繋いだ想い
目を開けると、朝の日差しのように眩しい光が。
しかし自然と、痛みはなく、まるで天国にいるような気持ちだった。
周りには、やっぱり仲間がいて。
これが天国か、と錯覚しそうになった。だが。
「……よくやったな、セン。お前の勇気がたった今、世界を救った。
あの予言は間違ってた。なぜなら、世界を救う者の1人にお前を入れてなかったからな」
暖かい声が、聞こえた。
……そうか、なるほど、僕は、やったんだ。
ほんとのほんとに、せかいをすくったんだ。
ちょっと、ぼんやりしてきているけど。
……まあ、すこしくらい、やすんだって、いいよ、ね。
********
「大丈夫だ、セン。お前の守り通した世界は、俺が救ってみせる」
運命は、今、その概念通りに逆転した。
本来、ここで終わるはずだった。
全てが、今まで積み重ねてきた数多の現実が、ここで潰えるはずだった。
しかし、アイツは運命を変えた。
自らの死をも厭わない覚悟で、変えてみせたんだ。
「このままだと、救世主としての名が泣くよな。
鍛冶屋のじっちゃん、アーマーは完成してるんだろ?
俺 の覚悟は済んでるから、早く……俺にくれ。お前の孫の、センの守り通した未来が消える前にな」
「久しぶりじゃな、あの時の勇者よ。まさかお主があの村を救い、世界を救う事になるやもしれぬとはな……
まあ頑張ってくれ、わしは応援しとるぞ」
「ああ、行ってくる。俺が、世界を救ってみせるさ」
「その概念防護は、この最終決戦用に調整した特別仕様じゃ。ここで勝たなければ、未来はないぞ」
アーマーを胸に装着する。
概念防護……とか言ったが、無理なく俺の胸にフィットしてくれたのはそのおかげだろうか。
「やってみせるさ、この俺が」
———やることは、ただ一つ。
「……アレン。1つだけ、言わせてくれ」
聞こえてきたのはイデアの声。
そうだったな、センを最後まで信じ、応援していたのは、イデア……兄さんだった。
兄さんにしては……意外だが。
「センは……センは、やりきった。ヤツは勝ってみせたんだ。
……アレン。貴様も、勝てよ……!」
———その真っ直ぐにこちらを見つめる目は、とても今までの兄さんとは別物と言わざるを得ないものだった。
コイツ———いや、この人が、ここまで俺に託すようなことを……
「…………兄さんは、兄さんは戦わない……のか?」
「———フン……! 貴様と一緒に戦う、など絶対にごめんだ」
「この前は普通に一緒に戦ってたくせにさぁ……どうなんだ」
「フン! 貴様が俺以外に殺されるのが気に食わんだけだ!
さっさと行け、センの努力が水の泡になる前にな……!
それに、あの魔王とは他でもない、救世主の———『鍵』の継承者たるお前が決着をつけなきゃならない。だからこそ———」
「…………ああ、勝ってみせるさ」
———魔力翼、起動。
俺の体内の魔力器官に残っている魔力を使用し、その背に緑の魔力の翼が顕現する。
もはや浮遊法を使わなくともよい。そんなものを使わなくとも、遥かに効率の良いものがここにある。
「……すごい、白、神みたい……!」
俺の姿を見たサナはそう口走った。
———神、か……
「行ってくるよ、サナ。……待っててくれ、俺の帰りを」
「……うん、行ってらっしゃい。
待ってる……からね、帰ってくるの……!」
その笑顔———久しぶりに見た気がする。
それなのか、俺が護りたいって、そう思っていたのは。
「……………来るが良い、白……とやらよ」
今の声は———人界王?
来るが良い……つまりは、その下に跪け、と。
まあ、体裁だ。ここで何もせず、後からレイにどやされたらたまったもんじゃない。
世界を本当に救えたのなら———その方がいいだろ。
「この身、この定め、王のものとして預けたい。今の俺は、王の忠実なる騎士です。どうか、ご命令を、人界王」
何とも皮肉と言うか、2年前王に楯突いた勇者が、今となっては王に完全なる忠誠を誓っている、という状況。
「……ならば、人界王、ユダレイ・タッカーダル四世が命じる。魔王を、その手で討伐せよ。繰り返す、魔王をその手で討伐せよ」
そう、来たか。
いや、それはそうだよな。今やたった一縷の希望になっているんだから、この俺が。
「仰せの———ままに」
********
白は飛び立った。竜か神か、神聖なる存在かの如く、神速を以て飛び立った。
それを眺め、羨んでいたイデアは。
「…………アレンは、行ったか。……それにしてもムカつく野郎だ、こんな時まで共闘を選びやがって……!」
イデアはその右拳を、気に食わなそうに力強く握りしめる。
「…………だが、……セン。お前を見てると顕著に感じてくるもんだぜ。……一緒に何かを成し遂げることの、重要さがな……!
アレンは最初から分かっていやがったんだ、それが最適解だと、2人で戦うのが一番だと。
……俺がくだらないものだと一蹴したものだが、そこには確かな力があった、想いがあった。それが積み重なって俺たちの現在があった……!
貴様が強かったのも、きっとそれだ。貴様には、守るものがあった、大切な人がいた。
だからこそ、それを失わないために、ひたすら強くなって、必死に策を模索して、一緒に戦う。
それが一番だと、貴様は誰よりも分かっていた……俺はそこから、一緒に戦うことの大切さを、知ったんだ……! だからこそ、今は貴様にこの言葉を送ろう……
……勝てよ、アレン。お前はこの世の誰よりも、強い……!」
ただの独り言———そのはずであったが、イデアの心境にも、確実に変化は訪れた。
*◇*◇*◇*◇
弾丸の如く、空を駆け巡る。
風が頬を撫で、いずれ切り裂かれそうなほどに激しく強くなる。
……いや、切り裂かれちゃマズいか。
「目指すは魔王城……待ってろよ魔王……!」
瞬間。
ずっと横、数キロ離れた先にて浮かんでいたのは、にあまりにも巨大すぎる数個もの鉄の塊。
「クラッシャー……じゃない、じゃなんだアレ……まさかあの時の……あの村にいた鉄の球体……なのか……?」
目的地は……この混乱を引き起こしている魔王城だろうか、その鉄の物体は移動していた。が、そんな事は気にもとめない。
アレが魔王軍と関係のあるわけがない。魔王軍はあんなもの使わない。とならば———いや、本当に関係ないだろう。
それよりも。……そうだ、それよりも行かなければならないところがあるはずなんだ、俺には。
早く、早く。
どこまでも、早く。
無駄にはしない。できないし、させない。
「……魔力反応……雑兵か、振り切ってみせるさ、こんなところじゃ止まれない……!」
既に消し飛ばされた地上を見て、それまでの旅の思い出が奥底より蘇る。
それと同時に決意は固まった。
日は空の向こうへと沈む。
……がしかし、太陽の如く輝くこの翼が、この地上を明るく照らす———!
「アレが……魔王城……」
黒のレンガで構成されたそれは、いかにもここが本拠地ですよ、と言わんばかりの雰囲気を醸し出していた。
……周囲には毒沼。
空を飛んできてよかったなと、改めて思う。
……不思議だった、なぜか魔力障壁がない。
いくら魔族の本拠地、魔界の奥底、大陸最西端に位置するとはいえ、そんなはずはないだろう。
あの魔槍、ガイア・コンソールも撃ち尽くした……はずだ、魔王城にはほとんど魔力反応がない。
いや、城内には残存魔力もあるのだが。
……なのになぜ、魔王城そのものに魔力障壁が貼っていない……?
世界の終わりには似合わない程、不自然に静か。
明らかに何かがおかしい、と思いながらも。
魔力翼を前面に押し出し、城内へと突撃する。
瓦礫を魔力翼で突き破り、落ちゆくレンガとともに落下すると、眼前に出てきたのは、王城と同じような大広間。
松明は置いてはあるが、点きはせず。
崩れ去ったレンガに反応すら示さず。
ただ、そこには———玉座と思しき場所には、男がいた。
そこに、ただ一人の———王がいたのだ。




