最終決戦 Ⅱ 〜再起、白〜
———立てなかった。
———見えなかった。
———聞こえなかった。
———分からなかった。
何が分からなかったのか。
それは、まだ立ち上がれるのか、と言うことだ。
サナの元に帰る。それは分かる。俺の理由だ。
みんなを、大切な人を護る。俺の理由だ。
……でも、その理由に、理想に、身体が追いつけそうになかった。
俺は———そうだ、大切な人を護りたかった。でも、なんかそれじゃ違う気がする。
少なくとも、その想いだけでここまで来てるわけじゃない。その想いだけで、俺はあの暗黒に足を進めていたわけじゃない。
何だったっけ。ああ、それか?
———救世主の、使命…………ってヤツ。
俺の体には、俺を突き動かす呪いみたいなものがいくつかある。
まず、食人衝動。人を、その肉を喰らい尽くしたいと思う最悪の衝動。及び、ソレに対する飢え。これは一応、今のところは解決した。……気がする。
その次に、救世主として刻まれた『セイバー』の姓。この家に生まれて、そして『ザ・オールマイティ』を継いだ時から、俺は救世主として生きることを義務付けられていた。
義務、と言うより、その生き方に矯正されてはいたのだ。何にだろうか。『世界』にだろうか。とにかく何でもだ。
……それでも、罪は犯した。
故に、今代の救世主は、その存在そのものが矛盾している者となってしまった。
救世主。人を、もしくは世界そのものを救う存在として、ある神技の担い手となりし存在。
なのに、実際にやったことは殺戮。その罪を、俺は一生背負って生きていかねばならない。
その矛盾。俺を板挟みにする、もう一つの『理由』。
アレに足を進めた理由は、それぐらいしかなかった。
まだ、罪は清算できていない。たかが魔王を倒したぐらいで、そんなものがチャラになるなんて俺は思っちゃいない。
でも———その為に戦うのか?
確かに罪を清算する為に、贖罪の為にも戦ってきた。
でも、何か忘れている気がする。
『例え他の誰かが何と言おうと、白には白なりの幸せが———』
———なんだ、またこの声か。
人斬りとして。何もない空虚な俺の前に現れた、唯一のノイズにして。
『他の誰かが掴み取れなかった幸せを、あなたが代わりに掴み取ってあげなきゃいけないって———』
それでいて……ああ。
まるで女神、天使のような、その姿は、まさに俺にとって………………
希望、だったんだ。
『死んだら、全て終わりってわけ?!
ねえっ、ねえちょっと?! 何寝てるの、何ボケっとしてんの!
こんなところで倒れていいはず……ないでしょ! あなたが、あなたもやらなきゃいけないのよ、白!』
———は。
やっぱり、今回だってそうだ。俺はいつも、コイツに引き戻されてばかり。
『起きて……起きてってば……起きなさいよ、白っ!!!!』
「———」
薄れかけた視界の奥には、その綺麗な姿が映り込んでいた。
「………………やっぱり。寝たふりだと思った」
「そんなんじゃないさ……本当に寝てたんだよ、見えてんのか、この傷?」
「見えてるわよ。私の目は節穴なんかじゃないわ。
……でも、そんなものであなたは倒れない。倒れられないし、倒れようとしてもきっと無理。……だから寝たふり」
「はぁ…………勝手に言ってくれるよ、色々と…………っ、」
立ち上がれる。今なら、何をされようと立ち上がれる気がする。
———だって、サナが隣にいてくれているのだから。
「さ…………て、白も拾った、あとは……行くのみか……」
「拾ったとか、失礼な言い方だな……」
「ここでボケっと寝てたおバカさんは誰でしたっけ〜?」
「寝てねえ、ちょっと気絶してただけだっつうの……」
「あっそう。
……で?……頑張れそう?」
頑張れそう、か。
頑張るしか、ないじゃないか。
「ああ。
———終わらせよう」




