〈第22話〉『【風迅加速】』〈後編〉
クロフォード学園―――剣術科修練所・通常修練【決闘】まで残り5日
「よし!やるか!」
準備運動も終え、気合十分にS地点の前に立つ。
先日の魔力制御した修練結果は、エルザの引いた4本目の線、200mを数十cmを超えた辺りだった。
それを踏まえ今日の修練目標は3本目の線、150m辺りを目標に定めていた。
「ティファ様、お疲れ様です」
いざ修練を開始しようとしているうちの背中にアメリアが声をかけてくる。
うちは声を掛けられた方に振り向く。
うちが振り向いた瞬間、お互い視線が合った瞬間アメリアは律儀に深く頭を下げ、うちの方へゆっくりと歩み寄ってくる。
「今から本修練ですか?」
「うん?そうじゃよ、って、あり?今日魔術科はこの時間座学じゃ?」
朝食時に魔術科在籍のミリアとシンシアが修練服でなく、通常の学生服で朝食に来ていた事から、この日の魔術科は座学なのだろうと思っていた。
「先日も言いましたが、私とドーラは生徒に数えられていませんので。理由もドーラから聞いたそうですが、基本的に私達はお嬢様の指示で動きます」
「そうか、じゃあ今日も修練に付き合ってくれ」
うちがそう返すと「こちらこそお付き合いさせていただきます」と頭を下げる。
「さて。やるか!」
うちはS地点に立ち直り、目を瞑り4割の魔力で脚力を強化するイメージで魔力の流れを調整する。
その瞬間、魔力が電気質の形状・属性に変化し前進を駆け巡り脚に集中していく。
制御した魔力が脚力を強化した瞬間、うちは目を見開き地を蹴り目標としている地点まで疾走する。
(1本目……。2本目……。3、本目……っ!)
横目で50m感覚の線を追っていき、3本目の線が見えた瞬間、脚に力を入れ線を越えない様に急制動をかける。
土煙を挙げながら地面に一筋のラインを残し、4本目の線手前数cmというギリギリの位置で止まる。
(違う。これじゃ魔力を制御しちょるとは言えん!)
4本目の線(200m)地点は超えなかったが、急制動をかけてまで目標地で止まったとしても、それはエルザが提示した魔力制御ではないと、本日一発目の結果に納得がいかなかった。
(4割まで抑えてあれか......)
うちは呼吸を整えながら、次にどの程度まで魔力を制御するべきか考えながら、S地点まで戻っていく。
「ふぅ~……」
うちは再びS地点に立ち精神統一をする。
「あ、ティファ様ちょっとお待ちいただけますか?」
精神を集中し。(次こそは)と魔力の制御をしているうちに、今まで静かに修練を見ていたアメリアが唐突に声をかけてきた。
「邪魔をしてしつれいいたします。今し方のティファ様はどの程度まで魔力を抑えておられましたか?」
と、申し訳なさそうな表情を浮かべ、先程の魔力その程度まで抑えていたのかを尋ねてくる。
「え?えぇっと、さっきは4割程度……じゃったかな」
「そうですか……、なるほどですね……」
アメリアはうちの返答を聞き顎胃に手を添え何か考え始めた。
そんなアメリアの姿をしばらく眺めていたが、剣術科もこの日は午後から座学だったため、考え込んでいるアメリアを横目にうちは再度、時間内に目標をクリアすべくS地点に立ち全身に流す魔力を制御し疾走の準備をしていた。
「あっ!ティファ様ちょっとお待ちを!」
目標地点を目で定め、いざ疾走しようと一歩踏み出そうとした瞬間、アメリアが静止して来た。
うちはアメリアの声の方へ振り向く。
「ん?どうした?」
振り向いた際、集中が途切れ脚へ流していた魔力が霧散し消えていく。
「お邪魔をしてしまい申し訳ありません。1つ私から見て欲しいものがあります」
「見て欲しいもの?」
うちは首を傾げながら、アメリアに問い返す。
「はい。ティファ様の独自創造魔戦技の【韋駄天】には及ばないかもしれませんが、魔術師にも瞬発的に敵の攻撃を回避する魔法戦技があります」
「魔術師が使う回避魔法戦技?」
うちが今まで認識していた魔法戦技は、防御系の【魔法防盾】、攻撃系の3種の形状魔法【球】・【矢】・【刃】しかなかった。
「はい。上手くできるかはわかりませんが言葉で説明するより、まずはその魔法戦技を見てもらってもかまいませんか?」
うちはアメリアの申し出に「別にえぇけど」と首を縦に振り、攻撃系以外の魔術師の魔法戦技を見ることがないことから、後学のためアメリアの言う回避魔法戦技を見せてもらう事にし、うちはS地点から離れる。
「それでは……」
一言断り、一礼をしてS地点に立ちワンド型の杖を取り出す。
「【風魔法】『【風迅加速】』!」
アメリアがそう唱えた瞬間、突風が巻き起こりうちの目の前から一瞬でアメリアの姿が消えた。
彼女の姿を探すと25m辺りに移動していた。
魔術師にもこんな魔法戦技があるのかと、「おぉ!」と感嘆し実践したアメリアに向かって拍手をする。
「不慣れではありますが、いかがだったでしょう?【韋駄天】とは違いますが、これが魔術師が使う回避魔法戦技です」
そう言いながらアメリアがうちの傍まで戻って来た。
「さっきのどうやってやるんじゃ!?」
うちは【風迅加速】に興味が湧き、アメリアに食い気味にどういった原理なのか質問する。
「そうですね。大したことではないのですが、自分の体重を羽のように、宙を舞う葉のように軽くなるよう想像しながら風属性の魔力で全身を覆う感じにします。それが出来ましたら任意の方向に【風魔法】で突風を巻き起こし風圧で瞬発的に加速するだけです」
アメリアが【風迅加速】の説明をしながら、そよ風を吹かせ身体がふわふわとゆっくり右横の方へ数cm移動する。
「うちが雷属性で脚力を強化するように、風属性で身体を覆って体重を軽くする……か、なるほどなるほど……。なぁ、それってうちにもできるか?」
「ティファ様は魔法防盾も使えて、誰に教わるでもなく独自創造魔戦技を編み出しておられるので、修練をすれば使えるようになりますよ」
アメリアにそう言われ、うちは試しにやってみることにする。
「……」
(風属性で体重を軽くするイメージ……)
いつも使用している雷属性の電気質の魔力が全身をめぐる感覚とは違い、優しく温かい風がうちの全身を包み込む。
「【風魔法】【風迅加速】!」
準備の整った瞬間、試しに左へ移動するため右側に魔力で風を巻き起こす。
「……」
「……あり?」
身体がふわっと浮かぶ感覚はあったが、立っていた場所から全く動いてはいなかった。
「い、意外と難しい......か?」
アメリアの説明の感じだと簡単に思っていたが、実践してみると失敗に終わった。
「ん~、そうですねぇ。身体を軽くするイメージが甘かったか、【風魔法】で起こした風圧が弱かったか、それとも両方が出来ていなかったかですね……」
うちの【風迅加速】見ていたアメリアが、失敗の原因を簡単に分析する。
「ティファ様。これは私からの提案なのですが」
「提案?」
うちはアメリアに向き直り問い返す。
「はい。元来【風魔法】は魔術師にとって、魔力循環や魔力制御の基本とされ、他属性を補助する事にも長けています。【韋駄天】を使用しての魔力制御を試みるのも良いと思いますが、少し遠回りをして【風迅加速】を習得してみてはいかがでしょう?」
「【風迅加速】を先に習得……か」
【決闘】までの期間は限られている。
そのためアメリアの提案を受け入れるか顎に手を添え悩み始める。
「昨日今日とティファ様の修練を観察させていただきましたが、魔力を制御している様で出来ていない、というのが私の感想です」
「そ……そうかぁ……」
自身でも薄々感じていた事をアメリアにはっきりと言われ肩を落として落ち込む。
「これはエルザ様が好きな言葉なのですが、”遠くは近し、近くは遠き”という言葉があります」
「”遠くは近し、近くは遠き”?誰の言葉じゃ?」
聞き慣れない言葉にうちは誰が発した言葉か聞き返す。
「エルザ様のお母様、イリーナ様の言葉です。意味は”遠周りに見えている道でも基本に立ち戻った方が目標への近道になる”逆に”近道をしようとすれば上手くいかないときの焦りと苛立ちが積み重なっていき気付いた時には目標が遠くなっている”という意味だそうです」
「ふ~ん、なるほどねぇ……」
(元の世界で言うところの”急がば回れ”ちゅうことか)
うちは腕組みをして考え始める。
「よし!わかった!アメリアがそう言うなら【風迅加速】を先に習得しちゃろうじゃないか!!」
うちが提案を受け入れるとアメリアが笑顔になる。
「えっと、【決闘】まであと5日ですか。新たな独自創造魔戦技の習得も含めると……。【風迅加速】は2日で習得しましょうか」
「は?2日で習得!?」
アメリアの言うことも尤もなのだが、【決闘】までに2つの魔法戦技を習得しなければならない前途多難さにうちは言葉を失ってしまう。
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