真なる『魔法』
『時に貴公よ。貴公は『魔法のない世界』を夢想した事はあるか?』
「ねぇよ、そんなこと……魔法はあるのが当たり前なんで———」
『その貴公らにとっての『当たり前』がない世界のことよ。
人はそのようなものは使えず、むしろそれに憧れを抱き、それを崇拝の対象にまでしてしまう世界。
———だが、余の編み出した『魔術』なる体系の出力術がなければ、この世界も同じであった』
「…………はあ?」
『つまりだ。
そのような世界もあった。少し分岐が違えば、この世界もそのようになっていた、と言うわけよ。
……故に。
これより演ずるは、その世界における魔力の法の立証。
魔術体系、その全てを統括する『法』を、再び我が手に戻す回帰の儀。
見よ、人間。
これが、『魔法』よ』
———ああ、なんだよ! また魔法かよ、ちくしょう!
エネルギーの撃ち合いなんて俺にとっては範疇外だ、どうしようもない。
ましてや次の技が何かってのも分からないのに———、
『剣と魔法。それらは常に相対しているものだ。
剣は人間の知恵の結集体。武器という観点において、貴公という救世主を、英雄を、つまるところこの大陸を象徴する、人そのものの最先端技術。
しかして魔法は、我ら魔族の特権。人間にも本来、魔力器官などというものは備わっていたものの、魔族のように魔法には特化していなかった。
故にこの勝負は、人の技術的集大成である剣———刀を扱う貴公と、我ら魔族の集大成を担う『魔法』の、一騎打ちということになる。
人の意志が勝つか、我ら魔族の集大成が勝るか。人と魔族の根源たる戦いを、この一戦にて決めようではないか。
どうだ、貴公にとって最高の舞台とは思わんか、人間よ』
———アレが、魔法を放つ時の体勢か?
もはや杖も、ヤツの魔槍もない。その体の正面に両腕を突き出した魔王。それに呼応するようにして、その場に紫の魔力結晶体が作られ始めたのだ。
何にせよ、アレもこの手で打ち砕く他ない。というより、むしろ俺がやらなければならない。なんか知らんが、あのような概念的効果が含まれているなら尚更だ。
ヤツはこの一戦にて、剣と魔法の概念そのものを書き換えようとしている。それが悪いことだと止める権利もなければ、わざわざ止めにかかる理由もない。
『しかし———貴公は救世主だ。
惜しくも、あまりにも。この激突を回避しようと思おうが、貴公にコレは回避できない。
それまでの経験やら概念的な判断によって、既に因果律はその方向へ傾けられているからだ。
そう———かの大戦、『終末戦争』を終わらせた英雄、救世主の末裔である貴公は、その性質故に『人類全てを代表する者』として存在している。
つまり、この戦いをしなければならないのは必然。……が、それ故に貴公には逆転の芽も、一転の隙すらもある。
つまり、最後を飾るのは———互いの余力と言うわけよ!!!!』
そういうことか。
つまり———一切合切、全てを無視したただのぶつかり合い。
そうだよな、そりゃあそうだよな。
ただ遠くから撃つばかりで、面白いわけがないよな……!
「受け止めて…………やらぁぁぁあっ!!!!」
『ゆくぞ———』
「来いっっっ!!!!」
直後、頭上からは星が降りきたる。
そう、星だ。極限まで、そして限界まで溜め続けられたソレは、もはや一個の恒星と呼ぶに相応しいものであった。
本来邪悪なもののはずなのに。そのようなものであるとさえ思っていた魔術の最奥は、その実太陽よりも輝きを増したものであった。
空は既に暗い。しかしそれを塗りつぶすかの如く、魔術の極点は舞い降りる。
「上等———!」
極ノ項、使えるのは残り一度のみ。
一度、一瞬、一秒。
その僅かなる時間に、俺の全てを圧縮する。
集中し、向かいゆく意識を一点に。刺し貫くはあの光の球の中心、そしてその奥に見据えた魔王の姿。
もはや距離など関係ない。この想いを込めた刃ならば、貫くのみでヤツに辿り着けるはずだ。
「突・爆牙———ッ!!!!」
星が迫り来るその一瞬。
己が手に抱いた刃の切先が、その星に触れた瞬間。
何もかもが、白の輝きに包まれた。




