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再開/死闘

 パーティ編成を終え、俺たちはとある依頼を受けた。


 依頼は森の中にある素材「ゼンマイタケ」を50個ほど集めて持って帰る事。王都ではよくポーションの基本素材として用いられるそうだ。


 例の依頼の森へと足を進める。王都より南東に約3キロ。移動に関しては専用の馬車が出ていたのでそれを使うことにした。




 依頼の森———特に名前はついてない、中木が生い茂るただの森林地帯。

 ……がしかし、どこか湿っている。


 少しばかりひんやりした外気と、ジメジメとした空気に触れた時———不意に気持ち悪いなと思ってしまった。


 ……が、確かにここならゼンマイタケ———菌糸類だって生えそうだな、なんてことを思いつつも、俺たちは暗い森の先へと進んだ。



「さて、サナと俺で分かれて25個ずつ採ればいいから……はいこれ」


 さっき王都で買ってきたパンを半分渡す。


「パン……なの?」


「そうだ、これを少しずつちぎって置いていけば目印になる。25個集めたら自分が落としたパン屑を辿ってここまで戻ってきてくれ」


「なるほどね~……それじゃあまた後で!」


「魔物も徘徊してるから、死ぬんじゃないぞ~。最悪の場合、森を吹き飛ばしてでも生き延びろよ~」




 ……まぁ、本当にそれが出来かねないところが1番怖いんだけど。





 あんまり生えていないとは聞いたが、実のところ意外とそこらへんに生えており、案外ゼンマイタケ採取は早くに終わった。


 特筆すべきものも特になし、強いて言えばその辺をうろついていたスライムを2回くらい踏んづけた程度。……特に戦闘にもならなかった。


 ゼンマイタケ25個を依頼主からもらったカゴに入れ、元来た道をパン屑を拾いながら戻って行く。

 ここまでは普通だった。





 



 俺の落としたパン屑を、1個1個、丁寧に食べていく男を見るまでは。


「何、してんだ??」


 何してるかなんて分かりきっているのに聞いてしまった。その問いを聞いた途端、男はこちらの顔をジーッと凝視し、


「その()()……その刀……まさか、アレンか?」





 ()()()。そう、もう2度と聞くはずのない名前をまさかこんな場所で聞く事になるなんて。



 よく見ると、男の懐には1つの刀。

 ……つまり()()()に関係している事は確か。

 そしてこの名前を知っているという事は……




 ……そうか、日ノ國聖域、()()()()()()()()殿()()出身か!!


「なあ、お前、アレンだろ?……アレン・セイバー。ヘファイストス神殿国第7代王位継承者、アレン・セイバー」


 やはりそうだ、この男は俺の名前、出身地を完全に理解していた。


「……当たりだな。で、お前は誰だ?」






「この俺様を忘れたとは言わせんぞ、()()()よ」







「我が弟……そうか、お前は……!」


 ……ここまでくると、当てはまる人物はただ1人。





 第6代王位継承者、イデア・セイバー。

 俺の……本当の兄だ。


「そうか、第6代王位継承者、イデア・セイバー。


 ヘファイストス神殿国に現れた機神オーディンを神剣、『神威』を用い単騎で討伐してみせた、神殺し、神墜としのイデア」


「そうだ」


「そして、その地位と神を殺した名声を使い、数々の女を墜とし手駒に加えてきた、女に目がない女たらし、女墜としのイデア」


「そうだ。……そうだが、頼むからその名で呼ぶのはやめろ」


「だったらそっちもアレンで呼ぶのは止めろ。今の俺は『白』だ」


「無理だな。アレンと呼ばせてもらう」


 ———いや、普通そこは止めるべきだろ。こっちは止めてやるって言ったんだぞ??


「ところで、()()()


「何だ」



「…………一体何の用だ?……わざわざ俺の正体を暴いたりして」

「何の用だ、だと?…………決まっているだろう」


 そっか、さっきからずっとダダ漏れな殺気はそういう事か。


「なるほど、つまり兄さんは俺と決着をつけたい、と」


「当たり前だ」


「……本気で言っているのか?」


「何度言わせたら分かるんだ」


「止めておけ、と言ってんだ。当時5歳の俺に、剣術で叩きのめされた当時13歳の少年はどこのどいつだか忘れたか?」


「あの頃とは違う。貴様が国を出ていった後から、俺様はさらに鍛錬を積んでいるからな」


「確かに兄さんは努力の天才だ。人一倍負けず嫌いで、自分が頑張って上手く行った事には全て誇りを持っていた。だが、兄さんはどんなに剣術で努力しようと俺には勝てない」


「言っただろう、あの頃とは違うと! その減らず口を今すぐ叩きのめしてやる!」


 両者共に足に力を入れ、刀を抜き、そのまま相手に飛びかかる。

 一瞬残る互いの残像。そして———、


 鋭く重く響く互いの剣音。

 激しくぶつかり合う互いの意思。

 何度も、何度もぶつかり合う。

 どちらかが折れるまで、何度も。


「どうした? 貴様は木刀か? そんなものではこの俺様の神剣には勝てないぞ!」


「誰もこいつが木刀じゃないとは言っていないがな」


「何?」


「少し待ってろ。そうすれば分かる。



 ……概念封印、解除っ!」


 茶色の鞘が割れ、姿を現すは銀の刀剣。




「そうか、何らかの概念法術付与武装か。だが我が神威には勝てん」


「兄さんは少し勘違いをしている。その神剣は贋作だ」

「何だと……?」


「国を出る前、俺が盗んだ。そしてそのままレプリカの神剣と入れ替えた。


 つまりこいつが、この俺の持つ刀が神殺しの刀。一閃にして五十三撃もの斬撃を示す残刀」


「……この剣は、贋作か」


「その通りだ。なんだ?……贋作と言われて凹んでるのか?」


「いいや、がぜんやる気が湧いてきた。神剣なぞ使わずとも、貴様に勝つ事で我が剣術は完成する……!」


 けたたましい声を上げ、こちらに向かってくる人影。


 あまりにも速すぎて、普通の人間であれば振り下ろされた事にも気付けないほどの斬撃。


 しかし、それを受け止める。

 そうだ、兄さんの剣を受け止められるのはこの俺だけだ。だからこそこちらも負けてはいられない。


 受け止めた剣を受け流し、受け流し、受け流……せない。


 どんなに力を込めても、完全に体制は固定されたまま。

 兄さんはここまで強くなっていたのか……!


 ———と。

 瞬間。俺の腹部で、ドスッと重い音がした。

 もがく事しか出来ずに、地面に倒れ込む。


 抑え切れずに吐血する。

 ……ダメだ。完全に俺の負けだ。

 殺される。こんな、魔王などとは関係のないところで。


 守るべき人ができておいて、その人よりも先に。……死んでしまう。守るべき人ができておいて、それだけは……絶対に……!





 あれ……なぜだろう、とてもヒンヤリするのだが。

「何してんの! 白!」


「守るべき人」の声がする。


「何だこの氷は……! 誰だ、俺たちの勝負に水を差す奴は!」




 夜空に浮かび、白く輝く月の様な魔法使いが、そこにいた。

 助けてくれたのは、その「守るべき人」だった。



「貴様か……? 俺たちの勝負に……水を差したのは……!」



 俺が感謝の言葉を伝えるよりも先に、兄さんが口を開く。

「な……なんて……」



 まずい、本気で兄さんを怒らせてしまった。早く逃げてく……


「……なんて、綺麗なお方なんだ……!」



「……へ?」

「……へ?」

 

 俺たち2人はとても困惑した。

 勝負に水を差した者に対して怒るどころか、むしろ惚れてしまった兄が、そこにいた。


「自分の身を顧みず、自分の仲間を助けに行くその姿勢、素晴らしい! そしてその美貌! まさに美のエクスプロージョンかの如く!!……俺様の妻に相応しいお方だ!!」



「え、何を言ってるの……?」


 それには同意見だ。兄さんは一体何を言っているんだ。


 ……つーか今『妻』だとか言わなかったか?!





「サナ……紹介する。こいつは俺の兄、イデア・セイバーだ。


 ……で、俺は今この兄に殺されかけていたところだ……と言うより、とりあえずありがとう……お前のおかげで助かった」


 ……とても自己紹介できるような雰囲気ではなかったが。

 なんでこっちは吐血してんのに兄の紹介なんかしなきゃなんないんだ。




「何を言うかアレン! まるで俺様が悪い様に言いやが…………あ、拙者の名はイデア・セイバーと申します。以後お見知り置きを。して、貴殿の名前はなんと申す?」


「……なんか色々かしこまっておかしくなってるぞ兄さん。ついでに口調も最初と途中と最後でコロコロ変わっているぞ兄さんっ!!」





「サナ・グレイフォーバスです、よ、よろしくお願いします」




「よい名前ですな……」


 それをとりあえず言っとけばいいって思ってんだろ。


「あ、えともしかして、白さん……と……サナさんってもしかして恋人などという関係でございましょうか?」


 もしかして2回言ったし白って普通に呼んだし口調おかしいしツッコミ所多すぎるぞ……!


「兄さん、口調とか一人称は普通のままでいいから、頼むから普通に話して、見苦しい」





「見苦しい……だと……! 王家の血を継ぐこの俺様が……! 見苦しい……見苦しい見苦しい見苦しい……」


 どうやら相当ショックだったらしい。むしろショックを受けてもらわなければ困るのだが……!





「えっと……イデアさん」


「はいっ!」


「声裏返ったし名前呼ばれて相当嬉しいんだろうな……」




「とりあえず私たち任務中なので、退いてもらってもいいですかね?」


 サナの万年の笑み。




「ああ、分かった。サナさんのご命令とあらば」


 元の口調は元の口調で変な感じするな……


「…………とりあえず兄さん、王都まで着いてきてくれ、こんな空気じゃ戦う気にもなれない」


「ああそうだなアレン。……もう興が削がれた。勝負はお預けとしておこう。だが次の勝負も、もちろん俺様が勝たせてもらうからな」





「ああ、俺だって次は負けない」




「何でもいいから、さっさと王都に戻るわよ。あー、白が死ななくてよかった~」


 怠そうにしてるけど、俺が助かったのはサナのおかげだしな……今回ばかりは……というか毎回コイツに感謝してるよ。


「サナ、さっきはありがとうな。お前のお陰で、助けられた」




「べ……別にいいわよ、パーティメンバーなんだし……」








 グゥ~ッ……と。

 会話が途切れ、無言だった空間に、誰かの腹の虫の疼きが響き渡る。


「……俺……じゃないぞ」

「私でも無いわよ……違うわよ?!」


「……つまり……兄さん?」

「……すまんアレン、お腹が空いた」


 なるほど、だからさっき兄さんは土に落ちたパン屑を食べていってたのか。


「分かったよ兄さん。王都に着いたらなんか食わせてやるから、少し我慢しててくれ」






◆◇◆◇◆◇◆◇



 ……その後は、依頼主にゼンマイタケを渡し、報酬をもらい、そのままレストランへ足を進めた次第だ。




 歩いてる時は後ろからずっと「お腹が空いた……」だなんてうめき声が聞こえてきたりしてうるさかったが、そんな声もすぐ止むことになる。


 レストランで3人で食事をしている途中、ずっと聞きたかったことを質問してみる。


「兄さん」

「どうひら? アレン?」


 口に物を入れながら喋らないでくれないか……




「兄さんって食べる物がないなら、もしかして住む所すらないのか?」


「ああ、2日程前に魔王軍と人界軍との最前線に位置する村の1つから逃げてきたんだ」


「逃げる必要なんてあったのか? 兄さんはかなり強い筈だし、魔王軍なんて殲滅できるんじゃ……」


「いいや、あの黒い鎧を身に纏った女騎士、ヤツは強敵だ。悔しいが、この俺よりも、おそらく貴様よりも強いだろう」


「そうなのか……って、つまるところ今の兄さんには住む場所がない、と」


「そう……なるな」




「なら私たちの宿に泊まっていかない?」


 余計なことを口走ったのはサナ。



 こういうのはテキトーにあしらっとけばいいのに……あーあ、寝るスペースがまた減ってしまう。


「いいのか?! サナさんと同じ屋根の下で同棲……もしかしたら、この俺様にもワンチャンスあるのでは……!」


「俺がいる事忘れるなよ」



◇◇◇◇◇◇◇◇


 ……んで、いざ宿に行くと、


「……なあ、俺様が思い描いていたのと違う気がするのだが……?」




 兄さんと俺は、またまた仲良く床で寝ることになってしまった。


「仕方ないだろ。この宿は1人用なんだ、資金に余裕ができるまではこの生活が続くから覚悟しとけよ兄さん、それと覚えとくべきなのが『男は床で寝るもんだ』って認識だ」

 



 郷に入れば郷に従え。ってヤツだ。


 慣れない床で寝るのも2日目。今度は、すぐお隣に兄が来てしまった。どうしてこうもコロコロコロコロ目まぐるしく状況が変わってくるんだ。


 ……あーあ、もう落ち着いて寝れないんかな……

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