最終決戦 Ⅳ 〜対峙、呪神〜
『ゴオオオオオオオオオ…………!』
低い唸り声が、あろうことか反響している。
物音のようにも思えたが、やはりアレは声だ。
今現在、大穴を覆い尽くしている『暗黒』、この世界を襲う謎のソレは、どうやら呪いらしい。
……そう、呪い。人の負の感情によって増幅するエネルギーみたいなソレが、あの『暗黒』の原動力だという。
故に。
「……吹っ飛ばす。
私の魔法……コックたちから、人類のみんなから……とにかく色々な人たちから繋いだ、色々なものが詰まったこの魔法で、必ず」
故に、ソレと直接的に相対する役目を負ったのは、サナであった。
「白、
…………頼んだわよ」
サナがそう呟いた瞬間、俺の背後で彗星が舞い上がる。
その蒼き光は上空にて静止し、幾重にも折り重なった魔法陣を描き出す。
『アア……?』
———と。もちろん、ヤツも俺たちの方に気付いた。
一面に広がる暗黒———ソレが動き始め、その腕を伸ばし始めた瞬間であった。
「背水の陣———ふっ!」
すかさず飛び上がる。脚には魔力/魔術の跡。
背水の陣を以て強化された跳躍は、すかさず俺の身体をその『暗黒』まで連れて行ってくれた。
そして、その名を叫ぶ。
「来い———神威ぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!」
ヤツの伸ばした『腕』たる触手は目前。暗雲に眩む眼前を、過ぎ去った一筋の閃光は———。
『ア———アアアアアアアアアア!!!!』
その暗黒を裂きながら、俺の手へと還ってきた。
「……やるか……
概念封印、解除っ!」
神威がその輝きを増す。この暗雲を照らす太陽の如く、燃え盛る輝きが俺の手に在る。
『アイイ……?』
———ああ。やってやる。
例えサナの手で決められなくたって、この手で決めるぐらいの勢いで。
そうでなければ勝てはしないし、或いは土俵に立つことすらできはしない。
つまるところ、例え目的が時間稼ぎであろうとも、俺の目指す標的はヤツの核。
魔力の流れを見れば、ソレがこのヤツの巨大な身体のどこに位置しているかなど、流石の俺でも手に取るように分かる。
「……来るかっ!」
再度、やはり迫り来るヤツの『腕』。しかし、伸ばされたものだと言うのなら、その根源はやはりヤツの『核』だ。
そこを狙う。腕と胴の接合部。そこに神威をブチ込めば、俺の勝ちだ。
———右下から来たる腕。……ヤツの体に触れれば、それこそどうなるか分からない。取り込まれてしまうやもしれない。
ただ、そんなことは関係ない。取り込まれると言うのなら、それを気にせず走ればいいだけ。
「ふんああっ!」
そして、その伸び切った『腕』に着地してみせた。水溜まりの中に飛び込んだかのような、言いようのない不快感が足を伝う。
———走れ!
「うぉらあああああっしゃあああああっ!!」
風を切れ。モノを斬れ。俺を邪魔する全てを斬り捨てろ。
ヤツの感覚が、足の神経を侵食していく。構わない、ソレが進む前に行け、動け、この体。
勝利はすぐそこだ、がむしゃらにでもいい、ただ走って、走り続ければ———、
「……っう!」
『腕』の上から、さらに何本にも分裂して生えた新たな『腕』。ソレらは全て、最大の脅威たるこの俺を飲み込まんと襲来する。
……やはり斬るしかあるまい。
しかし足は止めない。斬り続けながら、それでも動き続けろ。
「背水の陣……極ノ———」
言いかけた瞬間、またもやノイズが脳を侵し……
「……項…………っううあ゛ぁ゛っ……」
そして、頭蓋が割れる痛みが走った。
それでもなお、意識は常に前を見続けていた。もはや止まらない。止まれるわけがない。後戻りなどできないのだから。
「ああっ! ああっ!! 死ねぇええっ!!」
1秒に3本。
いや、それ以上かもしれないし、それ以下なのかもしれない。
とにかく大量だ。ヤツの攻勢は止まることを知らない。
「……ぎぎっ……っっ!!」
薄れかける意識と、薄氷の如き身体。何もかもが崩壊に向かう中、それでも俺は走り続ける。
頼む、サナ。今だけは、絶対に助けなんていらない。
「ぐっ……っっ、それでも…………っっ!!
たかが腕の1本や3本、斬り落とせなくて———何が救世主だってんだあっ!」
ヤツに肉薄しゆく中、ついにその腕の一部が体に擦れる。今の俺にとっては、それだけでも致命的だ。
ダメだ、倒れられない。体が途切れたとしても、意識だけでも走り続ける。そのぐらいの気概で行けば———、
「っあ———」
———いいって、そう思っていた。
ただ、やっぱり……俺には、限界が………………
『そんなところで諦められる、お前じゃないだろうっ!!!!』
流星の如く、空から一瞬にして降り注いだ声と斬撃。
気が付けば俺は、その触手まみれの『腕』より突き落とされていた。
———誰に?
『白! 自分を信じろ、まだ倒れることなど、お前自身が許さないはずだ!
俺はお前の師匠にはなれない……だが、できることはやったはずだ!
進め———白!』
この、声は…………っ!
「……っ、黒———!」
呼びかけた時。
その声が返って来ないと分かったのは、すぐだった。




