Side-other:呪詛変源
*◇*◇*◇*◇
全くの同時刻。
白が魔王と死闘を繰り広げていたように、サナたちも魔王軍との死闘を繰り広げていた。
宵闇と共に、星々の光が灯る空には、煮えたぎる人々の怒りを表すように、仄かな戦火が渦巻いていた。
その空の下を、白に染めるように舞う魔法使いが一人。
「んぎぃ……っ、はあっ!」
———362体。
その魔法使い———サナが、ここに至るまでに凍らせてきた魔族の数である。
そして、また2体。
「はぁ、はあ……っ、あ、あぁ……
…………はぁ」
そのため息は、直後に白く染まり霧散する。
「何でこんなこと、する必要があるのかしらね」
誰もそこにはいない。
ただそこにあったのは、彼女が作り出した氷結地獄と、その中で『止まった』亡骸のみ。
「本当に、奪う必要があったかしら。
本当に、戦う必要があったのかしら」
その独白も、あのため息のように消えてゆく。
誰も、聞き届ける者はおらず。
誰も、その真意を知る者はおらず。
誰も、その真意を知らぬまま———。
「本当にやりたかったことは、こんなことだったのかしらね……?」
彼女自身も、その問いに答えを出せず。
ついぞ出せぬ答えを放棄し、ただその問いを以て、独りの時間は終わってしまった。
「………………ああ、なるほど。
やってくれたのね、白」
魔族、魔王軍の沈黙。それを以てサナは、それこそ戦争の終わり———大将である魔王が討ち取られた、と取ったのだ。
「無事でいてくれると、いいんだけど」
「そうですね、無事でいてくださるのなら、この私もそれが一番でございます」
「ひゃあ?!」
夜空に向け、その想いを少女が吐き出した瞬間、空気を読まぬ天使様によって、その独りの時間は終わってしまった。
「ちちちちちちょっとコック?! いるんだったら声ぐらいかけなさいよ!」
「声……はて、かけましたよ?
『そうですね、無事でいてくださるのなら、この私もそれが一番でございます』…………と」
それに対し「はあ」とため息をつくサナ。
「そういうことじゃなくって……ああ、もう、私の言い方が悪かったのね、面倒臭い……」
「本心からそう思うの、こちらとしては心底傷付くのでやめてもらってよろしいでしょうか。
……んまあ、それはそれとして。
———終わったようですね、あの戦いは」
コックは西の夜空を見上げて、安堵したようにそう呟いた。
「そう……ね。
帰ってくるかしら、白は」
「マイ・マスターのことです。どうせ死ぬほど疲れているのに『大丈夫だよ』だなんて口にして帰ってくるでしょう、きっと」
コックの冗談に対し、サナはささやかな微笑を投げかける。
「そう……そうよね、確かに。
白のことだから、しれっと帰ってきてそうな感じもするしね……
……まあ。
無事に帰ってきてくれるなら、私はそれでいいわよ」
「ですね〜……」
もはや戦いは終局へと向かいつつあった。
魔族の王の死は、その巨大な魔力反応が失われたことにより、両陣営が既に把握していたことであった。
仄かな赤を灯した空は次第にその色を戻しつつあり、安定と安寧が再び訪れつつある中で。
誰も彼も、もはや全てが終わったと安心しかけたのだ。
その直後。希望をへし折る、声が上がった。
「———サナ、様。
どうやらまだ……終わって、いないようです」




