4話半②、拭えない血
「俺と勝負しろ!!!」
魔王アルフの怒声が庭に響き渡る。
「ここで?」
「そうだ。」
アルフは腕を組んで仁王立ちになる。
「お前が負けたら俺の妃になってもらう!!」
「そっちが負けたら?」
「お前の願いを何でも3つ叶えてやる。」
「本当!? 神龍より気前いいじゃん!」
「比奈、バドミントンするんじゃないの?」
モルウェスが斜め後ろで呆れている。
「待ってて、すぐに終わらせるから」
そう言って、私は次元除外を使うため、魔王に意識を集中させる。
本来なら、このアーツを使えば1秒足らずで片がつく。
そのはずなのだが、、、
「いい技じゃないか。」
次元除外で発されているターコイズブルーの光の塊をモロに浴びながら、何事も無かったかのように、アルフが歩いてくるではないか。
「え、どうして、、、、、」
私は驚愕の表情を浮かべる。
「次元除外ってやつだろ? あれは対象をこの次元から消滅させる技で、別次元や概念に偏在してさえいれば、ただのランタンと同じ効果となる。
まあ、要する、パワーが足りない。」
ムカつくほどのアルフはドヤ顔で説明した。
「さて、次はこちらから攻撃させてもらう。 安心しろ、俺は女性には優しくする男だ。」
危機を察知したのか、私の持っている2つ目のアーツ、絶対移動が発動する。
その影響で、周りが完全に静止しているように見えるのだが、
何かおかしい。
「ほう、ゾーンに入ることをコントロールできるのか。」
なんと、アルフがこの静止した世界で変哲も無く動いている。
どうなっているの!?
「ええ?」
「フッw 驚きのようだな。 俺は攻撃と言ったが、面白いから少し遊んでやろう。」
次の刹那、0秒の間で止まった世界でアルフの姿が突然消える。
「え? 何?」
赤い閃光が現れる。
それとほぼ同時だった、私の頭の中に、新たなる内容が更新される。
※必要に応じて自動発生し、自身に向けられた攻撃を全て認識でき、さらにそれを確実に視認できる。
そして、それに攻撃の概念が偏在すれば、それがどんなものでも避けることができる。
どんなチート能力なの。
そんなのがあったら何も苦労しなそうなのに。
気がつけば、0秒の静止は解かれ、赤い閃光を空振りしたアルフが目の前にいた。
「何!?」
彼はプロポーズを断られた時のように目を見開く。
「もう俺の戦闘スタイルに対応したのか!?」
「そうみたい」
「これは素晴らしい!!」
アルフはなぜか嬉しそうだ。
そして、アルフはさらなる攻撃を加える。
「これはどうだい?」
足元が歪む。地面にどこの言語にも似つかないような、不快に感じる文字が浮かび上がる。空間が曲がる。
気付いたときには、もうそれは放たれていた。
だが、私が見たのは、なにもない空間が歪み、本来の生物なら失明するほどの黒いポータルが開く光景だった。
「回避不可のはずなんだがな。」
アルフが不思議そうに顎に手をやる。
その後もアルフの謎の実験は続き、彼がネタ切れになった頃だった。
「バドミントンやるんじゃないの?」
どうやら、モルウェスが待ちくたびれたようだ。
「バドミントンか、懐かしい遊びをしているな。」
「懐かしいって、知ってるの?」
「ああ、俺も以前はお前と同じ、地球人だった。」
そう言って、アルフは始めてみるほど優しい微笑みを浮かべる。
「そうなの!!?」
「そうだ、実は俺もお前とは国は違うようだが、転生前はバドミントンクラブに入っていてな、そこそこ強かったんだぞ?」
それを自慢げに言われるとなんだかだんだんと腹が立ってくる。
「じゃあ、戦闘では私の回避能力とあなたの異常な耐久性が相反して勝負がつかなくなったことだし、今度はバドミントンで勝負しない?」
「いいぜ? 俺がいた国、イギリスはバドミントンの発祥国だ。 元々はバトルドー・アンド・シャトルコックという遊びが原型らしい。」
「それはいいことを聞いちゃった。」
「ルールはそのままで、アーツもスキルも一切無し。 ガチガチの引き分け無しの3点マッチで先に2点取った方の勝ちだ。 今度こそ、お前が負けたら俺の妃になり、俺が負けたら願いを3つ叶えてやる。」
「妃なんて絶対になりたくなぁ〜い」
「フンッw、その態度、とても気に入った。」
「あと、1つだけハンデを頂戴?」
「ハンデだと? まあ、一対一ではお前に勝ち目など無いのだし、良かろう。」
「私はモルウェスとダブルスで戦わせてもらう。」
私は退屈そうにしていたモルウェスを指さした。
「そうか、わかった」
✷✷✷
庭のフェンスから家の壁に向かってネットを張り、私達は手作りのラケットを持って位置についた。
だが、木の板としなやかな網を加工して作ったラケットなので、途中で壊れることも覚悟している。
「サーブは俺からで良いな?」
「うん」
「いくゾォ〜、」
凄まじい速さでアルフはラケットを上に跳ね上げる。
それによって飛び上がった羽は、圧力を帯びてネットの真ん中に引っかかった。
「何!? この俺が!?」
「せめて1発目はネット越えてよ。 魔王様〜?」
モルウェスが煽りを盛大に込めて言い放った。
それが彼の心に火をつけたのか、拳に力がこもったのが見えた。
「ほう、モルウェス、なかなか貴様も言うではないか。 少し本気を出すとしよう。 次のサーブは貴様らだ。」
アルフはネットの下から羽を転がした。
「オッケー、じゃあ、放つね。」
私はアルフ側にサーブを放つ。
「オリャ!」
ネットを越えた羽は、エリアの端で打ち返された。
だが、それが私達のエリアに戻ることはなかった。
彼の打ち返した軌道が直線的だったせいか、羽はネットを越えることなく、そのまま網目に引っかかった。
「何!? ネット高すぎだろう、おい!」
「ねえ、」
「なんだ!?」
「今、どんな気持ち〜?www」
私は誰にでもわかるような、ストレートな煽りをかました。
「悔しい気持ちだ!!」
「ふーん、以外に正直なのね。」
「真の男には嘘も言い訳も必要ない。」
「ネット高すぎってのは?」
「あれはただの感想だ。」
「じゃ、約束どうり、3つまで願いを叶えてね。」
「まあ、約束したしな。」
「じゃあ、まず、1つ目はなんだ?」
「うーん、ちょっと待ってて、」
私はモルウェスの元に向かう。
「モルウェスは何がいいと思う?」
「とりあえず、願いを三千個に増やさない?」
「それめっちゃいい♡」
「うん、だよねー、」
「あ、それでそれで、いつでも使えるようにストックしない?」
「そうしよそうしよ」
私はアルフの元に戻る。
「とりあえず、決まった」
「何にするんだ?」
「まず、願いを三千個に増やしたい。」
「それは無理な話だ。」
「まじか〜」
私は残念そうに下を見る。
「あ、じゃあ、とりあえずストックして置きたいのだけれど、」
私は顔を上げて言う。
「まあ、それなら問題ない。 忙しいときでなければ、いつでも願いを叶えてやる。 俺の能力の規模が届く範囲ならばだが。」
そう言って、魔王アルフは庭から去って行った。
✷✷✷
彼が去ってから、私はモルウェスと庭のベンチに座って会話をしていた。
「モルウェスはアルフと知り合いなの?」
「そんなところね。 ていうか、この辺では誰もが知ってるわよ。 わんぱくで好戦的って噂ばかりだけどね。」
「そうなんだ。 でも、なんで魔王をやってるんだろう。」
「たしか、彼は魔王になるためにこの世界に召喚されてきたそうよ。 でも、まさかあなたと同じ世界から来たなんて、想像もしなかったけどね。 昨日までは私も小説の世界が本当に実在するなんて考えもしなかった。 もしかしたら、他の魔王も同じだったりして」
「ん? 他にも魔王が?」
「ええ、ここフルーゲルが政変してから、帝政になって、それぞれの管区ごとに魔王が設置されるようになったの。」
「管区と魔王についてはなんとなく聞いてたけど、国名と政治に関しては初めて聞いたなぁ。」
私はライムさんの話を思い返す。
「ところで、管区自体は全部でいくつあるの?」
「えっと、私が知ってるのだけでも、十八はあるわ。」
「そんなに!?」
「そうよ?」
「アルフは、どうやら4番目に古い都市に住まうだけあって、4人目の魔王に任命された転生者らしいわよ。 あれからもう9年になるわね。」
「待って、それって、彼が何歳の時の出来事?」
「十七歳だったらしいわよ?」
「今の私よりも1つ歳上か。 ん? ってことは、今は二十六歳じゃん!!!」
「そういうことになるわね。」
「うわ~!! ロリコンキター!!!」
私は思わずベンチから立ち上がる。
「ちょっと、落ち着きなさいよ」
モルウェスが叫ぶ私を諌めようとする。
「無理無理無理無理!! 絶対無理!!!! 歳上怖い!!! ロリコンなんて絶対無理!!!!!」
嘘である、このJKは前の世界で、「どうせ付き合うならぁ、歳上がいいなぁ♡」っと言っていた。
「でも、無事、この世界に馴染めそうで何よりだわ。」
モルウェスが安堵する。
「どこがぁあ!!」
そうして、比奈の自宅が用意されるまで、モルウェスの家でこんな楽しい日常を送り続けるのだった。
続く
補足としてだが、比奈の回避能力は、自身への攻撃という概念(改変能力や自身へ害をなす全ての存在を含む)を完全無効化する能力であり、それが発動するたびに、物語改変が自動的に使われている。
なので、攻撃の概念が無いもの(自然災害や宇宙の法則、不慮の事故など)も通用しない。
それから、絶対移動とは0秒行動のことを指すのだが、比奈が特殊なところは、ゾーンに入れるところだ。
そのゾーンにいる限り、全てがまるで静止したように見える。そして、ゾーンに入っているときには、どのくらい何をしても0秒で行動したことになる。
なら、なぜアルフが動けたのかと言えば、彼のような魔王や、その他特異で強力な能力者がスピードや距離の概念を完全に超越しているが原因である。
次回、5話、比奈が西の管区を荒らす!?




