最終決戦 Ⅶ 〜救世主〜
……終わった———んだ。
よう…………やく。
『ア———』
……え?
おい、おい、待てよ。
終わった、終わったはずじゃなかったのかよ。おい。
……まだ………………まだ、あるってのかよ……!
「……サナ」
「もちろん…………分かってる、わよ……
っああもう、最悪……もう私、蟻ん子ぐらいの魔力しか……残ってない、ってのに……!」
———咆哮の響く虹の空。
今まさに大穴の底から、呪神は再度、その影を増長させ続けていた。
そうだ、ヤツの核は———あそこまでやっても砕けなかった。
……全く、空は虹色だってのにな……
ツイてねえよ……!
「は、あ……待って、白……
私も、一緒に……」
そう言いつつ立ち上がるサナの顔色は、もはや一眼見ただけでその疲れが分かるほどに悪いものだった。
……このまま、サナに無理させちゃ……ダメだ。
俺が、俺が行かないと。
「ダメだ、お前は……休んでろ、ここは俺1人で……やるんだよ……!
お前、さっき言ってただろ……何も食べないと死ぬかも、って……そんなヤツに無理させて、たまるかよ……!」
「じゃあ…………白1人で、行かせろ……って?」
その声は、会話を追うごとに痩せ細ってゆく。
「そう…………だ」
「でも……そんなの、そんなの———あっ、」
サナの体勢が崩れた。咄嗟に杖で自身の体を支えたのはいいものの、これでどちらの案が採用されるかが決まってしまった。
………………お前を、行かせるわけには———。
「っは、残念……だったな……
行かせてもらう……ぜ、俺1人で」
後ろに聞こえていた足音が、止まった。
もう…………アイツの助けも、何もない。
いったい俺は、何度助けてもらえば気が済むんだ。
そろそろ……そうだ、自分1人で終わらせるべきだろう。
もう、その手も取れないと言うのなら。
例え死ぬことになろうとも、俺は1人で…………行くべきなんだ。
「…………っ」
歩いた。また一つ、足を進めた。
勝てないと分かっているのに。無駄であると、何度自分に問い直してもそう返ってくるのに。
なのに、また一つ、進めた。
「っっ…………!」
刀を握った右腕が震える。何にも怯えていないはずだろう、俺の心は。
何に怯えている、何に震えている。
まさか今から訪れる、死に震えているのか?
この俺が、そんなものに?
…………一度、本気で死のうとしたくせに。
———空が、暗黒に分つ。
俺は救世主なんだ。俺は、勇者なんだ。
……臆せず敵に立ち向かい、弱きを助く理想の勇者。
そのように在れ、と世界に命じられ。
そのように在りたい、と一度でも思ってしまい。
そのように在るべきだ、とその考えを押し付けた。
だから、例えここで折れても。
それでも、俺は立ち上がらなければならないんだ。
例え救世主の呪縛が無かろうと、俺には護りたい仲間がいる。
例え他人に何を言われようと、それでも『護りたい』と思った、俺の仲間たちが。
「だから———っは、」
……でも、痩せ我慢はそうは続かない。
むしろここまで続いたことに、俺は感謝すべきだろう。
「は………………1人で、か……」
今までの自分の言葉。それがふと浮かび上がる。1人で、だなんて、そりゃ兄さんの言うことだ。
むしろ俺は、兄さんと一緒に戦いたかった。……そんなことが叶うなら、叶えたかった。
戦わないのが一番いいんだ。……でも、もし、その機会があったのなら……
俺は1人じゃなくて、兄さん———お前と、一緒に…………
『何を手こずってやがる、アレンっ!!』
まるで今の空のように。
暗雲に満たされようとしたその心は、今この時、真っ白に戻り。
同時に、その真っ白に染まった心は、また光を戻し、再び燃え上がった。




