最終決戦 Ⅲ 〜送別〜
「……そう、こなくっちゃ」
俺を見つめるサナの顔は、どこか安堵に包まれたように穏やかだった。さっきまで、あれほど言い争いをしていたとは思えないほどに。
「とりあえず……どうすればいい。まさか歩いてあっちまで行くわけじゃないだろ?」
「そりゃあもちろん!……何のための魔法だと思ってるのよ、何のための———私だと思ってるのよ!」
信頼の眼差し。そう言い切れるほどに、サナの目は澄んでいた。
———と。
「アレ…………おい、サナ、そこに……いるのって……」
サナの影に隠れていてずっと見えなかったが、そこに……男がいる。
「………………言っておらんかったな、白……とやらよ」
その顔は……そうだ、実はあまり見たくなかった顔だった。
「人界……王…………?」
そうだ。人界王、ユダレイ・……なんとか。
何でここにいるんだ、と言わんばかりの顔になっているだろう、今の俺は。
「あーーーーもう、状況を説明するのが面倒くさいっ!
とりあえず……もう行くわよ!」
「は? 行く? いやいや待て待て、何で人界王なんかがここにいるんだって———」
———そんな顔に見惚れていて2秒。俺たちの周りを、眩い光が覆い始める。
……そうか、コレは……転移魔術?
「……行くのよ。世界を救いにね」
◇◇◇◇◇◇◇◇
突如俺たちの周りを囲んだ眩い光。それらが霧散してゆく中、俺たちはついに『ソレ』の目の前に来たんだなと気がついた。
「お、おお…………っ」
ここはどこか? と聞かれたら、大穴の島だってことはすぐに答えられる。
……だが、その大穴はどこだ?
「……さて、作戦会議、しましょっか」
「今?! ここに来てようやく作戦会議なのかよ?!
……つか、コレどうなってんだ……なんかもう、本当に何も見えねえ……っ」
本当に『暗黒』に塗れていた。月のない夜、と言うのはこんな感じなのかと思うほどに、あまりの暗さに絶句してしまうほどでもあった。
……だが、その暗黒の中でも、一際異彩を放つ暗黒が一つ。
それが———今俺たちの正面にそびえている、巨大なナニかの『影』であった。
「で、作戦説明ってのがね……まず、白がポイントaで待機して……
ああ、ポイントaって……どうしよう、どう伝えるべきかな……」
サナの表情に焦りの色が見え始める。……オイ、まさかできないって言うんじゃないだろうな。
「本当はこのポイントaから何回か動いてほしいんだけどそもそもそのポイントaがどこか分かんなくて〜〜っっ」
……今度は自分で自分の髪を乱し始めた。どんだけイライラしてるんだよ。
「ああ〜もうっ! 作戦なんて知らないっ!
白、とりあえずあなたは戦って!!」
「ええ〜〜……」
ここに来て、なんかあそこまで意味深なこと言っといて作戦計画ガン無視かよ……
「…………ま……いいか……
その方が俺だって……やりやすいかもしれない」
サナはあくまで戦ってと口にした。……だったら、決められた場所にいるなんてごめんだ。縦横無尽に戦場を駆け巡って、思うままに刀を振るう。それが俺だ。
「もう簡単に説明するから、色々とよ〜く聞いてて! ハイそこに正座!」
「は、はい……?」
何で正座させられたのか分からない。説教じゃないだろ、コレって?
……しかも地べたなので、石が食い込んで痛いんだが。
「とりあえず白にやってほしいのは、ヤツ———あの『呪い』の気を引いてほしい、ただそれだけ。
今から、私はとある魔法術式の展開準備に入る。……その間は、まあ色々と隙だらけだから、そこを白にカバーしてほしかったわけ。
……ガラにもなく作戦とか立てるんじゃなかったわね、軍隊行動じゃあるまいし」
なるほど、それは例の2年間、魔導大隊として戦ってきた時のクセか、と納得できた。
とりあえず俺は、ただ戦えばいいと。……あまりにも巨大なヤツに対してどう戦うか……なんてのは、後手後手で行こうと十分に考えられる話だ。
結局、また俺は頑張るだけ、か……
「……ああ。やってやる。
結局、いつも通りやるだけだ。楽勝さ。今の俺は、魔王にだって打ち勝ってみせたんだから」
こちらを見つめる、サナの顔が変わる。
期待———それと共に、「いかないで」と今にも言わんばかりの、複雑さを孕んだ表情に。
「白———、」
「…………大丈夫だ。
絶対に、戻ってくるさ」
きっぱりと。その顔を正面から見つめて、言い切ってみせた。
その瞬間、サナはそっと微笑み、
「じゃあ、………………うん。
…………責任、とってよね」
「ああ、分かった。
……約束するさ」




