事をするって行儀が悪くないか?」

 「……」

 レオスの茶化す様な言葉にクラウスは相変わらず無言を貫く。

 その後も何を言っても反応しないクラウスに対し、相手にされていないと悟ったレオスは「何で無視すんだよ!」と不貞腐れ粗暴に食事を進めた。


 「それはそうと、あと数日で2組【決闘】(タッグ・デュエル)だけど、2人とも大丈夫なの?」

 そんな2人の様子を見兼ねたアシュリーが唐突に口を開く。

 「……、それはどういう意味だ?」

 書籍からは視線を外さずアシュリーの問いにクラウスが問い返し、レオスは食事を口いっぱいに頬張りながら視線をアシュリーに向ける。


 「魔術科と剣術科の1年生に聞いたけど、あの2人朝早くから夕刻遅くまで修練しているみたいよ」

 アシュリーは昼食を上品に口に運び、クラウスの問いに答える。


 「俺はいつでも万全だ。問題ない」

 「俺もいつでもかかってこいだ!」

 クラウスとアシュリーのこの会話を一般の生徒が切り取って聞けば、齢18歳にして王国最強格であり聖皇歴始まって以来の剣聖の器と称され、自身の実力と【決闘】経験・技量が、対戦相手のティファとエルザより遥かに上回っている事からくる揺るぎない自信と受け取られるだろう。

 だが、今のクラウスには学業や【決闘】へ向けて修練に打ち込む時間がなかった。


 「……。今日も国政会議?」

 「あぁ」

 ページを捲りながらクラウスが素っ気なく答える。

 2組【決闘】に10日間の猶予を与えたのも、エルザに対する温情などではなく国政会議で多忙だったからだ。

 そんなクラウドの表情から、日々続く国政会議の疲労が蓄積している様にアシュリーは感じていた。

 本来であれば父であるエリック・クロフォードが国政会議に出席するのだが、エリックはクラウスが齢14歳の頃に流行り病により急逝したため、幼いながらもクロフォード家の正統当主となったクラウスが国政会議に参加していた。

 クラウスが初めて国政の席に着いた際、一部の爵家から「年端のいかぬ者を国政に参加させるべきではない!」「現当主が逝去したのなら前当主が議会に出るべき!」という批判の声も数多くあった。

 しかし、侯爵家のレオスの父であるアルバート・エリオットがクラウスの補佐に着くことで、この批判は一旦の落ち着きを見せている。


 「今の議題って帝国関連?」

 アシュリーが首を傾げクラウスに質問し、クラウスは無言で頷く。


 「最近グルアーレム帝国が魔族の国境を越えて魔族狩りをしているらしい」

 手元の書籍のページを一枚捲りながら、クラウスがアシュリーの質問に答える。


 【グルアーレム帝国】

 聖皇歴が制定される以前、ラングリッサ王国とグルアーレム帝国は犬猿な間柄にあった。

 傲慢で他国への支配欲が強く、”魔力元素”(マジック・エレメント)の乏しいグルアーレム帝国は魔力元素の豊富な国々を常に欲していた。

 このことからグルアーレム帝国とラングリッサ王国は戦争状態になり、一時国土の半分以上を壊滅、占領され王国は帝国に降伏寸前だった。

 だが、突如現れたたった1人の”剣聖”と名乗る人物により形勢は逆転され、当時の帝国王の首を打ち取られた帝国側は進行していた全軍を撤退させ、その後ラングリッサ王国に対しての軍事干渉を中断した。

 


 「魔族って人間族(ヒューム)とか多種族を喰ってる奴等だろ?じゃあ別に狩られてたとしてもいいんじゃね?」

 疑問に思った事をレオスが口にし、2人の会話に加わってくる。


 「確かに魔族は人間族やエルフ族等を捕食していた。だが、それも聖皇歴が始まる前までだ。この500年近く魔族が多種族を喰らうといった事はない」

 「ふ~ん。そうなのか」

 レオスの問いに書籍の文字を視線で追いながら答える。


 「聖皇歴が制定されてからは、多種族への関与とかは極端に無くなったらしいからね。確かその同時期に魔族を統治する王様が代わったんだっけ?今も代替わりしてなくて、謎の多い人物だって聞くけど……」

 「そうだな。当時から今現在における魔族側の意志では”互いに絶対不可侵を尊重するのであれば我が国は他国の種族に危害を及ぼさない”という立場だった。だが、その関係性を帝国が壊そうとしている」

 クラウスがアシュリーの言葉に、魔族が掲げている意志と魔族側の甘さに漬け込み、帝国が絶対不可侵の関係性を壊すような行動をしていると話す。


 「別にいいんじゃねぇの?結局争い合ってるのは魔族と帝国だろ。ラングリッサには関係ないじゃん」

 「……」

 「レオス……」

 レオスの発言にクラウスとアシュリーはことの重要性を軽く考えている事に呆れてしまい、そんな2人の反応にレオスは「ん?」と小首を傾げていた。


 「あのねぇ……。大人しい人にちょっかい出し過ぎて、ちょっかい掛けられすぎていつの日かそれが限界にきてプッチンした時のこと思い浮かべてみなさいよ。大人しい人がキレた時ほど怖いものはないし、それに巻き込まれでもしたら面倒でしょ」

 魔族の”互いの絶対不可侵”と言う意思に対しアシュリーは国を人に例え、普段大人しい人物が干渉され続ける事によって、我慢の限界を超え内心に募らせ怒りを爆発させた時、周囲の国々にすら被害が及ぶ可能性があると説く。


 「それに、聖皇歴制定以来ラングリッサ王国、神樹の森のエルフィーダ国、神山の麓のドゥーウェル国の3国は同盟を結んでいるの。魔族が帝国への()()()()()済めばいいけど、もしこちらに飛び火したら戦争になり兼ねないのよ」

 このまま帝国が魔族の国境を侵し続け、魔族がその気になってしまえば帝国への報復では済まず、周りの国々も帝国と同じく自国を虐げる可能性があると判断すれば、同盟を結んでいる3国に戦の火が降りかかってしまうとアシュリーがレオスに説明する。


 【神樹の森のエルフィーダ】

 神樹”ユグドラシル”を中心とした森にエルフ族が生息している、魔力元素の濃度が高い地域となっている。

 現在この国を統治しているのは、エリン・エルフィーダ2世。


 【神山の麓のドゥーウェル】

 神山”イーべラスト”の麓で、神山から採掘される魔力を帯びた鉱石を加工しそれを生業とし、貴金属類の主な原産国ともなっているドワーフ族が統治する国。

 現在この国を統治しているのは、ドルレク・ドゥーウェル9世である。

 ラングリッサ、エルフィーダ、ドゥーウェルの3国は、”剣聖の盟約”により現在も同名の関係にあり、この3国同盟をラネルド同盟と呼ばれている。


 「国政の話しはこの辺でいいだろう。それより、頼んでいた例の件は?」

 クラウスは読んでいた書籍をパタンッ音を立てて閉じ、残っている冷めかけた朝食に手を付ける。


 「……そうね、一応私なりに色々調べたわ。ティファちゃんのあの魔戦技(スキル)について」

 「それで?」

 視線を合わせずクラウスがアシュリーに頼んでいたティファの扱う魔戦技について問いかける。


 「まぁ、結果から言ってティファちゃんが使ってた身体強化の【韋駄天】と高速剣の【迅雷】(サンダー・クラップ)って言う技は独自(ユニーク・)創造魔戦技(クリエイト・スキル)ね。剣術科の指南書にも魔導書にも記載がなかったわ。一応王立図書館で司書をしている姉様に頼んで閲覧禁止の書籍も無理を言って見せてもらったけどそれらしいのはさっぱり……」

 アシュリーはスプーンで皿のスープを掬い上げ、口に運びながらクラウスに答える。


 「ちなみに、何か特殊な家系なのかとティファちゃんの家系も調べたけど、父親はクロフォード領出身の騎士だし、母親もフェアクロフ領出身の聖女、祖父、曾祖父の代までそれぞれ調べたけど、ごくごく普通の一般的な家庭の出自だったわ」

 クラウスから頼まれていた事はティファの扱う魔戦技についてだけだったが、アシュリーはティファの出自が気になり独自に調べていた。


 「そうか……」

 (剣術科でありながら独自創造魔戦技を創造し、それを自身の魔戦技へと昇華できるとはな……)

 アシュリーの調べを聞いてクラウスは内心ティファに対し感心していた。


 「あと、幼馴染って言うミリアちゃんとファーガス君に彼女の幼少期の頃を聞いたら面白いことが聞けたわ」 

 「面白いこと?」

 クラウスは食事の手を止め、アシュリーに視線を向ける。


 「彼女、ティファちゃんって6歳の頃は髪の色が”銀髪”だったそうよ。そこから年月が経過するごとに今の”黒髪”になったんだって」

 「銀……髪?」

 ティファの黒髪はラングリッサ王国において珍しい、というより国内で黒髪なのはティファだけと言っても過言ではない。

 銀色に輝く髪は3国同盟の間でも剣聖だけだったと言い伝えられている。

 そんな彼女が今の黒髪の前に銀髪だったと聞き、クラウスは過去の記憶を思い返しているように黙り込む。


 「クラウス?」

 アシュリーも食事手を止め、普段とは見たことのない雰囲気になり黙り込んでしまったクラウスの表情を窺う。


 「なぁなぁ、独自創造魔戦技ってそんなにスゲェの?」

 レオスが口いっぱいにパンを頬張りながら、今のクラウスの様子と空気にも気付かずアシュリーに問いかける。


 「……。凄い事よ。そもそも今ある剣術も魔術も先人が数百年賭して研究と鍛錬で創り上げて来たものよ。それだけ時間の掛かるものを1年生で、しかも剣術科のティファちゃんが自身の魔戦技に昇華して使用してるのよ。もしかしたらクロフォード学園始まって以来のイレギュラーな娘かもね」

 アシュリーが何かを考え込むクラウスを気遣う様に話題を変えるが、レオスにの空気を読まない質問に内心安堵し、独自創造魔戦技を新たに創りだすことがどれだけ凄いかを説明する。

 

 「ねぇ。国政会議が大事で忙しいのはわかるけど、10日は与え過ぎだったんじゃない?」

 「……」

 ティファとエルザの才能を買っているアシュリーは、多忙とは言え10日間という期間を与えたことは悪手ではなかったのかと言いた気にクラウスに問いかける。

 

 「【決闘】は個人的な事だ。そんなことで国政を欠席するわけにもいかん。それに、いくらイレギュラーな生徒が相手であっても遅れは取らん」

 そう言ってクラウスは食べ終えた食器が乗ったトレーを持ち席を立つ。


 「そんなこと言って、内心時間を与え過ぎたって『後悔しているんじゃない?』」

 自分とレオスの前から立ち去るクラウスの背に声を掛ける。

いつも稚拙な文章にブックマーク、いいね!ありがとうございます。

更新頻度が遅いですが執筆の励みになっております。

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