〈第21話〉『【風迅加速】』〈前編〉
クロフォード学園―――剣術科修練所・通常修練・夕刻【決闘】まで残り6日
「はぁ……はぁ……」
魔力制御を意識ながらの走り込みで思っていた以上に体力を削られ、うちは珍しく膝に手を着き流れる汗を拭うことなく息を整える。
この日は魔力制御の修練に没頭するあまり、いつも行っている走り込みと素振りの自己修練が出来なかった。
補助についてくれていたアメリアは、補助についてくれた初日はジッとうちの修練風景を見つめるだけで何のアドバイスもなく、「今日の食堂当番が私なので、これでお暇します」と、ペコリとお辞儀をし剣術科の修練所を後にしようとするアメリアに、「おぅ、ありがとな」と返す。
(見る……だけで終わりか)
アメリアからそれなりのアドバイスがもらえるかもと思っていたうちは、夕刻になり主人に言われた次の職務にあっさり向かうアメリアの姿に、「助言をするほどまで至っていない」という意図だと素っ気ないアメリアの態度を勝手に受け取ってしまう。
うちは息遣いがまだ乱れ額から流れる汗を拭いながら、身体の上体を起こし再びS地点に立ち修練を再開する。
「も、もう……走れん......」
アメリアが去った後も魔力制御を主体として修練を続け、体力と魔力が限界に近づき、息を切らしながらその場にダイノジで倒れ込みむ。
(エルザはまだやっちょるんか……)
倒れたまま魔術科修練所に目を向けると、修練用ゴゥレムに被弾した爆音が響き炎光で修練所が照らされていた。
「とりあえず、今日はここまでにしとくか……」
エルザが居残って修練している姿が思い浮かび、体力も限界にきていると判断し、今日の修練をここまでにしようと切り上げたうちは、魔術科の手練所へと足を向ける。
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クロフォード学園―――魔術科修練所・夕刻
うちが魔術科修練所の扉を静かに開き中に入ると、エルザの修練を見続けていたドーラが扉の開く音に気付き、入ってきたうちと視線が噛み合う。
「……」
「……」
お互い存在を確認した後、うちは静かにいつも通り壁に木剣と背を預け腕組みをしてエルザの修練姿を見つめる。
「う~ん。前々から思っちょったが、エルザは今何をしちょるんじゃ?」
うちは初めて自己修練しているエルザの姿見て以来、同じような修練を繰り返し行っていることに気付き疑問を抱く。
「さぁね……。使用人である私にはエルザが何の目的があってひたすらに【炎球】をゴゥレム相手に打ち込んでいるかなんて聞かされていないわ。そもそも、アンタに【決闘】で負けた後から、こんな修練をしているなんて私とアメリアは知らなかったし……」
それを聞いたうちは、「ふ~ん、そっか……」と返答後、うちとドーラの間に静寂が訪れる。
「そういえば」
2人の間に会話がなくしばらくエルザの修練に目を向けていたうちは、視線をドーラに移しアメリアが言っていたある事が気になり聞いてみることにする。
「?」
「お前とアメリアが生徒に数えられてないってどういうことなんじゃ?」
うちの問いに一瞬うちの方を見るドーラだったが、「あぁその事……」と言った後再びエルザの方へ視線を戻す。
「私とアメリアはクロフォード公爵家の持ち物だからよ」
「持ち……物?」
うちはドーラのその言葉を聞き、人を物扱いする表現に険しい表情を浮かべる。
「悪いね。学のない私には、私達とエルザの関係について聞かれた時に、言い回しがそう言った方がっ手っ取り早いって思ったから。ただ、悪い意味に捉えないでよ。私とアメリアはクロフォード家に仕えて辛いと思った事はない。むしろ、クロフォード家に買ってもらえて幸せだわ」
そう言いながらドーラが振り向き、うちの方へ歩いて来るかと思ったが、数歩離れた位置の壁に背を預ける。
「私とアメリアは親にクロフォード家の使用人として売られたんだよ。私とアメリアの家名が似てるのは私とアメリアが親族、従妹だから」
ドーラはエルザの修練から目を空に向け、自身とアメリアの生い立ちとクロフォード家に仕える間瀬の経緯をうちに、ドーラとアメリアはいとこ同士であり6歳を迎えた際、金目当てで両親にクロフォード家へ売られたこと、自身とアメリアの過去を話す。
「で、エルザが色無しから脱却した頃に、年齢が近いって言うことで専属の使用人になったってわけ」
「エルザが色無し……?」
ドーラのその言葉からうちは”エルザが色無し”の部分を拾い上げドーラの方へ顔を向けつい聞き直してしまう。
うちの反応を見て、ドーラがハッとし失言が混ざっていた事に気付き口を手で覆う。
「悪い、今言った事は忘れて……」
「……」
うちはドーラに向けていた顔をエルザの背中に戻し、何かあればエルザ本人から話してくるだろうと思い無言の返答で聞かなかったことにするが、暫くお互いの間にぎこちない雰囲気が漂う。
「……あ、そう言えば、今日の修練でアメリアからのアドバイスがなかったのにはちょっと凹んだのぅ……」
雰囲気を換えようと思ったわけではないが、今日修練に付き合ってくれたアメリアの素っ気ない態度を思い出し故意にドーラにも聞こえる様に呟く。
「……。そりゃそうでしょ。同じ学科で同じクラスの生徒が指導に付くならいざ知らず、アンタの独自創造魔戦技を見たのは私含めてアメリアもあの【決闘】が初めてだし、どんな感じで魔力を身体に流しているのか、1日かけて観察するのは当たり前でしょ」
先程の失言を聞かなかったことにしたうちの配慮に、安心した表情を浮かべアメリアが今日の修練で口出しをしなかった理由をドーラが代弁する。
その理由にうちは「ふむ、そう言われたらそうか」と納得した。
「ま、明日からはそれなりのアドバイスもしてくれるんじゃない?一日中観察してたならアンタの使ってる魔力の流れも見てただろうし」
「うちの使っちょる魔力の流れ?」
うちは魔力の流れを見ていたと言う言葉に小首を傾げる。
「アンタの補助に私じゃなくアメリアが選ばれたのは、あの子が魔力を視覚で捉えることに長けているからだよ。3年生の2つ名持ちの生徒とか上位の生徒は当たり前にできる魔法技術ではあるけど、その一点だけではエルザを凌いで上位の生徒に並べるくらいにね」
「ほぉ~、アメリアって凄いんじゃのぅ!」
アメリアの評価されている突出した能力にうちは感心した。
「それに、人選が私だったらずっとアンタと衝突したままで修練にならないでしょ」
「う~ん。そこはいつも突っかかってくるのはお前の方じゃないか?」
ドーラは先程の言葉に補足し、うちはその補足に対しておちょくるように言葉を返す。
うちの返答にドーラは「そんなことないわ!」と割と大声で返す。
その声に反応したのか、エルザの修練の手が止まり爆炎と爆音が急に止まり、構えていた杖を降ろしエルザが大声で騒いでいるうちとドーラの方へ振り向き、憤慨した様子でギロリと辛辣な視線を向けてくる。
「っ!ドーラ!今日はこのくらいにするわ!」
修練の集中を削がれたエルザは、夕食の時間も鑑み修練を切り上げ夕食へ向かうことにした。
魔術科修練所から先に出て行くエルザの背中をうちとドーラはお互い顔を見合わせ後を追い本日の修練を終了する。
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