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もしも願いが叶うなら〜No pain, no life〜  作者: 月影弧夜見
第10章:激震! 勇魔最終戦争!
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それでも。

 懐かしい匂いがした。

 包み込むような、その胸に抱かれるような。

 どこまでも安らかで、凪のように落ち着いた気分のまま。


 父の香り。母の温もり。俺がいた空間は、それのみで埋め尽くされていたような気がした。


 それでいて、視界に入るものはどれも白く。

 どこまでも純粋にして、どこまでもまっさらだった。




「俺は———」



 言葉が出た。何もかもがまっさらで、俺自身も存在しているか分からないほどだったのに。


 ああ、それでも何をしていたっけ。

 俺はいつからここにいて、何をするためにここにいたのか。その全てさえもまっさらに塗り替えられたまま。


 でも、不思議と安心感があった。

 そこに義務はなく、使命すらなく、それすらまっさらの白色に包まれるだけ。


 それはダメだ、と否定する自分もいれば、それでいいんだ、と安堵する自分もいたけど、それすらも雪のような白に埋まっていった。


 このまま。この俺の何もかもが、本当に白に染まってしまうんだろうか。


 ———ああ、あの景色が離れてゆく。

 既に紺碧が満ちた空。その景色が離れ、徐々に薄れてゆく。


 薄れ、離れ、そして千切れ、霞んでゆく。

 もはやそれは、俺の意識だった。


 

















『……帰って来てね』


「あ———」


『まあ、そんなこと言ってない…………けど、そう私が言いたいんだって事ぐらい、言われなくたって分かるでしょ』


 ……なぜにそう、ズケズケと入り込んでくるのか。

 何もかも真っ白だったじゃないか。

 もう終わっていいって、解放してくれるって、そう俺は想っていたのに。


 でも、お前はそう身勝手で。


『……まだ、やるんでしょ。

 だったら、こんなところで倒れてる暇、ないじゃない。


 ほら、手、握って。

 さっさと……いくわよ!』


 でも、どこまでも気にかけてくれていて。



 だからこんなに。

 あっちの景色は、あんなに透き通って見えるんだろうって。


 お前が来ても何もかもが白かった理由、分かった気がするよ。

 ズケズケと入り込んでこようが、汚れでも異物でもない。


 紛れもない、俺にとって大切な人で。

 そして———それ故に、俺を形作るものでもあったから。




◆◇◆◇◆◇◆◇



 

「ぜえありゃあああああああっ!!!!」


 諦めかけた。そんな気もした。

 だけど、ナニかを起点に俺は立ち上がった。


 白に染まりゆく意識の中。

 そのナニかだけは、俺という存在自体を肯定してくれた気がするから。


『立った…………立ったと言うのか、救世主!』


 魔王の顔つきが変わる。焦りなどではなく、『そうこなくちゃ』と発しているような、無邪気な童心を孕んだようなものへ。


「ああ、立ってやったさ……引けないんだよ、俺は!


 俺のこの手の中には、今までの全てが詰まってる! その全てを乗せた俺の剣が、お前の空っぽな魔術に負けるだって、ああ?







 ———冗談も、いい加減にしろ……っ!」


 言ってやった。

 そうだ。そんなもの冗談だ。そうとしか思えないし、そうとしか受け取れない。


 勝てるわけないだろ、お前のそんなものが。

 限りなく無限に近い魔力の渦。そのくせして、その心の中は空洞ときた。



 勝つのは俺だ。どこまで行こうと、この戦いが互いの鍔迫り合いである限り、勝つのは確実に俺なんだ。


 まだ引けない、まだ踏みとどまれる理由がある、この俺に。



 何もないお前が、勝てるわけねえだろ……っ!


『はあああああああああっ!!!!!!』


 そうやって、必死に力を振り絞っているようだが。

 だが、その裏の本性を、俺は既に聞いたんだ。


 だから分かる。そんなものは、お前の下手な演技にしか過ぎないということを。





 そうか、だからか。

 コイツは元から戦ってなんかいない。強大な壁として立ちはだかり、俺に試練を与えていた———それだけ。


 そうだ、その通りだ。何の想いも抱いていないくせに、俺の前に立ちはだかる? 何のために?



 ———その答えはもちろん一つ。





「死にたいんだったら……っ、



 テメェ一人で、勝手に死にやがれぇぇぇぇえっ!!!!」



『生憎、余は寂しがり屋なのでね!

 一人寂しく逝くよりは、戦いの中に散るが本望よ!!』


「テメェのわがままなんざぁ、知ったことかぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

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