Side-コック/白:『鍵』の真価/終結
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信じ…………られませんでした。
サナ様の上に乗っかってまで、その顔を見つめ続けた我がマスター。
……いえ、そのマスターが氷漬けにされた———そんな些細でくだらないことは、まあまだ冗談のノリとして流せるのでよいのです。
ただ———やはり、おかしい。
何がおかしいかと言われると、サナ様がその目を覚まされたことです。
…………サナ様は、もう既に死んでいた。
その事実は、サナ様の魂を覗き続けた私だからこそ、分かることです。
つまり問題は、『誰がどのようにして、サナ様を蘇生させたか』———コレに尽きます。
……この場において、その方法を持つ者は———私が知る限り、ただ一人しか存在しない。
我がマスター、白様———『アレン・セイバー』が所有する神技にして、大穴の島を開くための『鍵』。
『ザ・オールマイティ』。
そう、私も使おうとしていた……はずのものです。
ソレが所有する権能は……そう。『アースリアクターへのアクセス許可券』と言えば正しいのでしょうか。
アースリアクターは、大穴の島に存在するこの星の『核』。人の集合無意識にして、願いを叶える願望器としても作用するもの。
1000年前、この星の全て、そして全ての知的生命体を巻き込んだ最終戦争『終末戦争』。
その戦争の終結条件の一つが、アレでした。
『オールマイティによって、何者かが願いを叶えること』。元々終末戦争は、オールマイティの奪い合いだったとも記録しています。
……コレを覚えていられたのが幸いでしたか。
———故に、マスターが所有している神技には、『願いを叶える為の道』を開けるような効力があると言うわけです。
その影響か、誰がそのように願ったのか———。そんなもの、たった一人しかいないはずです。
そう、マスターは『自分でアースリアクターへの道を開き、自分でその願いを叶えた』……ということ、としか思えません。
元々、オールマイティはアースリアクターとワンセット。故にコレ以外思いつくわけもなく。
……でも、そうですか。マスター。
貴方の本当に叶えたかった願いは、そこにあったのですね。
———私の出る幕は、ない……と。
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氷漬けにされた。
アレほどの熾烈な戦いを切り抜けた俺に贈られたのは、その事実だけだった。
———でも、まあ。
『……でぇ、何しようとしてたわけ?』
———あぁ。
今、俺の目の前で……元気に動いているお前が見れて、嬉しい。
その事実が、その奇跡が、たまらなく嬉しくって。
コレが……そうか、俺にとってのかけがえのないものだったのか。
『………………はい』
心底不機嫌そうながら、目を逸らしつつサナがそう呟いた直後、俺を覆っていた氷は溶けて無くなった。
「っ、はあ……」
覆い被さった姿勢はそのまま。故に、俺もサナも、互いの顔を直視することになる。
『んな、何よ……一体。
……いや、私も…………その、気が付いたらここにいて、気が付いたらその……こうなってたわけだけど……
ええっ、何々、何で何も言わないの?! 何、ホントにキスでもするの、ねえ!』
———ああ、もう。
何でそんなに恥ずかしそうな顔、するんだよ。
こっちはあんなに心配してたってのに、その心配がバカみたいじゃないか。
でも……そうだ。その顔は……
「き、れい…………だな」
思わず口に出てしまった。
『ひゃあ?!?! ななななな何言ってんの白?!』
「あ、いや……その、だな…………
〜〜ああもうっ! お前、自分がどうなったか分かってて言ってんのか?!」
『どう…………なって………………あ。
そう、だ、私……貫かれて……』
ようやく……思い出したか。
『えっでも傷……アレ?! 何で傷が……なくって……?』
何で傷が無くなったのか。どうしてサナが蘇ったのか。そんなもの、俺は知らないし、知るよしはない。
「……サナ」
『はい……へ? な、何……?』
「………………っ」
あ〜……あーあーあー。
言え。言えよ、今しかないだろ。
『生きていてありがとう、これからも一緒に生きていけたらいいです』つって。
……それは……まあ、事実上のプロポーズだろ。
———でも、それは……まだ、俺なんか早くって……
「俺……な、あの…………その……っ、」
『……ほえ?』
———いや。いや、いい。
今は……そうだ。それだけだ。今の想いを吐き出せれば、それでいい。
「サナ…………っ、生きていてくれて…………ありがとうっ!」
『は、はあ……って待っ———!』
その胸に抱きつきたかった。
ずっと、そうしたかったが故に———本当に抱きついた。
『ちょ、ちょちょちょ待って待って待ってよお! いきなり抱きつくとか……てか重い、重い重いしっ!』
「ああ……その、ごめん……今、離れる」
そう言って姿勢を起こした瞬間、今度はあっちから引っ張られた。
「んおっ……?!」
『……どうする?』
「どう…………するって、何が」
『……まだ……私の顔を見つめたいか……って、聞いてるのよ』
「ああ………………うん。
そうだよ……ずっと……見つめて……いたいんだよっ!
…………っぐ、うう……っ、みっともない、みっともねえよな、こんなことで泣いて……っ!」
今度は2人、座り込んだまま。
それでももう一度、俺はサナの胸に抱きついた。
『その、色々と心配かけて……ごめんなさい』
「いや……いいや、いいんだよ、お前が生きててくれた、それだけで…………それだけでいいんだよ……!!」
『……今日はずっと、このまま?』
「ああ、このままで……いさせてくれ……」
———その胸の中で泣けることが、喜べることが、どれだけ幸せか。
今日よりずっと前に、その価値はわかっていたつもりだった。
でも、今日のおかげでようやく掴めたんだ。
———ありがとう、俺の隣にいてくれて。




