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戦禍へ/幹部襲来Ⅰ

********



 ……昨日はあんまり眠れなかった。


 いくら(サナ)だけベッドとはいえ、下では男2人が寝ているこの状況では、あまりにも危険過ぎる身の回りを守る事が最優先だったからだ。


 訂正、それに関しては、白と2人きりだった昨日の方が危険だった。……本当はそんな事で寝れなかった訳じゃない。


 私も馬鹿じゃないから、少しは違和感に気付いていた。




 あのイデアとか言う人が白に対して言っていた『アレン』なんて名前。

 そして白がイデアとか言う人に言っていた『兄さん』なんて言葉。


 ……私にはとても信じ切れない。

 あの白に兄がいたなんて。


 ついこの前まで、白は叔父さんと一緒に住んでいたというのに。


 ……でも、もし本当に白に兄がいたのだとしたら……?



 確か白は既に滅びた、日ノ國の出身だった筈。

 それに(おそらく)本名のような名前。



 よくよくちゃーんと考えれば、一度白は犯罪人と疑われた人なんだ。

 ならば、そのように疑われた理由も当然あるはずで。


 兄と生き別れる事になった何らかの理由も昔にある、と言う事は……

 白は明らかに何かを、この国や日ノ國にとって、重大な何かを隠している……!






 でも……まあめんどくさいし、別に聞く必要はないか、まあいっか! と、違和感を一蹴する。

 ……どうして白に問い詰めてみなかったのか、と思う羽目になるのはまた後の話。




********





 ……昨日はあんまり眠れなかった。

 昨日は成り行きで兄さんと一緒になったが、普通に()たちの関係を見たら異常だろう。


 なんせ、つい数日前まで叔父さんと住んでいた人が、急に生き別れの兄弟と再会したのだから。

 サナからしたら、明らかにおかしいと、何らかの違和感に気付く筈なんだ……!








 ……俺が六歳の時、神殿国を出てすぐ、

 初めて█した女。そのすぐ横にいた金髪の幼女。


 俺が女を█し、██し、█べる様を傍らから見ていた肌の白い幼女。

 ……そうだ、あの幼女に顔がそっくりなんだ。



 もう二度と、思い出したくのない記憶の片鱗が脳裏を過ぎる。


 █の味。█の感触。█の臭い。

 もう二度と、思い出したくのない感覚の一部が脳裏を過ぎる。

 だからこそ———。






◆◆◆◆◆◆◆◆


「おはよう!」


 唐突な挨拶に朧げだった意識が覚醒する。

 俺の顔の上から俺を起こしていたのは、白い肌をした、金髪の美少女だった。


「あ……ああ、おはよう」


 ……まさかそんな事ないよな、なんて思いつつ兄さんを起こしにかかる。


「兄さ~ん、起きてくれ兄さ~ん」


「ふん……貴様に起こされなくとも、俺様は1人で起きれる。余計な心配は無用だ」


 ……いや、兄さんさっきまでガッツリ目瞑ってたよね……




「そう言えばさ、私達って今どれだけお金あるの?」


 サナの言葉。……できれば気付いてほしくなかった。




「今は……昨日もらった分の報酬のレメル30枚から昨日の晩飯3人分を抜いて……レメル15枚だな」



「す……少ない……って、何でそんなに少ないワケ?! ふんだくった慰謝料はどうしたの?!」


 頼むからそんな言い方しないでくれ、ふんだくったとか言わないでくれ。


「どうした……って、ジェーンさんの医療費にかなり割り当てたんだよ……おかげでまだほぼ無一文状態だ」




「……レメル15枚は少ないのか?」


 疑問に思ったイデアが質問を投げかける。





「そうだよ兄さん、一般的に見るとかなり少ない。この宿に泊めてもらってるのは四日前に一週間だけ泊めてもらう約束を取り付けたからだ。


 つまり今日含め、後3日で3食余裕で食べられるくらいの金を稼がなくちゃいけない訳だ。その為に今日から3日間、2人で分かれて効率的に任務をこなす」




「うそでしょ……超面倒臭いじゃん……」


「2人……俺様は入っていないのか……?」


「行くあてがないのだから仕方なく泊めてやっただけだしな。それに、同じくパーティにいるのに日々殺し合いを続ける仲間なんて嫌だろ?」


「そう……か、そうか、そうだな、普通に考えたらそうだな……」

 

 仕方なく納得した兄さんを突き放す様で悪いが、流石に3人は資金が足りないからな……



「じゃあなアレン。次会った時は必ず殺す」


「……その挨拶やめてくれ」


 一瞬ちゃんとした殺意がこもっていたのは気のせいだろうか。





「なんで別れの挨拶ってのにこんなに物騒なの、あなた達兄弟って……?」


「じゃあな兄さん。次会うまでに死ぬんじゃねーぞ」


 ……それを言われるべきは俺なのだが。

「……貴様もだアレン。———俺は()()を求める。どこまでも、な……」



 別れの挨拶を済ませた兄さんに続き、俺たちも部屋を出る。




◇◇◇◇◇◇◇◇



 ———王都掲示板前。

 そこではまさに緊急の招集がかかっていた。



「どなたか、前線に———魔王軍幹部攻防戦線に、行かれる方はおりませんかー?」


 ……前線。魔王軍と人界軍が戦っている地帯を示す名称だ。


 魔王軍の幹部も出てきて、最近ではずっと前線が後退し続けているらしいが……





 魔王軍幹部には懸賞金もかけられており、1人でも倒したあかつきには巨額の富が手に入るという。つまり……



「分かってるわよ白。ビジネスチャンスよね」


「ビジネス……かはともかく、一攫千金だな、2人に分かれる作戦は一旦やめだ……!」



 つまり、俺たちが魔王軍幹部を倒せば、それこそ遊んで暮らせるだけの金が手に入る訳だ。

 だが当然リスクは大きい。しかし……


「行くリスクは大きいけど……他の勇者も何百人かくらいは来るだろうし、弱ったところを私の超火力魔法で攻撃して手柄だけ独り占めすればいいでしょ!」


「分かってるじゃないかサナ。もちろん行くしかないよな……!」







 ……だがこの後俺たちは知る事になる。自分の予想はあまり信じない方がいいという事を。






 現前線は王都から西に40数キロ離れた村の近く。

 村が陥落する前に、住民たちが逃げ終わるまでに援軍が欲しいとの事だった。



 任務を受注することをさっき招集をかけてた係員の人に伝え、任務専用の馬車に乗る。





◇◇◇◇◇◇◇◇


 砂漠と化した荒野を駆ける馬車。

 日差しが眩しく照っており、どこまで行っても蒸し暑さが身に纏わりつく嫌な状況にて。


 馬車を動かしている爺さんに聞いてみた。


「後続の馬車とか全然来てないんですけど、他の勇者とか来てるんですかね?」




「いいや、……今日、便に乗ったのは君たちだけだよ」



「「?!」」




「まったく、勇敢な若者たちだねぇ……その命を無駄に散らす事もないだろうに……」


 え、え、どういう事? 俺たち命を落とすつもりないんですけど?


「……なあサナ」


「なあに白?」


 サナは万年の笑みである。なぜだろうか。



「ヤバくね」

「ヤバすぎでしょ」




「え、えっとおじさん!」


「何かね」


「援軍は……援軍が来るとしたらいつになりますかね?」


「今日の便はもうないから……君たちが現地に着いた時から最低でも15時間程度は耐えないと援軍は来ないねぇ……」


 ……まずい、これはまずい……! このままだと俺たちたった2人で魔王軍兵闊歩する戦禍に放り込まれる……! どうあがいても死ぬ……! すぐにでも降りる旨の話を伝えなくては……!


「あ、あの~、ここで降ろしていただいてもよろしいですか?」




「いやぁ~すごいねぇ、最近の若者は。私が戦場で戦いに巻き込まれる事を心配してここで降りてくだなんて……でも大丈夫、君たちはちゃんと現地まで送り届けてあげるから、心配しなくても大丈夫だよ」


 ちげーよジジイ! 死ぬのは俺たちだから!! 戦いに巻き込まれて死ぬの俺たちだから!! オメーの心配なんて誰もしてねえから!!





「……ねぇ白、ちょっと耳寄せて」


 そっと軽く、サナの方に耳を寄せる。


「白のせいで更に降りにくい状況になっちゃったんですけど!! どーしてくれんの?! 私まだ死にたくないってのに!!」


「……いや、もう俺は諦めた。俺たちの墓場は故郷から遠く離れた村になるんだ。これは利益だけを求めた俺たちへの罰なんだ、俺は素直に受ける事にするよ……」


「何受け入れてんの! 何悟り開いてんの!! 今から死にに行くってのに、自殺しに行くってのに! 何も緊張感ないわけ?!」



「だから言っただろう。俺はもう諦めたんだっ」


「そんな爽やかな声で言わないでよ……!」





 とその時、前から爺さんが大声で、

「君たち何話してるんだい?……若者同士の会話だろう~、私も聞いてみたいよ」


 ……だとか言ってきた。喋ってる余裕あったら降ろせよ。


「い、いやぁ何でも無いですよ、ただの恋バナです」


「ほお、色恋沙汰とな、それは~聞いちゃいかんなぁ」





◆◇◆◇◆◇◆◇



 ……そんなこんな、あれこれサナと抜け出す対策を考えているうちに3日が過ぎた!!


 ……そして、ついに———行き先の村に着いてしまった、が。




 暗く染まった空とは対照的に、村は既に火の海。

 数百メートル離れた地点からでも伺える紅、遠くから見てても助けを乞う人々の姿が見えるくらいに村は地獄と化していた。


「さ~て、突っ込みますよ~」


 突然爺さんが頭おかしい事を口走る。




「えっちょ、突っ込むって何に??」


「見て分からんのかい?」


 ……村に突っ込むってことかよっ!!



「いーやいやいやいや、ここで降ろして! ここで! お願いだからここで!」


「そんなに私が心配か……でも分かった! ここで降ろすぞ!」





「よかった……!」

「村は全然よくないんだけどね」


 そのツッコミはナイスだが、現状況で考えうる最悪のツッコミだ。本当にどこまでも最悪だ。







 爺さんは俺たちを降ろした後そのまま引き返してしまった。あとは……


「……なあ、どうする?」


「どうしよっか。とりあえず、村の中に入ってみる?」






 入ってみる事にした。

 トチ狂ってるって? ああ、既に半狂乱状態です。



 言わずもがな、村の中に入っても地獄なのは変わらなかった。


 どこを見ても下の方が赤く染まった空。

 音を立て、崩れ、割れていく木材。


 唯一燃えていない石造りの施設より聞こえる、女子供の擦り切れるような呻き声。





 ……そして。

 ヒトを食べるスライム。

 ヒトを食べるゴブリン。


 誰かがバラバラに切り刻んだ肉片を1個1個、さぞ美味しそうに、かつ丁寧に食べていく。

 中には生きたまま叫び声を上げながら腑を噛みちぎられ、惨殺されていくヒトも見えたが。





 ———そんな中。


「あ、ああっ……ああああっ!!……うっ、うあっっ……!」


 まるであの世の……三途の川でも見てきたかのような、あまりにも絶望的で———とてもその美貌には似合わない顔をしながら、泣き崩れていくサナの姿を見た。





********



 その頃、サナの脳内では数年前の出来事が映し出されていた。







 唐突に日常が終わりを告げたあの日を。

 通りがかりの少年に、一撃で首を斬られ微動だにしなくなった母の姿を。


 まるで自分の餌の様に骨を引きちぎり、皮を剥ぎ、未だ脈動を止めない██を食べる少年の姿を。


 そしてそれを半狂乱になり泣きながら、震えながら、顔をひきつらせて、なおかつ少し笑いながら見ていた私の姿を。


 もう二度と、見ないと思っていたのに……!

 もう二度と見る事のない様に、███に記憶を封印してもらったっていうのに……!!



 …………と。





********

◆◇◆◇◆◇◆◇





「……きて、……きてよ!……きてくれよ!! 起きてくれって……!!」


「……し、ろ?」



 なぜか目に涙を浮かべていたサナは、ようやくその目を大きく開く。


「そうだ、俺だ、白だよ! お前がいつまでも起きないから、心配で心配で……!」




「っあ、ありがとう……って、ひ、ひざまく……っ!」


「あ、ああごめん、床は冷たいから」


 ……そう、普通は女の方がやるもんだから……逆膝枕、させていただきました。


 ……とは言っても、床はキンキンに()()()()()、膝枕してるこちらからしたら地獄以外の何ものでもないのだが。





「床が冷たい……?……え? 何で……村が……凍って……!」


「あー、やったのは……お前だ。色々と、泣きじゃくった後」



「っえ?! じ、じゃあ、生き残った人達は……私が……!」


 慌てふためき始めるが、そんなに悪い状況じゃない。


「いや、お前が凍らせたのは魔物と建物だけだ」




「よかったぁ……!」

「お前が生きてる事が……一番よかったよ」

 

「っ…やめてよ! 急にそんな事言うのっ!!」

 

「ごめんごめん、流石にからかい過ぎた。……結局、魔王軍の幹部はいないっぽいし、生き残った人とか人界軍とかもいるし、これからどうするべきかな……」


 気を抜きかけた瞬間。







 地を揺さぶる振動が鳴り響いた。


 以前のキングゴブリンのそれとは似て非なるものであり、明らかに何か「ヤバい」やつであり。


 脳の細胞の中から震え立ち、生存本能が刺激されるくらいに「ヤバい」やつであり、まるで強大な自然に対面したかの様な、荘厳で威厳のある威圧感。




 ……と。

 ピキ、と。パキ、と。ゴキ、と。

 何らかにヒビが入る音がする。明らかに何かが割れた音がする。どー考えてもヤバい音がする。


「ね、ねえ白、これって」

「ああ、多分そうだろうな……逃げるぞ」


 そのままサナを抱き抱える。


「ふえっ?!」


「ちょっと我慢してろ……!」




 氷の中から、何か異質で不気味な何かが這い上がってくる……!





 多分戦場に来なければ一生聞かなかったであろう衝撃音を聞いた直後。


 俺は、自分の体が岩盤と共に空に舞い上がっているのが分かった。

 下にいたのは黄色く巨大で、それでいて液体の様なもの。




 ……そう、世界で一番迫力のある()()()()だった。

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