最終決戦 Ⅵ 〜遍く奇跡のショウタイム〜
「は……あぁっ!」
身を焦がす激風が吹き荒れる。呪力と魔力の流れゆく中、俺の体も一緒になって流される。
その奔流の中、俺は未だそこに在る『ヤツ』の姿を垣間見た。
「ちく……しょおっ!」
もはや力のない手を握る。握り潰すように力を入れたつもりが、その右手は動くことはなかった。
届かなかった。その事実が、俺の胸を打ちひしぐ———、
『———ろ!』
落ちる。吸い込まれる風の音と、微かな魔力の香りが、俺の中のほとぼりを冷まし続ける。
『…………しろ……!』
呼び掛けられる声。その声に、反応するほどの気力も起きず———、
『し………………白…………!!』
伸ばされたその手に、俺は———、
『白ーーーーーっ!!!! 手を———握ってぇっ!』
———ああ、でも。
まだ、立てる……!
「……俺…………は……!」
すぐ後ろに、伸ばされたその手に。
俺を迎えに来た、その手と声に……俺はようやく、答えてみせた。
『…………迎えに———、
迎えに来たわよ、白っ!』
気付けば、俺は……俺たちは、互いの手を繋ぎながら、ゆっくりと落ちていた。
俺のことを……迎えに来てくれたのは……
「ようやく……できたのか…………サナ!」
「ええ、もちろん!
できたのよ———みんなで作り上げた、最高の、めっっっちゃキレイな最強の魔法!!」
「っはは、もう…………最っ高だぜっ!」
サナの服は、その全てが虹色に包まれていた。
そう、これより放つは虹の魔法。世界の、人間の全ての夢と希望を詰め込んだ、人為的な奇跡の再現。
宙に瞬く虹の魔法術陣、その全ての矛先が「カミ」へと向けられる。
サナは最後の準備、最後の詠唱を、既に終わらせていたのだ。
上空。暗黒と呪いの風吹き荒れる最中にて、光は未だ途切れず。
「俺も杖、持つのか?」
「……当たり前よ、言ってたでしょ! 爆裂魔法、使ってみたいって!」
白とサナ、2人で杖を持ち、ありったけの魔力を流し込む。もはや力の入らない右腕だったが、その杖に触れた瞬間、不思議と元気が溢れてきた。
「白、コレはみんなが分け与えてくれた希望の魔力……王都のみんなから、少しずつ分け与えられた最後の魔力よ……!」
十人十色、虹色に可視化された魔力が、俺たち2人を包み込む。
「そっか、みんなが俺たちの為に……!」
「……そう、なんたって私たちはワンダー・ショウタイム! 奇跡なんて、いくらでも起こしてあげるわよ!!」
その虹は、まるで奇跡のように。
「……何回も起きる奇跡なんて……奇跡とは呼べねーけどな!」
2人で、杖を振りかざす。
終わりだ、カミ様……!
「いくわよ白! 超ウルトラスーパーカッコいい奇跡の技!!!!」
超ウルトラスーパーカッコいい奇跡の技……って何だって話だけども。
「っふふ…………ああ、見せてやるぜ———俺たちの力!」
あの日。
人界軍に追われながらも出会った少女が、今は横にいて。
あの日。
人類に楯突く為に戦っていた俺たちは、今や人類を守る為に戦っていて。
あの日。
覚悟が決められずに、ただただ泣いているばかりだった俺は、決意を固めてここにいて。
あの日。
交わされた約束は、ついにここまで辿り着いたのだ。
「メテオーッ!」
「メ、メテオ~ッ!」
「「エクス……プロージョンッ!!!!」」
メテオ・エクスプロージョン。
かつてこの地に放たれた人類最強の混合魔法、攻撃手段は、
その暗黒の星に、希望をもたらした。
何もかもが、虹色に包まれてゆく。
その暗闇に満ちていた空も、今やその色すら取り込んだ極彩色に煌めいていた。
その最中、俺たちは宙を踊る。
互いに手を繋いだまま、この勝利を祝うように。
「やった……やった、やった、やった……わよ、白っ!」
「ああ———やったな、やっぱりすげえよ、サナ……!」
「す…………っ、すご……い……?」
サナの顔が赤く染まる。……今更だろ、自己肯定感は高いくせに。
「ああ……!」
「…………え、へへ、コック……みたいに、上手くはできないって……思ってたな……」
「……いいや、この奇跡は———お前にしか起こせないよ、きっと。
綺麗だろ、この空」
「あ…………うん」
虹色に満ち満ちた空。その全てが、俺たちの存在を祝福している。
「———ああ、綺麗だよな、この空も、お前も」
「ひゃうっ?!」
「この空を、俺たち2人で見ることができた。……それだけでも、俺にとっては忘れられない思い出だよ。
……っと」
地面に足がつく。……だが、その衝撃は弱いものだった。
……それと同時に、ドッと疲れが訪れる。
「っは…………っ、疲れた……な、サナ…………
もう、丸一日……動けそうにないや……」
ひどく赤面していたサナも、地面に付くと同時に、その疲れを自覚することになった。
「ええ…………もう、魔力も……神力も、ほとんど……残って…………ない。
あと数時間も栄養を摂らなかったら……死ぬんじゃないかしら、私……」
「はは、そうなってもらっちゃ困るな……」
2人で半笑いしながら、俺たちはその勝利を、心の中で祝い続けた。
……終わった、終わったんだ。ようやく。




