5話、比奈が西の管区を荒らす!?
「比奈の身体、柔らかくて眠たくなる〜♡」
モルウェスが私に膝枕されて、猫みたいになっている。
「ヒィッ、あんまり触らないでよぉう。」
「比奈が妃になるための特訓よ。」
「だからならないってぇ〜」
その時、部屋のドアがノックされる。
「おい、比奈、お前宛の手紙だ。」
レイモンドがそう言いながら部屋に入ってきた。
「って、お前ら、、、何してんだ。」
レイモンドが、まるで気持ちの悪いものを見たかのように顔をしかめる。
「比奈が妃に行くための特訓よ?」
モルウェスがしれっと答える。
「なるほど! 頑張れ! 手紙、ここ置いとくぞ!」
レイモンドはドアの隣にある小テーブルに手紙を置き、さっさと部屋を後にする。
「ならないってぇ(泣き)」
妃になるっていう噂を、この前手に入れたユニークスキル、『改定反応』と
『フラグ回避』で切り抜けられないものかな。
多分、この世界は民度がいいからなのか、このような噂は風評被害にはならないという事、なんだろうなぁ。
私はそんなことを考えながら、手紙の封筒を開く。
【信頼なる仙田比奈へ、当所の報酬であった、大型の屋敷、ドレス、ネックレスの用意が整いました。
首長の地位はもう少し待ってくれ。
ユークドランドの魔王アルフ】
との内容だ。
「文書中で言葉の使い方がめちゃくちゃだし、それにネックレスなんて頼んでない。」
「貰えるものは貰っておきましょう?」
「それもそうだね。 待って、まだ手紙の続きがあるよ?」
【今から宮殿に来い。 緊急だ。】
「緊急だ。なんて、手紙で使う時点でおかしいよ」
「そう? この辺ではよくあるのよ。」
✷✷✷
「来たよ?」
私は宮殿の広間で声を響かせる。
「そうか。 今回、実は頼みがあってな。」
彼には珍しく、アルフは真面目な表情だ。
「で、頼みの報酬は?」
「ずいぶんと率直だな。 今回の報酬は、制圧した土地を丸ごと領地にしてもいい。 これでどうだ?」
アルフは憎たらしく眉を上下に動かす。
「悪くないね。」
私は少し笑顔になる。
「だろ?」
「で、制圧と言ったわね。 どこの土地?」
「このユークドランド管区よりも1つ西に位置する、ホールスト管区の東部に位置するロウト地区だ。」
「別の管区を?」
「ああ、そうだ。 そこに霊乃という敵国の勇者が逃げ込んだ。」
「戦争に私を利用する気?」
「他にも理由はある。 例えば、霊乃はここよりもずっと東にある管区でたくさんの盗みを働いた。
つまりは、戦争に関係あろうとなかろうと、霊乃は始末するべきだ。」
「聞いた感じ、外道なのはわかった。 だけど、その場での判断は私に任せて貰うね。」
「構わん。 このような類の難しい任務だからこそ、お前に白羽の矢が立った。」
彼は本当に口が上手い。
私はそのまま宮殿を後にする。
✷✷✷
「ロウト地区に行くなら、温泉街にもよっていくべきよ。」
「温泉街があるの?」
「ええ、この国でも指折りのね。」
そんな話を聞いてしまっては、娯楽大好き人間の比奈にはもう、行かないという選択肢など無い。
「よぉし、行ってくるねぇー♡」
私はほのぼのする笑みを浮かべる。
「比奈は単純だわね。」
そうは言えても、相手は勇者だ。
油断はできない。
数日前にレイモンドから聞いた話では、下級から中下級の勇者は終焉の使いに手も足もでないが、中上級からはまるで別次元らしい。
中下級と中上級の間には絶対的に克服できないレベルの差があるのだとか。
本当にそこまで違うのだろうか。
他にも聞いたけど、経験や才能の違いに限らず、私が最近単語を知った、
ユニークスキルってやつとか、あとは、ユニークアーツの数や扱いにも格段の差があるらしい。
ちなみにだが、これから私が会いに行く霊乃という敵国の勇者は上級の中でも5本の指には入るレベルらしい。
一応、私も今回の任務で勇者認定を受けたが、実力から考えても中上級レベルだと言われてしまった。(落ち込み)
だが、『エンドスレイヤー』であるということなら話は別で、伝説によれば、
勇者自体と比べると才能とポテンシャルの差が明確で、スキルやアーツも前列の無いものをこれから入手できるそうだ。
私は戦闘した時のアルフが嬉しそうな表情をしていたのを思い出す。
「あれは私と手合わせできて嬉しそうだったのか。 でも、やっぱり気持ちが悪いなぁ」
何より戦闘狂なのが気持ち悪い。
✷✷✷
「じゃあ、行ってくるね」
私はモルウェスとレイモンドに大きく手を振る。
「おう、霊乃が強かったら逃げてきてもいいんだぞ?」
レイモンドが私を茶化す。
「逃げるわけないじゃぁん。」
✷✷✷
私は南西の以前使いを葬った正門の橋を渡り、壁の外にある民家や馬小屋を通り過ぎる。
「えーと、確か、」
私は『ブレイン』にダウンロードしたマップを、視界の端に表示する。
どうやら、ユークドランドはフルーゲルでは特に大規模な管区らしく、ユークドランド全土を表示したら、これから行く予定のホールスト管区がマップの左端に少しだけ表示されるという、とても見にくい形になってしまう。
「よし、ホールストだけのマップをリサーチしよう。」
私はブレインの検索欄に、『ホールスト管区地図』っと打つ。
すると、超古代と思わしき画像から、いつのものか分からないマップまで、全て出てくるではないか。
「やり直すか。」
『ホールスト管区地図現在』っと、再度打ち直す。
やっと出てきた。
これだ!
私は一番左端のマップをダウンロードする。
ちなみに、『ブレイン』というのは、つい2日前に風呂で湯船に浸っているときに手に入れたユニークスキルで、名前こそそのままなのだが、ほぼ全ての知識が手に入るし、難しい学問や他人の秘密までもが自在に知れ、理解できる。
「元の世界でこのスキルがあれば、赤点回避余裕なのになぁ」
それから、私はふと思いつく。
「この世界は魔法ってあるのかなぁ。」
私が持っているスキルやアーツでは数が足りない。 その分、負ける可能性が高くなる。
「よぉし、魔法を使えるようにするか。」
私は歩きながら、検索欄に『魔法』っと打つ。
そこで出てきた種類の魔法は、物理系や幻惑系、召喚術や死者蘇生まで様々だ。
私はそれを一番上から一番下まで、全てダウンロードする。
通知、『全魔法をダウンロード完了』
私は早速、近くにいたメデューサに、火炎系で一番基本の、『火炎放射』を試してみる。
ちなみに、メデューサは、上半身は女性で、下半身は蛇の姿をした、目を合わせると石にされてしまう危険なモンスターだ。
まあ、私には効かないけど。
「喰らいなさい!」
私はメデューサに手の平を向け、火炎を解き放つ。
「クァァァァ!!」
メデューサは皮膚が焼けながら、私に突進してくる。
「ふうーん、あまり効いてなさそうね。」
一瞬で実験に飽きた私は、空かさず火炎系と電撃系の最上級魔法でトドメを刺す。
『エクスプロボルト』
この魔法は、どんなに才能のある魔術師でも、膨大なスタミナと魔力が消費されるため、撃てるようになるまでに最速で数十年はかかる上に、一発でスタミナと魔力が底を尽きることがほとんどだ。
だが、私は魔力もスタミナも切れることが無いので、何発でも撃てる。
「そりゃ!!」
私は一切の容赦なくメデューサにエクスプロボルトを撃つ。
次の瞬間には、もうメデューサは地面ごと消し飛んでいた。
「魔法って便利だなぁ。」
私はそのまま、ゾーンに入り、0秒でユークドランドを抜け、ホールスト管区のロウト地区にたどり着いた。
「空気が美味しい。 明るい緑色の草原がすごく新鮮だなぁ。 ほとんど毎日が吹雪のユークドランドとは大違いだよぉ。」
私は眺めの良い丘の上で、大きく呼吸をする。
ここからだと、遠くに別の都市が見えるし、それよりも手前には村があるのも丸わかり。
「さて、ランドマークを更新しますか。」
ランドマークは、マップ上で行ったことある場所に付き、その場所を選択すれば、0秒で移動できるというシステムだ。
私は霊乃がいる場所を検索する。
その結果、『東ロウト村』と表示された。
マップで見てみると、自分がいる丘から、ちょうど一番近い村だった。
そう、丘の麓に小川が流れているのだが、さらにその向こう岸にダンジョンと思わしき石造りの遺跡があり、それと隣接しているのだ。
「想像の何倍も近い。」
私はさっき自作した魔法の、『ダイヤモンドの翼』を発動させる。
この魔法は、自身に出し入れ可能なダイヤモンドの軽量化した翼を付与し、空を飛べるというシンプルだがユニークな魔法だ。
それを、ユニークマジックとでも言おうか。
ちなみに、宇宙空間や虚無の次元みたいな空気が無いところでも使えるように改造しといた。
これは、ブレインに無料ダウンロードした、『創造神になろう』というアプリで作成できる。
私は早速使ってみる。
すると、毛皮のマントがダイヤモンドの翼に変わる。
それは、私の背中から生え、動かすこともできる。
私は丘から飛び、硬いはずのダイヤモンドが羽ばたくのを感じる。
そしてここで、とある2つの失敗に気付く。
今の毛皮のブラジャーと言っていいほど恥ずかしい胸当てに、下半身は全部を覆うズボンとブーツだ。
最近はこの服装に完全に慣れていて意識しなかったのだが、やっぱり際どい。
しかも、144cmで弱めのGカップという体型なので、目立って仕方ない。
それから、スカートでこの魔法を使えない。
私は飛びながら顔に片手を当ててショックを受ける。
そうこうしている間に、村の上空に到達したので、ふんわりと舞い降りる。
静かな村だな。
小川の辺なので、民家がほぼ横一列に建てられている。
とりあえず、ここの近くに製材所があるので、そこに移動してみる。
ガッ!
勢いよく薪を割る音が聞こえる。
その方に目をやると、白ひげのおじいさんが、山積みにされた薪を1つずつ斧で真っ二つにしていた。
「あの、すみません」
おじいさんは私に目をやる。
「なんだ、嬢ちゃん、この辺境で何をしている。」
おじいさんはゆっくりと喋る。
「霊乃という人物を探しています。」
「霊乃か、彼なら、底のアークロイという酒場で朝からバイトしてるよ。」
勇者がバイト!?
上級勇者なら、どんなに使っても有り余るほどの財力があるばずなのに。
あまり信じられないなぁ。
「ありがとうございます。」
私はお礼を言って、その酒場に入る。
✷✷✷
酒場の中は真ん中に大きな焚き火があり、周りに椅子やらテーブルやらが設置されている。
そして、奥にあるカウンターでは、
「アークロイへようこそ」
背が高く、中華風のポニーテールで白い中華服を着た、とても美形な男性が立っていた。
率直な感想だけど、 すっごく好み♡
「若いお客さんとは、珍しい。」
近くで見るとわかるが、身長が恐らく
187cmだ。 とブレインが情報を出した。
「あ、あの、その、インスタ
やってますかぁ?♡」
私は任務のことをすっかり忘れていた。
「はい、やっていますが。」
「交換しましょう?」
私はブレインから自分のアカウントを出す。
それは手から出た光にリンクとして表示された。
霊乃はそれを自身のスマホにかざす。
ブレインには、すぐに霊乃のフォロー通知が届いた。
「ところで、手から光どころかリンクを出すなんて、すごいですね。
だいたい見ていて気付いたのですが、君も勇者なのか。」
その時、霊乃の雰囲気が変わり、青いオーラが表れる。
私は任務の内容を思い出した。
「あ、忘れてた!」
「何を忘れてたのかな?」
霊乃は気付いたときにはもう、私の前でひざまずき、顔が間近まで迫っていた。
「ふぁ!?」
私は赤面して離れようとする。
「そっちは危ないよ。 焚き火があるからね。」
霊乃は私の手を握りしめる。
私は霊乃の大きな手に思わずドキッとしてしまった。
「顔が赤いよ? 熱かな?」
霊乃は次に、私の額に手を奥く。
その暖かさは、心まで届くほどだ。
「一度君に手合わせを申し込みたい。 近頃、戦闘感が鈍っていてな。 女性の勇者と手合わせする機会もないので、ぜひともと思っている。」
「はい♡ 手加減はしません〜♡」
私は激惚れでもはや意識が遠退いていた。
「よし、外に出ようか。」
霊乃は私の手を引き、表に出る。
✷✷✷
「さあ、いつでもかかっこい。」
早速、霊乃は戦闘体制に入る。
私が武器無しなのを察知したのか、彼は素手で戦うようだ。
「容赦は一切なしだよ?」
「ああ、もちろんさ。」
私は早速ゾーンに入る。
そして、初手に放つのは、さっきも使ったエクスプロボルトだ。
それは私の手から爆炎を帯びた大きな雷となって霊乃に襲い掛かる。
「魔法が使えるのか。 やるじゃないか。」
なんと、霊乃はそれをいとも簡単に素手でいなしてしまう。
「次はこちらからだ。」
霊乃はそう言って、竜巻のような拳を振るう。 それは、遠距離にいたはずの比奈まで届く。
だが、紙一重で避けるのだった。
「今のを避けるか。 面白い。」
彼の目はなぜかこの状況でも優しさに溢れていた。
(やばい、ゾーンに入ってるのに、なんて速さなの。 視認はできるけど、カウンターを入れる隙が全くない。)
霊乃は次に、中国拳法の八極拳を放つ。
やっぱり、スピードがおかしい。
ドカンッ
私は回避したが、空振りなのに空間が張り裂けたかのように見えた。
霊乃は考える。
(ほう、スピードもパワーも俺が圧倒しているが、反応と回避能力が全く類を見ない。
だが、この勇者はティルトに来てからまだ2週間くらいだと風の噂では聞いていたが、ここまでの才能だとは。
恐らく、俺とは持って生まれた才能が違う。)
「なるほど、これは厄介だ。」
霊乃が呟く。
「強い、一体、どうすれば、、、。」
私は呟く。
続く
次回、綺麗な花には棘がある。




