表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしも願いが叶うなら〜No pain, no life〜  作者: 月影弧夜見
第10章:激震! 勇魔最終戦争!
78/88

Side-オリュンポス/白: 決着

********


 突如発生した異常事態。コックが『終わってない』と口にしたからには、やはり何らかの異常が巻き起こっていたのだ。



 一方その頃、東大陸西部にて。

 そこに世界唯一の『天空都市』として、その大地が乖離している土地があった。


 その名をオリュンポス。

 神々が住まうとされる天空都市、オリュンポスである。



 ———しかし、そこにいる神々すらも、この現状に驚愕の色を隠せてはいなかった。



 薄暗い部屋の中央。

 水らしき透明な液体で満たされたカプセルの中にある、小さな小さな肉片。これこそが、今の主神でもある『機神ゼウス』の器であった。


『魔王は……アベル・セイバーは、死したのではないのか。


 ……貴様には、分かるはずであろう———カイン?』


 そのゼウスは、カプセルの前に立ち尽くした、白銀の髪の男に質問を投げかけた。


「そうです。魔王———いえ、我が弟は確かに死にました。

 ……まあ、それだけでは———()()()()()()には、説明がつきませんよね……?」


『……』



 魔王———もとい、アベル・セイバーの敗北と共に発生した異常事態、その根源は、この世界の中心たる『大穴』より渦巻いていた。


 一見、魔王の手によるものと思われるこの状況。しかして、この異常を引き起こした元凶は、オリュンポス側に属していた。



 ———そう。



『まさか……貴様が起こしたか、この事態は』


「そう! そうですとも、これは我らが宿願成就に至れるためのもうひとつの道……そう。


 プロジェクト・エターナル……その、プランB…………ですよ」





 一方その頃、白はどうしていたのかというと。



*◇*◇*◇*◇


「はあ……っ、はあっ、はあっ……っぐ、まだ…………折れない、のか……っ!」


 終わってなどいない。

 ()は、魔王の最大の攻撃を退けた。それだけに留まらず、ヤツに致命傷を喰らわせることに成功した。


 ……だが、致命傷を負ったのはこっちも同じこと。


 互いに全てを失い、互いに落下して、そして今がある。


『やる…………か…………っ、救世主…………っ!!』


 ヤツも立ち上がる。何も譲れないものなどないと言うのに、ヤツはそれでも立ち上がる。


 ———負けない。負けられない。負けてたまるか。


「上等……っ!」


 もはや、互いに武器などなかった。

 アレほどまでに折れないと思っていた刀は、いつの間にかどこかに吹き飛んでおり。


 アレほどまでに脅威と感じていたヤツの聖槍は、気付けばその腕より無くなっていた。


 ———神威を呼び戻せば、もちろんこの俺が優位に立つ。


『とことん………………()り合おう……!


 貴公の……存在、ぶつけて見せよっ!』


 ———だが、コイツは素手だ。


「やってやるぜ、この野郎……っ!」


 ———今、俺も素手だ。




 このぶつかり合いにおいて、やはり俺は楽しんでいたのだと思う。


 絶対に負けられない想いを背負いながら、それでもなお、この戦いが俺にとって楽しいとさえ思い込んでしまったのだ。


 故に、あの刀に籠っていた熱は、想いにあって想いに非ず。


 ———ああ。吹っ切れた(吹き飛んだ)




あんなモン(神威)はいらねえ……!」

あのようなモノ(ガイア・コンソール)は必要ない……!』



『「俺とお前(余と貴公)意地(執念)の———勝負だ(闘争よ)……っ!」』



 


 互いに踏み出す。1歩、また1歩と、歩み出し走りだし向かい合う。


 互いの武器は己、そして拳。熱拳と言われるほどの熱もこもっておらず、魔術による能力増強も為されていないただの拳。


 故にこそ、それこそが男と男の決着を付けるに相応しいものであった。


「だりゃあああああっ!!!!」


 互いの拳がすれ違う。直後、視界は黒に染まっていた。


『ぐ…………っ』


 血の味がする。どこまでも痛くて、どこまでも煮え切ってたまらないのに、それでもまだ戦いたいと右腕が疼く。


 一発殴り合っただけじゃ、足りない。


「まだまだ……ぁっ!」


 以前なにも見えぬまま。顔面に食らったせいで、どうせしばらく瞼は開けられない。

 でも、それでもヤツの位置は分かるはずだ。


『ふぎ……っぅ!』


 今度は……どこに拳は当たった?

 ヤツの拳は、見事俺のみぞおちに叩き込まれた。……だが、こっちだってヤツに当てて見せたはずだ。その感触はあった。


「うっ…………ぶ、っ……」


 血か、それとも胃液か。もはやどうでもいいものが逆流する。


 ———いや、血だ。この鉄の味は、紛れもない血潮の味。俺が求めていた味そのものであった。


 痛みが脳を侵食する。歪み、滲んでゆく痛みを受け止め、それでもまだ拳を動かす。


 傷付け合っているはずなのに楽しい。その事実を、脳が『矛盾だ』と処理しようとしたが、どうもその処理は気に食わなかった。


 だからこそ、まだ倒れない。

 背負った想いをも、吹き飛んだのなら。


 とことん、俺たちの思うままに戦うのみだ。


「ぎっ……!」

『くぅ……っ!』


 もはや言葉すらも意味をなさない。ただの力のみが言語であると同時に、それのみが俺たちを繋ぐものでもあった。


 ———だが。

 それ故に、時間は唐突に訪れる。


「———」


 もはや言葉も出ない一撃。いつものように……、ただ戦いを楽しんでいた、その過程にて繰り出された一撃。


 ……だが、それこそが最後の致命傷になった。






「…………俺の、勝ちだな」






 この勝負は俺の勝ちだ。誰が何と言おうと、コイツが何をしようと、もはや魔王に勝ち目はない。


『…………ふ、はは。


 そうか…………貴公に、負けた……か……


 それもまた……一興…………よ……』




 ようやく、その瞼が開いた。激痛で歪む———なんて、そんな次元既に通り越して、俺の頭は興奮でいっぱいだった。その最中の回復。


 開けた視界に映ったのは、床に大の字になって寝そべっている魔王。しかし、その胸には深い紅が刻まれていた。


 ……だと言うのにやはりどこまでも、魔王は万年の笑みを浮かべるまでであった。


『…………は、はは、世界を救う救世主、とやらはどこまでも大変よ……なあ。


 東の空を見るといい……アレほどの『呪い』、どこからかき集めたのやら……』



 魔王の言葉。言われた通りに東の空を見ると、そこには夜の闇をも塗り潰す本物の『暗黒』が垣間見えていた。


「なっ……」


『何を怖気付いているのだ……余を倒したと言うのに』


「……いいや、救世主って……大変だな、って……思っただけだよ。


 はっ……くっそ、ようやくテメェを越えられたってのに、息を吐く間も無く連戦なんてな……」


『その割には———何故笑みが溢れているのだ?』



 そうだな。今俺は笑っている。

 なぜだかなんて俺にも分からない。この体が、この血が、戦いを求めているのか。


 救世主にそんなものは必要なかった。なぜなら、何もかも救った後ならば、戦いなど必要としないからだ。


 ———でも、俺は。


『貴公は……そう、紛れもない救世主よ。

 その名に違わぬ、セイバーの末裔。


 だが……そうさ、その笑みこそ貴公の本質。その歪みこそ貴公の存在理由。


 救世主として生きるつもりなら…………そうさ、呑まれるな…………とだけ、伝えておこう』


 言われなくても。もう同じ轍は踏まない。

 救世主として生きようが生きまいが、あの罪はもう背負いはしない。


 それを精算するための人生でもあるのだから、もう罪を重ねるわけにはいかないんだ。


『行くが……いい、救世主。

 余は……っ、ここで散る。貴公は、その事実のみを……持ち帰れば…………よい。


 ———楽しかったぞ』



 その事実と、何やら満足げなその顔が、魔王のやりたかったことを示しているような気がした。


 だからこそ、俺は……魔王に向かって、ほんの少し微笑みかけた。


 その笑みは勝利の笑みであり、また感謝の笑みであり。


 勇者として、魔王として———ではなく、一人の人間として争い合った事実を、賞賛し合うものであった。


「ああ。


 ………………俺もだよ」

 







 ———とりあえず、俺は……世界の危機から、世界を守り通した。……救世主として、そして勇者として。



 今はまだ、俺は……救世主でいいんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ