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異世界剣聖記  作者: 深村美奈緒


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〈第19話〉『独自創造魔戦技』

 クロフォード学園―――魔術科修練所・夕刻【決闘】まで残り7日


 「フッフ......。フッフ......」

 「……」

 うちは両手の木剣を一定の間隔でを交互に振り続ける。


 「フッフ......。フッフ......」

 「……」

 傍で修練しているエルザも、修練用ゴゥレムに向けて【炎球】(ファイアー・ボール)の連弾を休みなく撃っているが、”何かに”気を取られ過ぎて時折標的を外している様子が見受けられる。


 「フッフ......。フッフ......」

 「……あぁぁ!もう!気が散る!!なんでアナタは当たり前のようにここで素振りしてるのよ!!」

 傍で修練しているうちの存在に、気を取られ過ぎて己の修練に集中できなくなったエルザの堪忍袋の緒が切れ、ついにうちに難癖をつけてくる。


 「何でって?う~ん……、1人で修練するのは寂しいからに決まっとるじゃろ!!」

 うちは一瞬考えるふりをして、胸を張って踏ん反り返りエルザに答える。


 「何が寂しいよ!当たり前のように胸を張って言うんじゃないわよ!この剣術馬鹿!!」

 「おい!馬鹿は言いすぎじゃろ馬鹿は!本当のことであってもはっきり言われたら普通に傷付くじゃろ!!ん?あれ......?でも剣術馬鹿......か。あれ?これは褒められちょるんか?ん?あれ?」

 「褒めてない!どんな受け取り方したら褒めてるって言う解釈違いになるのよ!!」

 腕組みをしてエルザが思った方向とは違う悩み方を始めたうちを見て、エルザは頭をかき乱しながら言葉が通じていないうちを見て苦悶する。


 「エルザ様」

 頭をかき乱しうちの事で苦悶しているエルザにアメリアが話しかける。


 「何よ!?」

 うちの事でイラついていたエルザは語気を荒げたまま声をかけてきたアメリアの方へ振り向く。


 「申し訳ありません。ですがそろそろ修練を切り上げませんと学生食堂が閉まってしまいます......」

 まだ修練中のエルザとうちとのやり取りに、アメリアが心苦しそうに割って入り、食堂が閉まる時間が迫っていることを伝えてくる。


 「ん?もうそんな時間か。じゃあ今日はここまでにしようや。ご飯食べに行くぞエルザ!あぁ~、お腹空いた!」

 エルザとアメリアの会話を横で聞いていたうちは、素振りを早々に止め出入り口へ足を向ける。

 出入り口へ向かううちの背中を見て「はぁ~」と大きなため息をつき、この日の修練を諦め食堂へ向かうことにする。

 うちとエルザが横に並んで歩く後姿をアメリアは「ふふふっ」と微笑ましい光景を見ている表情を浮かべ、うちとエルザの背中を追ってくる。

 

 「そう言えば、今日はドーラの姿が見えんけどどうしたん?」

 いつも3人で居るイメージの強いエルザだが、今日は使用人の1人であるドーラの姿が見えない。


 「ドーラは今食堂の厨房に居るはずですよ」

 数歩後ろに控えて付いてきているアメリアがうちの疑問に答える。


 「厨房?なんでじゃ?」

 「修練がいつ終わるかわからないから、ドーラが厨房の締め作業の手伝いをする代わりに、時間ギリギリまで開けてもらえるように、今朝シェフに頼んでおいたのよ」

 うちのアメリアに向けた問いに、横を歩いているエルザが代わりに答える。


 「先日はティファ様の同科の方が食堂の締め時間を延長していただいていたみたいでしたので、お嬢様とティファ様のこの度の【決闘】(デュエル)が決着するまで、私とドーラが交代で締め作業を手伝う代わりに締めの時間いっぱいまで開けておいていただけるようお願いした次第です」

 アメリアがエルザの返答に、こういった事に至った経緯を補足する。


 「ふ~ん、そっか。というか、どう呼んでもらってもえぇけど、その”様”付けで呼ぶのは止めてもらえるか?」

 アメリアがうちの名前に”様”付けで呼ばれ、それに違和感を感じ普通に呼んでくれと頼む。


 「そうよ、アメリア。ティファなんて呼び捨てでいいわよ」

 「おいおいエル、うちなんてっていう言い方もどうかと思うけどな」

 「はぁ!?今私のエルって呼んだ!?アナタが気安く私の名前を愛称で呼ぶんじゃないわよ!!」

 言葉こそ荒っぽいが、エルザに怒っている雰囲気はなく、寧ろ周囲の者から”爵家の子息・息女を愛称で呼ぶことは不敬にあたる”とされ、公爵家の従者はもちろんのこと、同年代からも愛称で呼ばれたことはなく、うちから何の躊躇いもなく愛称で呼ばれ気恥ずかしそうな表情をしている様だった。

 

 その後もうちとエルザはくだらない軽口を言い合いを続け、そんなうち等を後ろから付いてくるアメリアが静かに笑いながら厨房への道を歩いて行く。


 クロフォード学園―――学生食堂


 ぐうぅぅ~~……。

 

 学生食堂に到着したとたん、うちのお腹の虫が「早く食べさせろ!空腹だ!」と言わんばかりに大きな音を鳴らす。

 貴族、もっと言えば女性が公衆であることをも考えず腹の虫を鳴らすうちを見たエルザが、額に手を当て「はしたない......」と言いたげに首を振り、呆れ気味にうちを見てくる。

 

 既に一般生徒の喫食時間が過ぎていると言う事もあり、ビュッフェスペースの大皿は全て厨房の方へと下げられていた。


 「ドーラ、来たわ。何か出せるかしら?」

 エルザが厨房で働いているドーラを捕まえる。

 

 「あぁ、エルザ......様」

 普段3人の時では”様”を付けて呼ばないドーラだが、公衆の面前がある場では敬称を付けてエルザの事を呼んでいる。

 いつもの調子でエルザの事を呼んでしまったドーラは、周囲の生徒達の視線を気にして慌てたように”様”を付ける。

 

 「料理は出来たら持っていくわ。席で待ってて」

 「そう、それじゃお願いね」

 うち達はドーラに背を向け適当な席へ向かう。


 「あ、ティファニア!」

 「ん?」

 数歩離れたところでドーラから呼び止められ、うちだけど厨房の方へ振り返る。

 

 「あぁっと、き、昨日はエルザ......様の事で世話になった。あ、ありがとう……」

 「……」

 顔を合わせればエルザと同じくらい憎まれ口でからんでくるドーラが礼を言ってきたことにうちは驚いた。

 アメリア同様エルザの体調を気に掛けていたドーラは、荒っぽい方法ではあったが部屋に引き籠っていた、主人であるエルザを部屋から連れ出してくれた事への礼だとうちは受け取った。


 「えぇよ。うちの方こそ悪かったな。アンタ等にとって、踏み越えられん一線があったのも確かじゃ。それから、”ティファ”な」

 ドーラの礼の意図を汲み取り、うちはいい加減呼び方を変えろと伝えるように言い残し、ドーラに背を向けエルザ達が陣取った席へ向かう。


 うち達が席に着いてしばらくして、賄料理ではあるものの、貴族であるエルザに気を遣ったような料理が前菜から順番に並び、テーブルを埋め尽くしていく。

 前菜のスープから順に並んでいく料理をメインディッシュまで食べ終え、遅くまで開けてくれていた生徒・シェフに頭を下げ、うち達は食堂を後にしそれぞれの寮に帰っていく。


 クロフォード学園―――剣術科修練所・早朝【決闘】まで残り6日


 日課としている走り込みを【紫電】【韋駄天】で走り切るのだが、相変わらずコーナーでの方向転換に急激な減速を強いられる変わらぬ現状にもどかしさを感じる。

 ”一直線”での急加速には今うちが使える魔法技法の中で最高峰だと思っている。

 だが、2組【決闘】(タッグ・デュエル)の日も刻一刻と近づいてきていることで、”一直線”だけに特化した【韋駄天】に使い勝手の悪さと、3年の主席2人にこのままでは通用しないと感じている。


 「ふぅ……」

 うちは額に浮かんだ汗を拭い溜息をつく。


 (……)

 息を整えながら【韋駄天】で走った地面を観察する。

 コーナー手前で力任せで減速し、方向転換した後再加速のため地を蹴る跡が土を削り鮮明に残っていた。

 

 「……だああぁぁ!!もう!うまくいかんなぁ!」

 自分の不快なさと成長の行き詰まりから憤りを感じていると、魔術科修練所の方から爆発音が微かに聞こえてきた。


 (お、今日もやっちょるな)

 とりあえず、自分の悩みは後回しにしエルザの様子を見に魔術科の修練所へ足を向ける。


 クロフォード学園―――魔術科修練所・早朝【決闘】


 修練所に入ってきたうちには気付かず、エルザはいつも通り一心不乱に【炎球】をゴゥレムへ撃ち続けていた。

 早朝の修練ではエルザが遠慮しているのか、同行を断っているのかわからないが、使用人のドーラとアメリアの姿がない。

 うちはすぐには素振りをせず、傍らにそっと木剣を立てかけ背を壁預けて、しばらくエルザの修練に目を向ける。

 

 (う~ん……。魔術師ってどうやって魔力を制御しちょるんじゃろ……)

 うちは腕組みをし首を傾げながらエルザを観察する。


 「ふぅ~……」

 エルザが創造していた最後の【炎球】をゴゥレムに撃ち込み、深く息を吐きだし額に浮いた汗を拭う。


 「なによ、今日はやけに静かじゃないの……」

 エルザは背後に居るうちの方へ振り返ることなく声をかけてくる。


 「なんじゃ、気付いちょったんか」

 出来るだけ気配を消して邪魔をしない様にしていたつもりだったが、気付かれていたことにうちは少々驚く。

 

 「調子はどうじゃ?」

 振り向かないエルザの背中にうちはそう問いかける。


 「いつも通りよ。変わりはないわよ」

 「そっか……」

  うちの言葉にエルザはこちらに振り向かないままそう答え、スタッフを正面に構え一回転させ【炎球】を創造し、ゴゥレムへの撃ち込みを再開する。

 

 (あ、そう言えば、レオス先輩が言っちょったこと聞いてみちょかんといかんな……)

 レオスと手合わせをしている際に、気になることを言っていたことをふいに思い出したうちは、【決闘】を思い出させることにはなるが、次にエルザが手を止めた時に聞いてみることにし、そのままエルザの修練に目を向ける。


 (う~ん……)

 「……」

 

 (う~む……)

 「……」


 (う~ぬ……)

 「あぁぁ!もう!何よ!何よ!何なのよ!!じっと見られすぎて逆に気になる!それから唸り声が五月蠅いわ!!」

 エルザは修練を再開し始めてしばらくは素っ気ない態度で集中していたが、じっと見られている視線が逆に気になり集中できないと憤慨し、静かに観察をしていたつもりだったがエルザの指摘でいつの間にか唸っていたことに気付く。

 集中が途切れたエルザは壁に寄りかかっていたうちの方へ、イラついた雰囲気を漂わせ振り向く。


 「悪い悪い。静かにしちょったつもりじゃったんじゃがいつの間にか声が漏れちょったみたいじゃ」

 と、申し訳ないという思いからエルザに頭を下げる。

 うちが頭を下げたことは気にせず、中途半端な状態で修練を停めてしまったエルザは、小刻みに肩を震わせつつ、「はぁ~」とどこか諦めたような溜息をつきうちの隣へ歩いてくる。

 隣と言っても少し離れた位置でスタッフを立てかけ、エルザは壁に背を預ける。


 「……今日はもう終わりか?」

 隣に来たエルザの横顔を見て声を掛ける。


 「休憩よ!きゅ・う・け・い!」

 エルザは腕を組みをしながらうちに反論してくる。


 「……」

 「……」

 2人の間に言葉はなく、静かな雰囲気が広がる。


 「……もしかして、修練の進捗が無くて悩んでるんじゃないでしょうね?」

 「何でそう思う?」

 エルザが唐突に沈黙を破り、抱えている悩みを見透かしたような質問をしてくる。

 うちはその質問になるべく表情を悟られない様に気を付けエルザに問い返す。


 「特に理由はないわ。ただ、何となくアナタからいつもと違う雰囲気を感じたし、気付いてるか知らないけど昨日までの表情より暗いのよ」

 「う~ん、うちはいつもと変わらんけどなぁ」

 うちはエルザの返答を聞き、あからさまにそっぽを向き頬を抓って誤魔化す。


 「何に行き詰って悩んでるのよ?聞くだけは聞いてあげるわ……」

 「う~ん……。まぁ行き詰っちょるには行き詰まっちょる。というか、聞きたいことがある……」

 うちとの【決闘】を思い出させ、もしかしらそれでエルザの気分を害してしまうかもしれないとも思ったが、意を決してレオスが言っていた”分身していた”事を聞いてみることにした。


 「あの【決闘】で真っ直ぐに突っ込んでいくうちに対してアンタは途中から【炎球】を外し始めたよな?うちは故意に外しちょると思っちょったが、後日の訓練中にレオス先輩から”分身”しちょったって聞いた……。それは本当なんか?」

 「は?アナタは……何を言っているの?あれはアナタが意図的に使った技じゃないの?」

 エルザはうちの質問の真意がわからない様で、一瞬思考停止した表情を浮かべる。



 (あの”分身”は意図的なものじゃなかった……。ちょっと待って……、じゃあ、あれは……ティファが無意識に……、偶然生み出された技……、『独自(ユニーク・)創造魔戦技』(クリエイト・スキル)ってこと!?)

 エルザはあの【決闘】で自身を翻弄したティファの”分身”を思い出す。 


 【独自創造魔戦技】

 過去の先人が時代を受け継いでいく後人の世間一般魔術師向けに出版し広まっている魔導書等から知識を得ず、或いは現存する魔導書を元とし自己の発想や偶然の事象から生み出され、常識にとらわれない新たな技として昇華される戦技・魔法技術の事。

 聖王歴以前から続いていた戦乱が剣聖によって平定され、聖王歴が始まってから今世まで書物に残されるほどの目立った独自創造技を生み出してきた者は確認されていない。

 

 齢7歳で神官から”色無し”と言う判定を受けたエルザは、それ以来クロフォード邸の書庫に保管してある先人が残してきた全ての魔導書を読み漁り、それを実践し『0』からの自分の力を押し上げてきた。

 その魔導書の中には身体強化魔法の記述はあったものの現在は廃れてしまっている。

 

 「……」

 「……?」

 ティファは己を黙って見つめるエルザに対し小首を傾げる。


 (……多分嘘は言っていない))

 数日間だけの付き合いだが、先程の態度を踏まえティファは嘘をつけば顔に現れる性格だとエルザは思った。


 (……今思い返せばあの超加速する身体強化魔法も、私が読んできた魔導書にも似たようなものはあった。でも、そもそも、身体強化魔法は魔術師が他者に施すものしか知らない……。あの技、【韋駄天】って言ってたかしら、あれ自体もティファの創り出した独自創造魔戦技って事に……)

 エルザは顎に手を添え、ティファが使用していた【韋駄天】が、独自創造魔法戦技だと言う事を知る。

 

 (そんな高等な事を剣術科であるティファができるなんて……!!)

 エルザは自分にできない事を打ち負かした相手が意図していない技に翻弄され、あの【決闘】で自分を追い詰めた事実を知り、その悔しさから唇を噛み締める。


 (それに、お兄様ですら独自創造魔戦技は持っていないのに!)

 次期剣聖と国からも領地からも担ぎ上げられている兄クラウスすら、書物に残される程の独自創造魔戦技を自身が発展させ、技・魔法へ昇華したということは聞いたことがない。

 このことからエルザは同時にまったくの"0"から技を生み出せるティファの技量と発想・才能に、敵対視と嫉妬心に心中を支配されそうになるが、その感情よりもこの先にある新たなる戦技の進化・昇華にティファがどうしていくのか嫉妬心・敵対心を上回る興味の感情を抱く自分が居た。


 

 「エル……?」

 うちはあの【決闘】を思い出させ、エルザが色々と考え込んでいるのではないかと心配になる。

 顎に手を添え、何やら考え始めたエルザを目の前にし、うちはあの時の【決闘】がまだ尾を引っ張っているのではないかと心配になり控えめに声を掛ける。


 「ティファ。本当に……、あの”分身”を使用した自覚はないのね?」

 「ない!というかその反応を返してくるってことは”分身”しちょったのは本当なんじゃな」

 うちはエルザから”分身”技の自覚の有無を問われ、はっきり否定する返答をし、レオスが言っていたことが真実だったと受け止める。

 

 「そうよ……。それで?それを知ってアナタはどうしたいのよ?」

 「……。今うちのが使っちょる技は先輩達に知られちょる。じゃから……」

 うちはエルザに真剣な表情を向ける。


 「じゃから、先輩達が知らん”新技”の習得をしたい!」

いつも稚拙な文章にブックマーク、いいね!ありがとうございます。

更新頻度が遅いですが執筆の励みになっております。

誤字報告、感想もお待ちしております。

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