魔王、降臨
『久々に、人の面を拝んだものだな。
———いや、つい前にも見たものは見たな。
……しかし、いや…………ここまで来てみせるとはな、勇者———いや、
救世主よ』
紫の鎧に身を包んだ、騎士王の如き男は、その重い腰を玉座より上げる。
同時に、その鎧の背中部分が抜け落ち、鎧に接着されていたマントも床に散乱する。
———見つめられている。見定められている。
この命、この魂そのものを。
『魔王———いや、真名……アベル・セイバー。
魔族の王として、またかつての救世主として、貴公に決闘を申し込む』
アベル……セイバー?!
ちょっと待った、セイバー……だって……?
「まさか、お前……!」
『そう、余と貴公には、同じ血が流れている。
正確に言うならばそう、余は貴公の———遠い先祖よ』
おい、おいおいいやいや待てよ、おかしいだろ?! 何で俺の先祖がここにいて……つかなんで生きてんだよ、寿命はどうした寿命は!
『———真名を名乗れ、異邦の救世主よ。
なに、概念法術を警戒しているのならば、その心配はせずともよい。貴公の概念を操ろうにも、その術式を作るのには3日かかる』
……いやいやいやいや、視点がヤバいよ。俺はそんなもん微塵も警戒してない、どころかただ名乗るのを忘れていただけだっていうのに、急に術式の話なんか始めやがったよ……!
———コレがアレか、神域とまで呼ばれた魔術師の視点ってわけか。……きっとその考え方から、何から何までサナやコックと違う。
「真名、アレン・セイバー。今はそう…………
白、と名乗らせてもらう」
勝てるのか、俺。
こんな……もう既に化け物と分かった相手に。
『そうか。今はそのような名、か。
……来るが良い。言っておくが、余の前には『オールマイティ』は通じんぞ』
「そうか、ご忠告……ありがとうってとこだっ!」
ヤツからは動かない。ならば、俺から乗るしかねえ!
いつまでも動かないわけにはいかない、仕掛けてみせる……!
———だが、一撃目は回避される。その攻撃をマトモに喰らうわけがない。
故に考えるのは、常に二手三手先。
「ふっ———!」
刀を振り下ろした瞬間、そこに魔王の姿はなく。
しかしその一瞬、俺は胎動する魔力の波を読み分ける。
どこに来るかは、分かっている。しかし———、
「んっ!」
体を右に逸らした瞬間、俺の左を閃光が貫いた。
マトモに食らえば、体は消し飛んでいた。
———はずだったが、俺の体を守ってくれたのは、アルビオンアーマー。
こんな早くに、使い物にならなくなってしまった。
「ちっ……くしょうっ!」
魔王がその右腕に持っていた武器———ソレは槍。
その槍より出でた聖なる光が、俺の体を焼き尽くさんと迫っていたのだ。
「っぶねぇっ!」
その光を避けた瞬間、既に体は攻撃体制へ移っていた。
捉えるは、その体。
見えている。が、見られている。
———いや、むしろ先に———俺の行く先を、既に目で追っている?!
「まず———、」
反射的に爆発魔術を使用し、その場から距離を置き飛び上がる。
瞬間、俺のいた場所をまたさらに閃光が過ぎ去った。
閃光っつーか、ありゃビームだ。槍からビームなんぞが出てやがる、しかも常に!
「デタラメすぎんだろ……っあ」
———だが、誤算だった。
そうだそうじゃないか、飛び上がれば姿勢制御はおろか、マトモに落下位置を変えることもできない。
故に…………格好の的だ。
———だがしかし。こちらを既に見つめていた魔王の眼は、笑っていた。
『まだできるだろ』、そう言わんばかりの期待の眼差しが。
『———その、程度か』
答えてみせるさ。
「そんなわけ……ねぇだろおおおおおおっ!!!!」




