最終決戦 Ⅰ 〜再現、終末戦争
*◇*◇*◇*◇
「は……っ、はあ、くっそ……こっから、向こう……まで……か……っ、」
何かが起こっている。そんなことはとうの昔に分かりきっていたことだった。
暗黒に染まりきる東の空。何が起こっているのか調べるために足を進めようとしたはいいものの、正直言ってこのままじゃ絶対にあっちには辿り着かない。……それどころか、王都にすら。
浮遊法も使えない。魔力なんて微塵も残っちゃいないからだ。
「はあ、ふ……っ、ふう、は…………っ、」
もはや喋る気力すら消え去ってしまった。今はただ、喘ぐように声が漏れ出てくるのみ。
意識すらも朧げになる。頭の奥底から霧のようなものが溢れ出てきて、それが俺の全てを飲み込んでしまう。
———何もせずとも分かる。限界だ。
「は———」
ぐらっ、と、視界が反転する。……いいや、その後持ち上がった。
きっと無意識に立ち上がったんだ。まだそんな余力が残っていたなんて。そりゃあまりにも、魔王に失礼ってもんだけど。
……でも、なんか無理そうだ。
とりあえず、あの暗黒に……どころか、みんなが待っている王都にすら行けそうにない。
ここで———、
「っあ」
真っ白に、染まった。
*◇*◇*◇*◇
その頃、王都は騒然としていた。
前代未聞の暗黒に、全ての人間が混乱していた。
……しかし、その最中でも、彼女らは希望を捨ててはいなかった。
「少しだけ、少しだけでいいので、魔力を分けてください……!」
サナとコックには秘策があった。
それは、人類全ての魔力を込めた超大規模魔法。
コックには、例の大戦の、終末と謳われた世界の終わりを見届けた記憶があった。
……もっとも、記憶は既にほとんど残されておらず、ほとんど感覚に近い感じだったが。
それは、それまで負け犬とされてきた人間が、大戦の最後に放った最強の魔法。
かの島を、かの軍神を抉り取ってみせた、最後の悪あがき。
その魔法の名前は『流星爆裂魔法』。
……『エクスプロージョン』こそが人類の最強の攻撃手段と呼ばれる所以にもなっているこの魔法だが。
その時は、奇跡が起きた。
誰も倒せぬまま、終わりを迎えると思われていた軍神『アレス』を、その男は打ち倒してみせた。
その男は今の|白にどこか似ていて、そして同じ『神技』を所有していた。……要するに、その後白に受け継がれた神技、と言うわけだ。
———受け継がれる神技。それこそ、白の持つ『オールマイティ』意外にあり得ないと、コックたちは踏んだのだ。
彼らの一族の名は『セイバー』。救世主の一族、だったのだから。
だからこその、あの神話の再現。
あちらが呪いの「カミ」だと言うのなら。
こちらは人間の「神話」———終末戦争の再現をぶつけるのみ、と。
その為には膨大な、膨大すぎる魔力と、人類の中に刻まれる大戦時の「神話」の概念をかき集めなければならない。
だからこそ、これは奇跡だ。
全世界を巻き込んだ最終決戦。
「敵」は、かの軍神の骸、そして白と、その男の共通する「神技」。
ここまで条件が揃っているのなら、十分だ。
あの時の、戦争終結の景色を、そっくりそのまま再現できるはずだ、ここまで共通している条件が揃っているのなら。
サナは杖を虚空へと掲げる。魔力は杖に収束し、一時の太陽が生まれた。
「……コック、みんなから集めてきたわよ……最後の魔力……これから、どうすればいいワケ?」
「では、転移しますのでお捕まりください」
「…………待ってくれ」
今まさにコックが、転移魔術を展開し始めたその時であった。
聞こえてきたその声は、間違いなく。
「我も……連れてゆけ……我も一目見なくては。世界を守る為に戦う、勇者の姿を……!」
あろうことか。
戦場に1番出るべきではない存在の人界王、ユダレイ・タッカーダル四世であった。
「……承知しました、人界王。……ですが、決して無理はなさらずに、お願いします」
「期待しておるぞ、最強の魔法使いよ」
その後、半壊した魔王城にて、世界最高峰の魔術師は高らかに叫ぶ。
魔王城。
魔力によって形作られた、|究極の概念武装《ガイア・コンソール亜種》が配置されていた城である。
……がゆえに、それを維持する為の魔力は未だ城に残されたままであった。
そして、唱える。
「魔力回路……接続……城内残存魔力集結、補充完了……転移魔術準備……! みんなから分け与えられたこの想い、無駄にする訳には……いかないでしょ……!」
「私以外の転移準備は完了です。
サナ様、あと……人界王、様。……勝ってくださいね、絶対に……!」
「……ええ、ここまで、手助けありがとう、コック。
…………行って……きます」
「行ってらっしゃいませ、そして掴んでください、最高の勝利を……!」
そう告げたコックの、最後に見た表情は、よく澄んだ青空のように清々しい笑顔だった。
********
マスターは以前、おっしゃいました。
「もう誰も傷つかない、優しい世界」を作る、と。
……いえ、正確には口には出していないのですが。
……それでも、他の誰もが馬鹿にしようと、他の誰もがコケにしようと、私だけは信じています。
マスターなら、必ずその願いを叶え、笑顔で帰ってくる、と。
……もう、私の約束はそれでいいのです。
マスター、あなたが帰ってきて、そしてあなたが笑顔になるだけで、私も自然と笑顔になるでしょうから。
「……だからこそ、この戦いは……絶対に勝ってください……ね……!」
*◇*◇*◇*◇
半壊の城にて、少女のように天使は啜り泣く。
———未だかつてない、最大の戦いの無事を祈って。




