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もしも願いが叶うなら〜No pain, no life〜  作者: 月影弧夜見
第10章:激震! 勇魔最終戦争!
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Side-セン:終末の針

「兄さん、それは一体……!」

「私も感じた。来るわ、もう1基。おそらくここに」


 ———嘘だろ。一度王都に落としたってのに、追い討ちでもう一発落とすつもりなのかよ……!













********


 もちろんその予感は、センたちも感じ取っていた。


「じいちゃん、これって……」


「言われんくても分かっとる。しかし、王都が沈んだともなれば……」


「打つ手無し、ですね……」


 セン、スザク、クイルの3人は、アルビオンアーマーの完成も待たずに落胆し、絶望する。



 ———その中で。それでもまだと、センは思い立った。


「……いいや、クイルさん。まだあります、とっておきの概念武装が。


 白さんたちには届ける事なく、説明もし損ねたこれですが、今から使うとしたら、この誰かが……」


 センが右手に持っていた黒のバッグからは、何か形容し難い質の魔力が流れ出していた。






********


 ———それは、(セン)とじいちゃんの家に伝わる概念武装、アンチバレル。

 打つ手無しと言われたこの状況を、巻き返す一手。


 着弾した場所、人、物の性質を、発射した者の思うように反転させる。それがこの、アンチバレルなる狙撃銃の真髄。


 故に。

 あのエネルギーの塊であれば、ソレをゼロに反転させることだって。




「しかし……概念弾は残り2つだ」


 しかし、その弾数はたったの2つ。

 その2つのうちどれかを、確実に、あの魔槍に当てなければならない。



 ……無論、僕には無理だ。ここは若いし実践経験もあるとか言ってたクイルさんがや———、



「お前が行け、セン」


「じいちゃん……? 僕には無理だ、僕にそんなの……できるわけ……」


「えっと……私がしましょうか? その方が……」





「セン。お前は、勇者になりたかったんだろう? 世界を救ってみせる、勇者に」


 クイルさんがせっかく割って入ったのに、何でそんなに僕を推すんだよ、じいちゃんは。


「だけど、……僕には、こんなの……」

「もちろん、わしとしてはクイルに頼みたい。じゃがな、やってみる気はないか。本当にないのか、世界を救いたくは」



「今更僕に、責任を押し付けられたって……!」


「勝っても負けても、これが最後だ。負けたとて、お前の責任を責める奴はおらん。どうじゃ。やってみるか、一世一代の大博打」










「…………分かったよ、じいちゃん。表に出よう。射角調整はお願い」


 浮かび上がった王都の地面の形は、横から見たら扇型に見えるような不安定な形であった。


 それゆえに、地に落ち傾いたその地面こそが、最後の希望を生み出した。









「悔しいけど、私にもどうしようもない。この状況を覆せる概念武装でもない限りは、どうしても……」


「……終わりか。ここまで来て、ここまで来といて、それはないだろう、神様……?」


 白もサナも、誰もが。

 皆が完全に諦め切った時。

 最後の希望は一つ、漆黒の鎧を纏いて顕現する。








 黒のバッグは展開し、ひとりでに狙撃銃の形を成す。



 赤黒い砲身が、その姿を現す。

 僕はただ1人、その『戦場』に立った。


 ———そうだ。コレは、僕の……僕だけの、戦いなんだ。


「アンチバレル、展開起動。射角調整……大丈夫、ありがとうじいちゃん」



 ほぼ真上に位置する魔槍を撃ち抜くことになるのは、直径5メートルの狙撃銃。


「僕の魔力……全部、持ってけ……!」


 神経や肺なども、一時的な魔力回路及び器官として置換する。それまでしないと、コイツを撃ち出せる魔力量は稼げない。




 何がなんでも、この体がぶっ壊れてでも、ここで撃ち落とす……!


 感覚を研ぎ澄ます。


 魔力の流動によって擦り切れそうな神経を、研ぎ澄ます。

 眼前が赤く染まり、目より赤い液体が零れ落ちる。


 だが、そんなものは気にしない。

 今僕が集中するべきなのは、目の前の魔槍のみ……!

 落ちてくる前に、今ここで、撃ち落とす!




 舞い上がる虹の閃光。

 人類が報いた一矢は、最後の光の矢は———。




「反応が、起こらない……外し……た……??」


 1発目は、確かに放たれた。

 砲身が音を鳴らす。

 僕はこんなの知らない。


「……いや、でも僕は、ちゃんと狙って……!」


 周りから失意の目を向けられる。

 僕はこんなの知らない。


「でも、でも……僕は、できることをやって……!それで、それで……!」


 高揚し熱くなる体とは裏腹に、冷たい視線が突き刺さる。


 僕はこんなの知らない。


「やっぱり、ダメだった……僕には……ダメだった……僕は……!」



 残り2分。



「セン、諦めるか? チャンスは残っているぞ?」


 後ろから響いたのはじいちゃんの声。

 僕はこんなの知らない。


「装填は完了した。撃鉄は、既に落ちたぞ。お前は、どうする、それでいいのか? それが、自分の夢見た姿か?」


 僕は、こんなの……


「いつもお前が、寝る前に話したあの話はどこへ行った? わしがしつこいと一蹴した、あの希望の話はどこへ行った?」



 こんなの……知らない……!


「お前が話した『白』の話は、どこへ行った? お前が目指した、憧れた勇者はどこへ消えた?


 お前は、勇者じゃなくて、いいのか、他の誰かに任せるか? それとも……」



 残り1分30秒。



 違った。

 僕はこんなの知らない。

 僕に向けられていた視線は、失意や失望からくるものじゃなかった。



 皆は、僕に、最後の一筋の希望を見つめる目でいた。

 こんな僕だからとか、関係ない。

 ただただ、目の前の希望を、一心に信じる目だった。

 奥で見ていた白さんも、そうだった。


 ……いや、イデアさんだけは……まるで勝ち誇った表情で。


 僕は……僕は……


「そうだ、僕は、勇者だ……!」


 希望を、期待を一身に背負う。

 ここで負けたらおしまいだ。

 みんなの想いは僕が継ぐ。


 ここで終わらせはしない。

 白さんが、サナさんが、イデアさんが、コックさんが、みんなが繋いだ世界を、ここで終わらせるわけには、いかない!




 守り通してみせる。


『誰が何と言おうと、漢には、必ずやらなくちゃならない時があるんだ。例え負けると知っていても、無理だと分かっていても、それでもやらなくちゃならない時があるんだよ』


 あの言葉だ。僕の背中を押してくれる。


 やり切ってみせる。

 全て、全て思い出す。

 この思い出が。この想いが。


 勝つんだ、導くんだ、勝ち筋を……!


 今までの旅が。経験が。人生こそが、僕の原動力だ……!



 残り1分。



 元より銃の撃ち方、など分かりもしなかった。

 キカイ、などというものに馴染みはなかった。


 それでも、感覚で、直感でどう動けばいいかを導き出す。

「スコープ」なるものでその水色の光を覗き。

 堕ちゆく光を照準を合わせ、そして撃ち込む。



 残り30秒。

 身を焦がす激突。

 不安を加速させる焦燥。



「……や……やっぱり、やっぱり、ダメかもしれ……」



 言いかけた時。





 背後から、コエがした。





「……いいか、セン。お前が本気を出せば、必ず勝てる。いいな……!」


 同時に後ろより送られてくる膨大な魔力。

 ほとばしる魔力に驚きながらも。

 それでも、そのコエに僕は耳を傾け続けていた。




「覚醒せよ———()()()()。見せてやれ、お前の真の力を、センっ!!」




「———はい……っ!…………イデアさん……!!」


 後ろから聞こえたコエは、じいちゃんでも白さんでもなく。

 既に勝ち誇った表情をしていた、イデアさんだった。






『自分が弱いなどと言う固定観念はすぐに捨て去れ。そして想像しろ、勝者の自分を。綿密に、徹底的に。そして勝った姿から、今の自分の最適解を導き出せ』


 あの時の言葉を思い出す。

 ソレが励みだ。ソレが原動力だ。

 魂を燃やせ。



 やってみせる。

 今の僕にできる最適解。それは……!!






「セン……あいつ、魔力が……」

「きっと、イデアが与えたんだわ。……でも、セン君は一体何をする気で……」


「……アレ、なんだ……?」




 赤黒き砲身より伸びたのは、魔力で形作られた、青白い光のレール。

 真っ直ぐに、何かを見据える眼光のように鋭く。





 残り10秒。




「魔力浮遊法式発射口固定、終了。イデアさん、射口にズレはないですか?」


「……ああ、ないさ。後はぶつけてやるだけだ、貴様の全てを。


 この一撃に、すべてを込めてやれっ!!!!」


「…………はい、やってみせます、この僕が!」


 目眩がした。

 同時に巻き起こる頭痛にも、僕は気を向けない。


 ———分かる。壊れていくのが。僕が僕としてでなくなっていく、この感覚が。



 だが、意識するのは———集中するのは、今の自分の使命だけ。



 くだらない、自分の事なんて考えるな……!

 僕は引き受けた、引き受けたんだ、みんなを守るって。

 だから……だからこそ、ここで僕が終わらせる!



 何があっても、何としてでも、確実に、そして冷静に、狙い澄ます。

 そして、まるで巨弓を放つかの如く力強く、確実に命中させてみせる。



「これでいいのかな」

「間違ってないのかな」

「どこかおかしくて、上手く命中しないんじゃないのか」


 残り5秒……!



 ……違う。そんな事は考えるな。

 考えるのは……勝利のみ。


 勝って、勝って、勝ち誇った顔をしてその場に立ち尽くす自分だ。



 だからこそ、そんなくだらない感情に、囚われちゃいられないんだ……!

 託された想いを、願いを、ここで終わらせるわけにはいかないんだ———!!


「僕のありったけ……持ってけーーーーーっ!!!!」









 全てを魔力生成炉として使用した結果、全てが壊れた。

 もはや視界も、黒か白か、何が起きているかは全く分からない状態。

 感覚も、触覚も、聴覚も全てが失われた世界で。



『常人』なら、確実に死に至る死幻想領域に、僕は立っていた。


 ……それでも、そこには意志があった。

 身体はなくとも、絶対に諦めないという鋼の意志が。


 その意志が、いまだ不可能だったものを、可能にした。




 終末の魔槍は、たった今…………穿たれた。

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