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もしも願いが叶うなら〜No pain, no life〜  作者: 月影弧夜見
第9章:カーネイジ・クライシス・クラッシャー(CCC)
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「もしも、願いが叶うなら」と、少年は叫ぶ。

「最後の言葉は、言い残すことでもあるか、クラッシャー!」

「…………のむ」


「た……のむ、助けて、くれぇ……!」


「命乞いか、見苦しい……! 貴様はそうやって、生きようとした者の命を何人も奪ってきたはずだろう…………自分の意思で、悪意で!」


「助けて…………助けてくれ……お願い……だあ……っ……!」





「……ふざけたこと言ってんじゃねえ! お前はサナを殺した……殺したんだよ、俺の目の前で!」



「……すけて…………助けて、くれぇぇえ……っ!」





「……………もう、お前の面なんざ、2度と拝みたくねえ。……だからこそ、牢の中で罪を……償え」

「見……逃……す……のか……?」



「……そうだ、見逃す……っ……!」






 ……一瞬、ヤツを木っ端微塵にしてしまおうか、とも考えてしまった。


 それもそのはず、コイツはサナを殺した。殺したんだ、もう2度と、戻ってくることはない。


 …………でも、クソッタレな気まぐれが、まだ心の中に残っちまってた。

 どんな悪人でも、心を入れ替えれると、そう思っちまった。


 それに、コレは俺自身への反抗だ。ここで殺せば、俺は何をするか分からない。……だから、殺したくっても殺せない。



 かつての、自分のように。

 悪人かは微妙だが、あの時のレイのように。


 また、気まぐれだ。その時の感情とは何ら関係のない気まぐれだったんだ。







********


 その勇者は、あろうことか、この(クラッシャー)に情けをかけた後、背中を向いて歩き出す。


 この俺に、この俺に、下等生物の貴様が、下等生物の分際で情けをかけ、あろうことか俺を前にして背を向けるだと……?




 魔族でも何でもない、ただのガキに、この俺が、この俺様が……?

 ……この俺は、カーネイジのリーダー、クラッシャーなんだ……!


 カーネイジの、リーダーなんだ、貴様のような、貴様のような腐った勇者とは違うんだ……!


 だからこそ、

 ふざけるな、ふざけるな、そんなもの、そんなもの……願い下げだ……!


「…………ならばぁ…………死ねえっ!!!!」




********


 ()の背後。

 突如放たれた殺気は、猛スピードでこちらへ接近する、が。


「…………期待した俺が馬鹿だった……!」


 その放たれた魔弾を、片手で受け止める。



「チッ、クソ…………っ、こうなったら……逃げるしか……!」


「……どうしようもない馬鹿が!……もう、許さん……絶対に、絶対に……ここで———!!」


 しかし行手を塞ぐは、突如地面より浮き出た無数の鉄の針。

 直接俺に当たりさえしなかったものの、その代わり辺りは針だらけ。上空以外は雁字搦めと言っても過言ではなかった。


 だからこそ、コレしかない。


「イチかバチか……投擲で……!」


 落ちていた刀を構え、鉄の針の間から神威を構え、ブン投げる。


「……な……なんだと……刀が……!」


 刀は無事にクラッシャーのその鉄の身体を穿ち、地面に固定する。しかし。


「分離すれば……まだ逃げ道は……『メタル・クライシス』! 俺様の通る道を作れえっ!」


「逃げられる……何としてでもここで……!」


 頭に杭が打たれる。文字通り頭蓋骨が割れる痛み。




 また、あの衝動のような、痺れる声。



『深追いはするな、1度キミの身体は『フェイトシフター』で改変している。もう1度の現実改変は無理だ。今行けば確実に、死ぬ!』


 アダムの……声か……、俺をサポートしてくれているのか! なんだよ、いいヤツじゃねえか……!

 ……だけど、今逃せば、ヤツは———!




「……クソ野郎……っ!!……待ちやがれーーっ!!」






「……俺様の勝ちだ……生きてりゃ俺様の勝ちさ……


 立ち上がろうとしている死に損ないが4人……がしかし、俺の勝利に揺るぎはなし……


 揺るぎはしないさ……いずれヤツは、()()()は必ずこの手で……殺す……殺して……本気で、1対1で殺し合って……!」









『いいえ、勝つのは……僕()()です!』


 砂埃すら微動だにしないほど繊細で、なおかつその電撃のような猛スピードで、クラッシャーを蹴り上げていたのは。





「……こちらセン、ただ今戻りました……!」


 背に緑の魔力翼を生やし、謎の鎧を着た、センだった。

 まさに、天使のようで。

 それでいて、龍の翼のような壮大な魔力翼。


 決着はついた。

 勝ったのは、俺たちだ。








◆◇◆◇◆◇◆◇



 結果として、王都内部へと入り込めた敵は2人のみであり(ただの兵士とクラッシャー本人)、民間人の犠牲無しでの勝利となった。


 ……民間人の犠牲は、無しだ。

「民間人」は。


 センは……まだ無事だが、兄さん、レイ共に重傷。


 (本人もかなりの重症だが)コックによると、回復の見込みはあり、身体に重大な欠損も見られず、魔力器官も生きているとのこと。



 ……サナは。


 あの時、巨大な鉄の針に貫かれたサナはどうなったかと言うと。



「死んだ……のか。死んだのか、サナは」


 もはや、その顔を直視することすら、俺は拒んでいたのかもしれない。


 死んだ? アイツが?

 何たって……めちゃくちゃ強いだろ? 最強つっても過言じゃない、アイツが死んだ?


 そんな……そんなわけ、ないだろ。



 その、血の紅に染まった体を、そっと抱き抱える。


 信じられない。

 信じられない。あそこまで、あんなにまで呆気なく終わってもいいのかよ、お前が。


「マスター……これは私の失態でございます……責任は私が負うべきで……」



 ちがう、コック。

 ちがう、ちがうんだ。そんなものはどうでもいい。責任なんて、誰が負おうが関係ない。


「…………っ!」


 すやすや寝てたり……するだけなんじゃないのか。

 そんなにおとなしくしてるんだから、ちょっと眠ってるだけとかさ……!


「息は……ないです」


 ———。



「脈も………………ない。完全に、止まってます。


 …………コレが、どういうことか———、」


 センの言わんとすることはわかった。

 いいや、わかっていたんだ。



「知ってる…………知ってるよ、知ってるさ、そんなことぉっ!!!!


 ……ちくしょう、ちくしょう……っ、うおあああああああああーーーーーーーっ!!


 俺は……一体、何のために戦っていたんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!!!!!!」



 黒の家で見つけた、俺の戦う理由。俺の存在意義、今の俺を支える『芯』。

『大切だと思ってきた人々を護る為に』———、そんな俺の芯は、もうボロボロに砕け散っていた。





「……なあサナ、責任って、あの時言った責任って、何なのか話してないだろ。


 なあ、お前さ、俺に生きろって、そう願ったよな、だったら何で、先に死ぬんだよ……!」


 ———ああ、ダメだ。何をどうしても、想いが止まらない。


 みっともない。カッコ悪すぎる。あまりにも恥ずかしい。———そんな感情など、微塵も湧かないくらいに、もう。



「もっと……もっといい終わり方は……なかったのかよ……な……お前はウィザードだろ……後方支援が役割だろ……! 


 なあ、何でお前は、自分より他人の命を優先するんだよ……口だけじゃ自分の命大事みたいに言うくせに……何でいつも……他人優先なんだよ……!!


 いいじゃんか……ちょっとくらい……わがまま言ったって……今だけは生きさせて、お願い、今だけは生きさせてって……!


 ……お前は、色んな人の命を救ってきたんだ、そんなわがままを言う資格だってあるはずだ……!


 なのに、なのに何で、最後の最後までその……くだらない理想に満ちた生き方を……貫いたんだよ……!」





 想いが溢れ出す。

 大粒の涙と共に。

 ———泣いているんだ。泣けているんだ、俺。


 ただ人を殺すだけじゃなく。ただ人を斬るだけじゃなく。


 こうして———泣けるんだ、俺って。





 ———ああ。


「コックや……センや……そいつらがどうなったっていい訳じゃない……


 でも、でもお前は、俺を何度も何度も立ち直らせてくれて……だからお前は特別なんだよ……他の仲間の、誰よりも……!




 …………生き返ってくれって無理には言わない。言えない。だけどもし、もしも、もしも願いが…………叶うなら———!」





 



 願い。

 とおい、とおい、昔。

 誰かが、同じようなものを願った気がした。



 ———そんな、懐かしい気がして。





 ああ、そうだ。

 黒の家の中。2年間眠り続けてきた俺は、その時にそんなユメを見たんだ。


 今ならば分かる。

 アレは……アレも、俺なんだ。

 きっと『前』の俺。ザ・オールマイティ、その先代の継承者。


 きっとこうして繋がってきたんだ、誰も彼も。だから『ヘファイストス神殿国』なんて、俺たちセイバーの家の者を一纏めにする国すらできた。



 何のためか、誰がそうしたのか。そんなものは分からないけど。


 それでも俺は、その前の継承者さんみたいに、祈ったんだ。願ったんだ。



 愛していた。

 その言葉を、伝えられなかった。


 ……それもあるけど、やっぱり俺は…………アイツに、生きていてほしかったんだ。

 生きていて、そして幸せでいてほしかった。




 そう、願ったんだ。


 


◆◇◆◇◆◇◆◇


 



 ……もう、泣き疲れた。

 何分泣いていた? 何時間泣いていた?……いいや、そこまで時間は経っていないかもしれない。


 でもやっぱり、受け入れることなんて到底無理だった。


 折り合いなんてつけられない。それこそ、もうここから離れたら、サナがどこにもいなくなってしまいそうで———。








 ———ああ、そうか。

 もう、いないんだ。



「ああ…………っ、うう……っ……!」


 横になったままの、その眠りについた顔を見つめる。

 もう二度と目覚めることのないその瞳を、今一度見つめて。










『……なに、キスでもする気?』




 ———ああ、なかなかどうして酷いことをする。

 何でそんなことするんだよ、幻聴を俺に聞かせるだなんて、嫌がらせでもやっていいことと悪いことが———、



『ねえ。いや、あの、ねえ……聞いてる?』


 嫌だ。目を開きたくない。

 この幻聴が。このコエが、偽物のものだって分かってしまうなら。



『ちょっと?…………ねえ、ちょっと!

 無視され続けながらキスなんてそんなの嫌よ! 何でそんな強姦みたいなことされなきゃいけないわけ?!


 ねえ、分かったならうんとかすんとか言ってよ、ねえっ!!!!』





 ———いや、この声は。


 縋って、いいのか。

 そんな幻想に、縋ってみせても、いいのか。




 ———開けるぞ。



「…………っ!」



 瞼が開いた視界に入ってきたのは、サナの———、サナの……アレ?



「あび……あび…………ぶ……」




 ———何だか、身体全体が……寒いと言うか、冷たいと言うか、コレ何……氷?!?!






『…………ちょっとはそこで、しばらく頭冷やしてなさい』





「ぁ…………ぁぅ……!」





 溢れた涙諸共、俺の体は氷に閉ざされていた———!



 でも。

 その氷の奥にいたのは…………


 その奥にいた、こちらから目を逸らし続けている、はにかんだ少女の正体は———、




 そう、か……

 生きていて…………くれたんだ…………!!

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