最終決戦 Ⅴ 〜人類〜
「…………」
ただ風に揺られ、落下を続ける。
……もちろん、こんなものでは終わらない。黒の犠牲を無駄にするわけにもいかない。
……でも、何をやってもできる気がしない。
勝てる気もしない。……とは言え、黒の犠牲は無駄にはできない。
「……っ、」
無言のまま、浮遊法を用いて着地と受け身を試みる。
だがしかし、ここで挫けている場合ではない。放置していればヤツはサナに接触する。
だが、サナの魔術の準備ができていなければ意味がない。
だからこそ、やはり俺は行くしかないんだ。
……そうだな、黒。言い得て妙だ、他の誰が許そうと、ここで終わるのは俺が許さない。許せるわけがない。
一度は俺の理想を話した仲でもあるし……もしかしたら、本当に俺と言う人間を理解できているのかもしれない。
「はあ……っう……っ、」
1歩、足を踏み出したその瞬間であった。
視界が———落ちる。
「あふぅ———」
零れ落ちる情けない声。出していたのは、あろうことか自分だった。
……倒れ、られないのに、俺はここで倒れて———、
……いや、倒れて……いない?
俺は誰に支えられて……
「……大丈夫か、白よ」
この声、まさか……
「人界…………王、?」
「今はユダレイでよい。
……無茶などしおって。こんな、たかが少年が……」
……なんで、お前がそんな顔をしているんだよ。
処刑……とか、あったよな。俺を一方的に罪人と決めつけたあの事件。……実際に日ノ國を滅ぼした人間は俺だったが。
「たかが……少年、を、処刑しようとした王は……どこのどいつだよ、本当……に……」
「……」
「どう、だ……?
今は、この俺……が、この世界の命運を……握ってる。
俺がお前に反抗すれば、その時点で……全て、終わりなんだぞ……?」
「……」
俺の投げかけに、人界王はひどく落ち着いた表情で、目を瞑り続けていた。
「そんなことは分かっている……とでも、言うつもり……か……?」
「……減らず口を。そうよ。それは我の罪、我の横着の招いた勘違いに過ぎない。
それを承知の上で、我は今一度、お主に———救世主に、願いたいのだ。
救ってくれ、世界を。
何もできなかった、非力な我に代わって。
いつも、いつも……こうして、臣下を地獄に送り出してきたとも。……だからこそ、今回であろうと……その罪は、我が背負うべきだ。
……救ってくれ。もう一度、我の為に———人類のために、立ち上がってほしい…………救世主よ…………!!」
その目に浮かんだ涙は。悔しさのこもったものでもありながら、謝罪のものであったことも、俺はこの時に分かってしまった。
……そうか、それがアンタか。
臣下の為に、誰かの為に、或いは人類という種の為に泣ける男、人界王。
そんな王が、ただの勘違いで、ただの少年を処刑しようとした?
…………違うだろ。何をどう考えても、やむを得ない理由があったんだ。
『横着の招いた勘違い』。その言葉、信じていいんだな。
———その決意、信じてもいいんだよな。
「なあ、王サマ。
……変えたいんだろ、この地獄を。
そりゃあ、よく考えればそうなんだ。俺を王都に置いておけば、いつまた人斬りを始めるか分からないからな———、」
「……」
「そりゃあそうだ、当たり前だ。
……でも、何も変えることはできなかった。だからお前は、俺を処刑することで、とりあえずの安寧を得ようとした。
だから横着。……結局、お前の願いは『変えたかった』ってことだけなんだ、この地獄を」
「…………っっ!」
「だったら……まずはコイツを倒して、全てを変えてやる。
そうだな………………救世主、ってのは、きっとそういうもんなんだな……
……行ってくる」
……だからこそ……変えたいなら、ならば勇気を出して言うんだ。その覚悟を、信念を……
そして願って、祈ってくれ、王サマ……!
もう一度背水の陣を使い、ヤツの胸元まで飛び上がる。
……その、最中であった。
********
30年前。
その日、我ら人類の世界は終わりを告げた。虐げられた人界軍を見るのはもう散々だったのだ。
……父の急死の為に、当時20代だった我は早くして『人界王』になり、
人類の抵抗の象徴として、人の前に立ち続けることを選んだあの日から。
結局、我は非力だった。
あのような、世界を守る為に戦うことなど、我にはできるはずもなかった。
だからこそ、臆病と言われようと、非力と言われようと、我は我のできることを、ただただそれだけを精一杯やり続けた。
いついかなる時でも切羽詰まった状況であったが、それでもできることを、ただただ続けた。
その結果が、コレだ。
停滞していた戦況は覆り始め、ついに人類は、魔王に勝利した。
それでも、我の中の時間は、未だに静止したままであり、結局我は、最後の最後まで勇気を出し、巨悪に立ち向かうことは叶わなかった。
…………だからこそ……!
********
結局、この人類は止まったままだった。
ジャンおじさんから聞いたんだ。30年前から、戦況は何1つ変っちゃいないと。
それでも、この2年間で全てが変わった。
ようやく俺は……俺たち人類は、魔王を打倒したのだから。
……だからこそ……今度こそ全てを変えたいなら、ならば勇気を出して言うんだ。その覚悟を、信念を……
そして願って、祈ってくれ、王サマ……!
「———白よーーーーーっ!!
救世主よーーーーーっ!
世界を、救ってくれええええええっ!!」
もう今にも枯れそうな、老人の最後の叫び。
そうか、王サマ、それがお前の覚悟なら……!
「……ああ!! 俺は、正義の味方でも何でもねえ!
……だけど俺は、それでも俺は、救世主だ!!」
神威は、今は使わない。故に、左腕に持っておく。
体重を移動し、足をヤツに向け、落ちゆく風を利用し右腕を思いっきし引く。
より一層強くなる風。
下へ下へ、落ちてゆくたびにその風力は増す、が。
「受けてみやがれ……! コイツが俺らの、力!!」
今ここにある、みんなの想いを込めて。
「背水の陣、極ノ項……力重解放!!」
魔力を受けた右腕が、その魔力を纏い巨大化してゆく。
『アアアアア……アア??』
身を焦がす衝撃。
既に引かれたその右腕は今にも千切れそうで。
「この一撃に……全てを賭けるっっっ!!」
だが絶対にここで決めると、確固たる決意を胸に。
噛み締めるように、されど勢いよく叫ぶ。
体重を移動させ、遠心力でその右腕を———ヤツに向けて叩きつける!!
「白雪我流……大雪山、ッ!」
絶対に負けない為に、絶対に勝つ為に。
そして望んだ未来を、この手に掴む為に…………!!
「氷晶牙ァァァァァッ!!」




