〈第23話〉『お嬢様は寂しがり屋』
クロフォード学園―――剣術科修練所・早朝【決闘】まで残り4日
(羽のように……、宙を舞う葉のように軽く……)
うちは目を瞑り、自身の体重を極限まで軽くなるイメージを固めていく。
前日にアメリアの提案を受け入れ、【韋駄天】での魔力制御を後回しにし、魔術師が使用する魔法戦技、【風迅加速】の習得を優先する事にした。
その提案の中で、独自創造魔戦技の習得もあるため、【風迅加速】は”2日習得してください”と、厳しい日程での習得を言われた。
だが、アメリアの言うようにそこまで過密にしなければ2組【決闘】までには間に合わないと冷静に考えうちは腹を括り、より一層修練に力を入れる。
(……このくらいか?)
「よっと!」
全身に風を纏うイメージが出来上がりうちは直立の姿勢で両膝を曲げ、身体の重心を深く沈みこませ思いっきり地面を蹴りその場で垂直飛びをする。
これは前日の修練終了前に「自身を軽くするイメージが出来たらその場で跳躍してみればどの程度自身が思い浮かべたイメージと実際の結果に違いがあるかわかります」と、実践して見せ一蹴りで自分の身長と同じくらい跳び上がれればイメージは十分できていると言う。
それ以上になると過剰になり、魔力で突風を起こした際制御が難しくなるそうだ。
「……ふむ」
(今のは70cmっちゅうところか……。なるほど、”遠くは近し、近くは遠き”か)
跳んだ際、目測で大まかに上から地上までの高さを確認し、イメージと結果の差異が魔力制御をした【韋駄天】より理解がしやすかった。
着地後、再度イメージし直しその場での垂直飛びを早朝の朝食までの修練時間いっぱいまで続けた。
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クロフォード学園―――魔術科修練所・早朝
同刻の魔術師修練所。
【炎球】が被弾した際の爆発音を響かせながら、エルザもいつも通りの修練をしていた。
「【炎魔法】【炎球】!」
スタッフを一回しすると、エルザの周囲に漂う7つの光球に炎属性が付与され【炎球】へと変化する。
【炎球】へ創造された魔法は、エルザの意識している攻撃目標のゴゥレムへと向かって行く。
エルザは現在、ティファとの【決闘】で敗北の原因となった狭範囲に切り替え、【炎球】の連弾による”魔力スタミナ”の息切れを克服するため、ティファに敗北後狭範囲での【炎球】の連弾修練を連日行うことで魔力スタミナを強化していた。
魔力スタミナの強化がある程度出来上がって来た時点で、エルザは新たな魔法戦技の習得を目指していた。
それは狭範囲から広範囲へ切り替える修練をしていた。
エルザが今行っている魔法戦技は”範囲変更”と言う魔法戦技であり、自身の意識下から制御を離れた攻撃魔法等の放出された魔法を再び制御下に戻す修練をし始めていた。
【範囲変更】
高位の技術を有する魔術師の魔法戦技であり、これを習得している高位の魔術師は、【球】【矢】【刃】の3形状のいずれかの攻撃魔法を狭範囲で弾幕を張り、後に意識範囲を瞬時に変更し、広範囲に切り替え放出した攻撃魔法を制御下に戻すことで軌道や射程、【形状変化】、【属性変換】が可能となる。
だが、先行していく攻撃魔法の速さに意識を追い付かせることは非常に困難とされ、3年進級後からカリキュラムが始まり、この範囲変更を習得して卒業する生徒は1割程度しかいない。
(ここで切り離された意識を狭範囲から広範囲へ!)
狭範囲で【炎球】を意識下から切り離し、ゴゥレムへ向かって行く【炎球】再度制御するべく意識範囲を広げる。
だが、【炎球】が標的に向かって行く速さに対し、エルザの範囲意識を広げる速さが追い付かず、標的に当たる【炎球】もあるが大半はゴゥレムから外れていくものもあれば途中霧散していくものもあった。
(これが出来なければ到底お兄様の足元にも及ばない……)
クロフォード学園において範囲変更の魔法戦技は3年生に昇級し後、半年後からの修練課程として取り組まれている。
エルザは一日の修練の合間に、学園内にある書庫に足繫く通いクラウスに対抗できる魔法戦技を探していた。
そんな中エルザが辿り着いた答えが、範囲変更という魔法戦技である。
「できないで終わらせない……。【決闘】までに絶対できるようになってやる!」
そう自分に言い聞かせ、スタッフを一回しし上段に掲げ7つの【炎球】を再び創造する。
掲げた杖を振り下ろし目標のゴゥレムへ【炎球】を放ち、先行する【炎球】を追いかけるように意識範囲を広げていく。
「……っ!!」
だが、何度やっても先行していく【炎球】に意識の範囲拡張が追い付かないと言う事を繰り返す。
「ふぅ……」
連続して行っていた修練に、一区切りつけエルザは周囲に自身以外の気配がないか探る。
「……?」
いつもならそろそろ修練を終えたティファの姿があったが、この日は魔術科の扉を開く気配もなく壁の方に目を向けてもティファの姿は見当たらなかった。
(なによ……。なんで今日は来てないのよ……)
この日の早朝訓練にティファの姿が見えないことに、居たら居たで鬱陶しく思っていたが、居なければ居ないでエルザは心なしか寂しい思いで胸が締め付けられた。
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クロフォード学園―――学生食堂・朝
朝の修練から戻ったうちは、汗を流し着替えを終えエリノアとまだ寝ぼけて歩きながら舟を漕いでいるヴィオラと共に学生食堂へ入って行く。
「ティファーー!おはよ!」
食堂の入り口でうちの姿を見つけたミリアが、挨拶をしながら腕にしがみついてくる。
ミリアの後ろを小走りで追いついてきたシンシアが、「お、おはようござい……ま、ます」とおどおどと控えめに挨拶してくる。
エルザとの【決闘】以来、ミリアがシンシアを気遣っているのか食事時に一緒に居るところをよく見かけるようになった。
「よぉ、2人ともおはようさん」
ミリアとシンシアに挨拶を返していると、その後ろからエルザ達の姿が見えた。
「お?エル!おはよ~……さん……?」
食堂の入り口でエルザうち等の存在に気付き、うちを睨み返しすれ違う瞬間に「ふんっ!!」と言って思いっきりそっぽを向き、ビュッフェの列にドーラとアメリアがお互いに顔を見合わせ、小首を傾げた後エルザを追いかけ列に並ぶ。
「あり?なんでエルの奴怒っちょるんじゃ?」
うちはエルザの態度に困惑の表情を浮かべる。
「ティファ~。アンタお嬢に何したのよ?」
傍らでうちに対するエルザの態度を見て、エリノアうちとの関係が良好になってきていたと思っていた矢先、自分達の知らない所でまた何かしらの衝突があったのかと、呆れ気味に聞いてくる。
「う~ん。今日は何もしてないんじゃがのぅ……」
うちはエルザが怒っている理由に心当たりがなく、困惑した表情で小首を傾げる。
エルザの態度に疑問を持ちつつも、時間が迫ってきていたため列に並び朝食を摂ることにする。
「ティファニアと何かあったの?」
「ティファ様と何かあったのですか?」
エルザの後ろを付いて食堂の列に並び、ドーラとアメリアが声を揃えて先程のティファに取った態度が気になり同じ質問をする。
「別に!何もないわよ!」
エルザは朝の修練で顔を見せなかったティファに対し、ティファが傍に居ないことに寂しいと言う感情を抱いたことを悟られない様に、2人の質問にムキになって答えた。
エルザから返ってきた答えに対してドーラとアメリアは(絶対何かあった)と確信した。
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クロフォード学園―――剣術科修練所・通常修練
「ティファ様、お疲れ様です」
準備運動をしているティファにこの日も律儀にお辞儀をしながら声をかけてきた。
「ん?おぅ、アメリア!」
ティファはアメリアの方へ向き軽く手を挙げ反応を返す。
「どうですか?修練の進捗は」
準備運動を整えたティファにアメリアが進捗と調子を尋ねてくる。
そんなアメリアに「ふっふっふ」とティファが不敵な笑みをあからさまに浮かべる。
「?」
アメリアはティファの浮かべる笑みに小首を傾げる。
「見ちょけ!これがうちの修練の成果じゃ!」
そう言ってティファは瞬時に自身の身体を軽くするイメージを固め、アメリアにその場で垂直飛びをして見せた。
「……っ!昨日の今日でここまで……ですか……!」
跳び上がった高さは精々100cmを少し超えるくらいであり、目標である身長の倍を跳躍できることはまだできていなかったが、アメリアは想定していた以上の修練成果を見せられ、跳躍したティファを見上げながら驚きの表情を浮かべる。
(やっぱり、ティファ様は自身の身体状態を理解し、どのようにイメージすればいいかの才能に長けている!)
アメリアはティファの驚異的な習得度の速さに対し、ティファの才能がとびぬけていると言う事を見出す。
「おっとっと!どうじゃろうか!?まだまだ目標には足らんが、朝の修練でここまで跳べるようになったぞ!」
ティファは着地の際に少々ふらつきながらも体勢を立て直し、【風魔法】を使用した垂直飛びの成果を得意げな表情を見せつけた。
「もうそこまでできるなら加速手段である突風を起こして、実際に加速する修練も織り交ぜていきましょう」
アメリアは先程の跳躍を見て、ある程度及第点でありイメージが安定していると判断し、自信を軽くするイメージは継続しつつ、【風迅加速】において最重要である任意の方向へ移動するための風圧を発生させる、次段階の修練を同時にしていくように提案する。
「ん?まだ目標より5、60cmくらい足らんけど、えぇんか?」
「問題ありません。”自身の身長の倍跳び上がれるように"はあくまで最高値の基準であって100cm以上跳べているのであれば、巻き起こす風圧次第で先日よりは進捗があるはずです」
アメリアのその言葉をティファは受け入れ、風圧を巻き起こし移動するする修練を併用して行うことにした。
「【風魔法】【風迅加速】!」
アメリアから跳躍高は概ね十分だと判断をされ、【風迅加速】において重要な風圧を巻き起こす修練も同時にしていく。
「どうじゃ!」
自身の体重を軽くするイメージはアメリアの言う通り、安定して同じイメージは固まってきていた。
エルザの引いたS地点に立ち、自身の後方へ突風を巻き起こし身体を風圧で前に押し出し、後方を振り向き進んだ距離を確認する。
「ん~、1歩程……というところでしょうか」
「おし!まずは文字通り1歩前進じゃな!」
うちは前日の事を踏まえ数cmの”たった1歩”の前進でも跳び上がるほど歓喜していた。
そんなうちの前向きな姿を見て、アメリアが微笑む。
「それじゃ、続けて行くか!とりあえず目標25m!」
「1日そこらで私に追いつくのは勘弁してください」
エルザの専属使用人で学園に正式な席はないものの、魔法もそれなりに使え魔術の心得のあるアメリアは、うちの立てた目標に少々困った表情を浮かべる。
「あ、ティファ様、少々お聞きしたい事が……」
修練を続けようとしたうちにアメリアが声をかけてくる。
「ん?聞きたい事?」
「はい。今朝のお嬢様の事なのですが、何かありましたか?」
今朝のエルザの態度についてうちだけじゃなくアメリアもずっと気になっていた様で、早朝の修練の際に何があったか聞いてくる。
「う~ん、何もしてないんじゃがなぁ……。敢えていつもと違ったって言ったら、今朝は【風迅加速】の修練に集中しすぎてエルザの様子を覗きに行けんかった……くらいか」
顎に手を添え早朝の事を思い出し、食堂で顔を合わせるまでは絡みはなかった答えた。
「あぁ......、なるほど。そう言う事でしたか」
アメリアは1人で納得し、クスクスと笑い始め、そんなアメリアを見てうちは「?」と小首を傾げる。
「すいません。あの様に見えて『お嬢様は寂しがり屋』な一面もありますので、いつも覗きに来るティファ様が突然姿を見せなかったから拗ねちゃったんでしょうね」
そこまで説明を聞き、確かに思い返せば怒っていると言うよりは拗ねていると言う感覚だったかもしれない。
「そういう理由だったのでしたら、今日は早めに切り上げて魔術科の修練所に向かいましょう」
「しょうがないのぅ……。まぁ、ご機嫌斜めのままじゃ面倒くさいし……」
うちはアメリアの申し出を受け入れ、この日は修練を早めに切り上げることにした。
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