Finale〜最高の結末へ〜
———漢の背中を見せつけ。
俺の前に立ちはだかるは、イデアだった。
「———兄……さん?!」
「……ふん」
突如現れたイデア。……だが、その懐にも、どこにも———刀は装備されていなかった。
どうやって戦う気……なんだよ。
「兄さんの刀は……兄さんが持ってた神威のレプリカはどこ行ったんだよ、兄さんはどうやって戦うっていうんだよ!」
次の瞬間、右から神威の柄に手が添えられる。
「……兄……さん……?」
「やるぞ、アレン」
「いやだから、急に何を……」
「いいから、一緒に戦ってやる、と言ってるんだ、さっさと貴様も刀を構えろ! 手遅れになっても知らんぞ……!」
「…………夢みたいだ」
もはやまともに動きやしない左腕で柄を持ち、兄さんの横に並ぶ。
「しかし何を、一体……何を血迷ったんだ、兄さん……?」
「今の貴様では、片手で刀は扱えないだろう?
ならば……一緒になら、どうなんだ?
本気で決めるぞ……白」
———ようやく、その名で呼んでくれたな……!
「………………ああ、俺たちで終わらせるぞ———イデア……ッ!」
『アア…………アアアアウウウウウウウウウウウアアアアアアアアアアアッ!!!!』
そびえ立つ深淵の呪い。
だが、その前に立ちはだかるのが。
……世界の、救世主だった。
「合わせるぞ、白!」
「いくぞ……」
2人同時に駆け出す。刀を構え、2人で目の前の敵を見据える。
やることは簡単。
眼前の敵を、両断するだけ。
「踏ん張れ、白!!」
「突き出すぞ! イデア、準備!!」
俺は右足を。兄さんは左足を、前に押し出し踏ん張る。
2人の間の刀を中心に、軸にして前に駆け出す。
互いに歪みあっていたそれらは、まるで2人で1人の人間のように、息ピッタリのコンビネーションを発揮していた。
……いいや、俺たちは2人で1人、だったのだ。
「白! 攻撃が来る、左にかわすぞ……!」
「次は右に行って軌道修正ってんだろ、了解!」
迫り来る無数の黒いシミ。
本来ならば、1人ならば、真っ先に激突して終わりだったろう。
……しかし今は1人じゃない。
共に戦う、一緒に戦ってくれる、兄さんがいるのだから……!
「2秒後、接触だ……! 力の入れ方とタイミングを合わせろよ!」
「イデアこそ、ここでしくじるのはやめてくれっ……よ!」
横並びで走る俺たち2人。
その間に構える神威を中心にして、見据えた形を貫く……!
「合わせろ、斬りあげるぞ!」
光り輝く神刀は、その呪いの渦の中でも輝きは色褪せず。
「「だああああああっ!!!!」」
『アアア……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
「白……!……もっと……本気……出せぇっ!!」
もう、何度諦めかけた事だろうか。
結局、兄さんとの一突きも、無駄に終わった。
ここまでやってもダメなら、もう何したって無駄だろう。
だから、俺はここで……諦め……
諦め……きれなかった。
まだ、まだ俺の望む幸せな人生は掴めていないだろう……?
せめて、せめて今まで斬った人の分も、幸せに生きる事が俺の贖罪だと、少なくとも俺の中だけではそう思い込んだはずだろう……?
……だから、負けられない。
誰かに「負けるな」と背中を押されている気持ちでもある。
それでも、それでも俺は、俺の望む幸せを、幸福を掴んでみせるはずだったろう……?
それが、俺の願いで。
ほとんど何も……取りこぼさずにここまで来たのだから、ここに来て全てを台無しにするわけには……いかないんだ……!!
「は……っ、ぐう……これでもダメだってのか……クソッタレ……!」
両者の刀を持つ手が震え始める。
それでも、未だ神核は抉れず。
「…………俺、は、諦め、るかもしれない……正直言って、勝てや……しないと思う。
…………イデア、は……諦める、か……?」
「諦める、だと……? 俺たちは……俺は、救世主の一族……セイバーだ……!
だから、こそ……その名にかけても……ここで負ける、わけには……諦めるわけ、には……いかんのだ……!!」
「———は、そう……こなくっちゃ……っ!」
もはや掠れた声で。兄さんは自身の信念を告げる。
それが、起爆材となった。
魂の導火線は今、たった今———点火する!!!!
「……そうだな……俺たちの帰りを待つ人たちの、そして誰もが笑える世界を作るためにも、俺たちはこんなところで挫けちゃいられない……んだ……!」
迷いは、もはやなかった。
既にそんな感情、大穴の深淵に捨て去ったはずじゃないか。
涙も、血も、身体も、心も、全てを刀に込める。
もう一度、2人で踏み出す。
神威の発する猛烈な光の中で。
2人の勇者は、これでもかと進み続ける。
生きることの叶わなかった、カミを踏みつけ。
傲岸にも、自らの未来を主張するために。不遜にも、自らの願いを叶えるために。
くだらない運命をも蹴り飛ばし。絶望などもぶった斬り。
絶対に負けないために、勇者らは戦う……!
「…………イデア…………勝つぞ、この戦い……!!」
「言われなくとも、そのつもりだ……!!」
さらに進む。
その肉塊に、さらに深くに刀を突き刺し、抉る。
「「俺たちが……!
救世主……だぁっ!!」」
『ギ……ッ……ア、アアアアアアアアアア!!』
「貴様の———敗因を教えてやろう……!
……それは……!」
「「生きる意志を持った、俺たちの前に立ちはだかった事ッ!
———ただ、それだけだあっ!!!!」」
2人によって斬り上げられたその斬撃は、空を裂き、暗雲をも裂き、空に見事な星模様を描き出す。
夜に瞬く光の虹。
夜の虹、なんてものは存在しえないものだが。
その幻想的で、神秘的で、絶対的で荘厳な光景は、まさにその幻想を顕現させたかのようなものであった。
辺りが白に包まれる。
右腕は……完全にやられた。
……何本骨折だ……治るかなんて分かりゃしない。
それでも、その積雪の中で。
その勇者は、ただ2人、立ち尽くしていた。
それは初めて俺が、「師匠」と出会った時とは違い。
全てを、守り通した後の、呆然。
力の入らない左腕を握りしめ、その拳を、星々と月明かりの照らす天に掲げ、叫ぶ。
「決着……ッ!!」
「俺たちの、勝ちだ……!」
白の虹が夜空を駆ける。
どこまでも綺麗で、どこまでも広がってゆくその壁は、もはや氷河そのものだった。
世界を覆う災厄の呪いは、たった今、世界を包む幸せの光へと変わってみせた。
「勝った、のか……! 救世主が……!」
「は…………うん、やった……わね、白……!」
『みんなが傷つかない優しい世界』だなんて、綺麗事が叶うような世界かは分からないけど。
『もしも願いが叶うなら』と、あの時願った世界には、なったはずだ……!
俺たちの守り通した、最高の世界はそこにある……!




